【5】
「渚さん、お早う。今朝はお仕事?」
見慣れぬ貴婦人に声を掛けられ、はあ、と情けない声が出た。どうして僕の名前を知っているのだろう。手元にゴミ袋があるので──今日は不燃ゴミの日だった──恐らく同じマンションの住人だろう。
不思議に思ったのを察されたのだろうか。ごめんなさいね、と前置きして続ける。
「上の階の高田です。シンジくんのルームメイトよね?」
「ああ。はい、そうです。おはようございます」
そういえば挨拶をしそびれたので、慌てて付け足した。
「最近越してきて、挨拶もなくすみません。シンジくんのお知り合い……ですか?」
「いいのよ。近頃は引っ越しの挨拶をするご時世でもないじゃない? 物騒だからって郵便受けにすら表札がないし」
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