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    yayoi1515

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    yayoi1515

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    文字も投稿できると見かけたので試しに。

    現パロ社会人ジャミカリ。
    転生要素はありません。

    毎週金曜日の夜は定時で帰ることにしている。
    同僚は俺に彼女がいるとか恋人がいるとか勝手に騒いでいるが、ちょうどいいのでその噂をそのまま利用している。噂は半分当たりで半分ハズレだ。
    駅から徒歩五分圏内にそびえ立つ高層マンション。
    周囲にはコンビニもスーパーも揃っており、繁華街の中心地からは駅三つ離れているので治安も良く、住環境としては申し分ない。
    そんなマンションの、鏡のように磨かれて光っているエントランスの入口で、預かっているカードキーでオートロックを解除し、中に入るのも慣れたものだ。高速で静かに動くエレベーターの中で、食材が詰め込まれた不釣り合いなナイロン製のエコバッグを肩にかけ直す。
    軽いベルの音と共に扉が開いた。到着したのはマンションの最上階。
    廊下に敷かれた絨毯が足音を消すので、ただでさえ静かなフロアには何の音も響かない。
    重厚な作りのドアをカードキーで開くと玄関は真っ暗だった。
    手探りでスイッチを探し、手当り次第に明かりを付ける。電気代を払うのは俺ではないので遠慮なんかしない。
    辿り着いた先のリビングルームは散々な有様だった。
    空のペットボトルがテーブルにボーリングのピンのように並べられ、脱ぎ捨てられた服がソファに置かれている。口を酸っぱくして、床に物は置くなと言い続けたおかげか、それは守られていた。ホコリが無いのはロボット掃除機のおかげなので、充電スペースにいるそいつに良くやったと賛辞をおくる。
    いつも通り洗濯機を回してから食事の準備に取り掛かろう。
    そう決めてエコバッグをキッチンに置き、ソファの衣類を回収しようとして、部屋に不釣り合いな雑誌がリビングテーブルの上にあるのを見つけた。
    経済新聞の横にあるのは数冊の女性誌で、何故か丁寧に付箋までついている。
    その付箋付きのページを開き、俺は顔を覆いたくなった。
    勤務先であるヘアサロンと、モデルの担当美容師として自分の名前が載っている。まさかと他の雑誌も開いてみれば、同じように自分の名前が書かれていた。三冊目なんて本当に小さな記事なのに、なんとも目敏い。
    あいつのこういう所が本当にキライだ。
    雑誌を投げるようにソファに置き、足早に奥の部屋へと向かう。
    ノックもなしに扉を開けば、案の定部屋の中は真っ暗だった。
    窓からは素晴らしい夜景とライトアップされた首都のシンボルタワーが良く見えているが、それらに背を向けて家主は二台あるパソコンの画面を、ブルーライトカットの施された眼鏡レンズ越しに睨みつけていた。
    その光にぼんやりと照らされた髪はボサボサで、シャツの襟はよれている。襟首伸び放題のスウェットではないだけマシだ。
    誰もこいつが年に数億円を稼ぐトレーダーだとは思わないだろう。
    部屋の明かりを付ければ窓の外の夜景は消え、驚いた紅玉色の瞳がこちらに向けられた。

    「えっ!?あれっ!!?」

    時計と俺の顔を見比べたかと思うと、くしゃりと表情が歪む。

    「ジャミル~腹減った~」
    「だろうな」
    「あっ、でも朝は食ったんだぜ!」

    トゲトゲしい俺の空気を悟ったのか必死に言い訳をする腐れ縁の男に近付くと、有無を言わさず椅子から立ち上がらせて、そのまま胸にかき抱いた。
    仕事となると食事をとるのを忘れるのは自分もだが、こいつはもっとたちが悪い。
    昔からふわふわとしていて、あまり生に執着をしていないように見えてしまう。
    現にこのマンションだって、俺が来るなら駅から近い方がいいだろうという、それだけの理由で選んでいるし、家具だって選ぶのが面倒だからと展示で備え付けられていたものを、そのまま購入したのだ。
    この家で唯一カリムが自分で選んだものは、寝室にある馬鹿みたいにデカいベッドだけだ。
    その当時のことを思い出して、思わず肺が空になるような溜息を吐けば、恐る恐る腕が背中に回された。

    「ベッド、行くか?」

    カリムが俺の機嫌をとる常套手段だ。
    顔を見たら負けだ。今日はお前に言いたい事が山のようにあるんだ。
    部屋の掃除の件と、食事の件と、身だしなみと、それから。……それから、あの雑誌の件。
    付箋が付いているという事は、またカラーコピーしてファイルに綴じているだろう、お前。
    掃除中に偶然見付けて、こっちは死ぬほど恥ずかしかったんだ。せめて本人にはバレないようにしろと言ったじゃないか。

    「ジャミル……?」

    不安そうに、てしてしと背中を叩かれる。
    ああもう、全部、お前のせいだ。
    背中に回していた右手で細い顎を掬い、返事の代わりと、噛み付くように唇を塞いだ。
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    yayoi1515

    TRAINING文字も投稿できると見かけたので試しに。

    現パロ社会人ジャミカリ。
    転生要素はありません。
    毎週金曜日の夜は定時で帰ることにしている。
    同僚は俺に彼女がいるとか恋人がいるとか勝手に騒いでいるが、ちょうどいいのでその噂をそのまま利用している。噂は半分当たりで半分ハズレだ。
    駅から徒歩五分圏内にそびえ立つ高層マンション。
    周囲にはコンビニもスーパーも揃っており、繁華街の中心地からは駅三つ離れているので治安も良く、住環境としては申し分ない。
    そんなマンションの、鏡のように磨かれて光っているエントランスの入口で、預かっているカードキーでオートロックを解除し、中に入るのも慣れたものだ。高速で静かに動くエレベーターの中で、食材が詰め込まれた不釣り合いなナイロン製のエコバッグを肩にかけ直す。
    軽いベルの音と共に扉が開いた。到着したのはマンションの最上階。
    廊下に敷かれた絨毯が足音を消すので、ただでさえ静かなフロアには何の音も響かない。
    重厚な作りのドアをカードキーで開くと玄関は真っ暗だった。
    手探りでスイッチを探し、手当り次第に明かりを付ける。電気代を払うのは俺ではないので遠慮なんかしない。
    辿り着いた先のリビングルームは散々な有様だった。
    空のペットボトルがテーブルにボーリングのピンのよ 1874

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