尽くしたがりの恋人 12月24日といえば待ちに待ったクリスマスイブである。街は赤と緑で彩られ、どこか浮ついた空気に湧き立つ人々の表情は明るい。例に漏れず夏油もまた、柄にもなく今日という日を楽しみにしていた。目の前にいる男のおかげでその気持ちもどこかへ吹き飛んでしまったのだが。
「それ何」
「こ、転んだ……」
「転んでそんな怪我する?」
「凄い転んだ……」
「君は頭良いんだから吐くならもう少しマシな嘘吐きなよ」
「…………」
場所は渋谷の某忠犬像から少し離れた位置。この辺りはどこもかしこも待ち合わせで人がごった返しているのだが、ただでさえ図体のデカい男がプレッシャーを放っているせいか、人々が避けて通っていく。だが、夏油はそんなことは知らないとばかりに目の前の男へ怒りの波動を放ち続ける。痛々しくガーゼや眼帯で覆われた顔が、気まずそうに逸らされた。
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