狂い咲く花は風を乱吹く12「やめろ…やめろ、ッ…やめてくれ…っ」
見えない手がドゥリーヨダナの身体を弄り回す、肌だけではなく内臓に入り、異物がドゥリーヨダナの体内に入り、中身を躊躇なく容赦なく触り、痛みと不快感しかなかった。
これは初めての事ではなかった。
生前にもこれに似たような経験を幼少の頃からし、悪夢だと自己完結していた。医者に言っても誰にこの事を相談しようとも答えはな得なかったのだ。
それにドゥリーヨダナの特殊な出生(凶兆の子)の事もあり、あまりこれを大ごとにすると、またそれを嗅ぎつけたハイエナ達が自分の立場を無くそうとする。
愛する両親にも、長兄としてこれ以上迷惑は掛けられないと、ずっと隠し我慢していた。
「ま、さか…貴様等、だったのか…ッ!
何なのだ、お前達は一体何なのだ?!」
お前ノ□□主を忘れたのかい?□□□□□□
ギラリと大きな目玉が暗闇から覗く。
「ヒッ」
自分の身長よりも大きい巨大な瞳が近づいてくる。
恐怖でドゥリーヨダナの心臓がどくどくと早鐘を打つ。
うっすらと脳裏に風神の子が思い浮かんだのを…見られた。
何故?何故お前はヴァーユの子に助けを求める?
「!」
ヨダナは思わず息を止めた。
「…違う、な、な何故わし様がバカビーマにそんな事をする?!わし様に恥をかかせる気かッ!!そのような狂言は万死に処す!!」
少し静かにしようか
大目玉の色が変わる。先ほどまでは人間の瞳のように白い眼球に黒の瞳が、青の眼球に黄金とショッキングピンクへと変わった。
その変化にドゥリーヨダナの体の力が急に抜けた。
呼吸とはどうやってやるのだろうか。
声を発するというのはこんなにも難しいことであっただろうか。
大目玉は満足そうに瞳を細める。
ああ、完璧に作り上げた人形なのに何故か途中からおかしくなっていって、最後はいつ壊れるのかハラハラしていたが、完璧に□□を果たしてくれた。
人間というのは本当に興味深い。
完璧の人形が、他の人間と接触してからというもの、歪な方へと狂っていく。
面白い□□い
だからこそ、人類は継続していかなければいけない。
こんな面白い狂った歪な種が絶滅するのはとても惜しい。
だから人類よ、我々はお前達に□□を贈ろう
これで異星の侵略者を倒し、汝等の生存を継続するのだ!
巨大な目玉は興奮するかのように、眼球が飛び出しそうなくらいに見開いた。
その時にシュンと何かが召喚され、それがその目玉めがけて飛ばされた。
!!!!!
…
…
目玉にそれが衝突すると、獣のような得体の知れない「何か」の叫び声が色んな所から何重にも響く。
まるで泥が水によって洗い流されるように暗闇が追い払われる。
「今だ、ドゥフシャーサナ、ヴィカルナ!!」
すると一人の男がドゥリーヨダナの体から飛び出て、何かを大切そうに抱えながら全速力で爆走した。
…ドゥリーヨダナ、なにをした?
「………」
ドゥリーヨダナを口を強く閉ざした。大きな瞳は目を閉じると、暗闇が戻り見えない手がドゥリーヨダナの体を弄んだ。
「ぅ…あ“ぁ“ぁっ!」
脳を直で弄り回しているからか、激痛とまるで体が焼けた鉄に焼かれるような感覚を覚えた。
…内包していた弟妹達を引き離したのか。
「はっ…」
まるでザマァみろとでもいうかのようにドゥリーヨダナは笑った。
そしてその笑みはすぐに剥ぎ取られてしまった。
グチャ
見えない手がドゥリーヨダナの体内を貫通し、呪いを唱えた。
さぁ創ろう
異星から降臨する復讐者達に立ち向かえるように
この星から生まれる災害を退けられるように
混沌の泥を浄化して、世界を新しく生まれ変われるように
さぁ堕ちなさい、堕ちなさい、スヨーダナ
>>>>>>
助ケて
□□□
□□マ…!
巨大なカリは向かう、英雄の元へと
僅かに感じる魔力の残滓を追って
クルシイ
イタイ
ビ□□
英雄の名を呼ぶ言葉は獣の咆吼に変わって、ドゥリーヨダナは己の声に驚いた。
ふと眼前を見るとそこには求めていた英雄が立っていた
-ーーーーーー「チッ」
するとその英雄は自分に向かって躊躇なく旗槍で突き刺した
あああ”あ”アアア”ああああああアアアアアアアア
ヴァーユの槍には風が巻きついており、それが貫通した穴に巻きつき傷を広げる。
ビーま、ど、うしテ…
痛みと悲しみの感情がドゥリーヨダナを支配した
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマビーマ
ドゥリーヨダナの体を槍で大地に固定すると、ビーマはそのまま腕を力づくで引っ張りそれを千切り取った
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
悲鳴を上げるが、その声はビーマには届かない。
ドゥリーヨダナはちぎり取られた、己の腕を見た。
それは人外の、カリの大きな紫の腕だった。
…そうか
すると、ドゥリーヨダナは大人しくなった。
ビーマは強くて正しい英雄だ
だからドゥリーヨダナ(悪)は助けない、倒さなければいけない
いや、もう今の自分はもうドゥリーヨダナではなく、ただの化け物(悪)だ
だから
その考えの果てに、例え腕や足が捥れても痛みはもう感じなくなった。
絶体絶命だというのに何故か頭ははっきりとしていて、とても冷静だった。
ああ、もうこれは駄目だ。
こんな所で自分は死ぬのか、あーあ。
生前に半神ガンダルヴァに囚われた時のように。しかし今回、英雄ビーマの救助は来ない。
せめて
(せめて、クシャトリヤとして、止めを刺してくれ…)
「はっ、物分かりの良い害獣だ、な!」
ザシュ
ビーマはカリの首を斬り落すと、そのまま前へと進む。
「スヨーダナ!」
ビーマの言葉がドゥリーヨダナの耳にはっきりと届いた。
ハハ
また「スヨーダナ」か
そんなに「スヨーダナ」の方がいいのか
まさか自分に嫉妬するとは
ああ…今回も「自分」は選ばれなかったのだな