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    るぶ この後任意の諸々をするので各々補完してください

    THE 虎牙道に数ヶ月後に上演される歴史上の出来事をモチーフにした舞台のオファーが来た。アクションシーンもたっぷりな上に重厚なシナリオ、豪華な舞台演出等見所満載のエンターテイメントになると、プロデューサーは息巻いて台本の草案をメンバーに手渡した。
    パラパラと目に入る人名は、あまり聞いたことのないもので、モチーフとなった出来事も硲から貰った日本史の資料集で名前を見た程度。の印象しかなかった。
    オダノブナガとか、サカモトリョウマとかだったらまだ分かるが、自分があまり知らない出来事の話である。言葉の意味や歴史の流れを知ってから稽古に挑みたいとタケルは思い立った。

    幸いこの事務所には豊富な知識を持つ人材がたくさん居る。同い年で、頭脳を使うのが得意だと自負している男の事をすぐに思い出したタケルは冊子を片手に事務所に赴いた。
    思った通り、珍しく髪を下ろし、事務所のソファで分厚い文庫本を読んでいる玄武に、タケルは声を掛ける。
    「玄武さん、今度この舞台に出ることになったんだ。俺が演じる役にもたくさんブンケンが残っていると聞いたから気になって。色々教えてくれないか」
    タケルが手渡す冊子を、玄武は節の目立つ白い手で受け取る。
    タイトルを一瞥しただけで、どの時代がテーマになっているのか理解したのか、玄武はスマホを取り出した。
    「当然至極。ただこの人物に関する文献は多すぎる。本屋で有象無象を見るよりは、図書館で先に調べたほうが良さげだな。明日休みだろ?行く前に調べておこう」
    「すぐ図書館に行かなくて良いのか」
    「今はネットでどの本があるのか、貸出中なのか分かるんだ」
    「そうなのか 図書館には行くようになったけど、本の探し方とかはまだわからないことが多いな。番号とか多くて、ややこしいと思う」
    前にも仕事で必要な本を探しに行ったことがあるが、静かな知の倉庫に圧倒されて、何も借りれずに帰ったことがあるタケルにとって、本に詳しい人が近くにいる事はとてもありがたかった。
    「司書も居るし、本の分類なんかは一希アニさんや俺に聞けば分かるはずだ。いつでも聞いてくれ」
    いつのまにかスマホで本の在庫を確認してくれた玄武は、情報をLINKで送信し終えると、続きを読もうと文庫本をまた手に取った。
    「ありがとう 玄武さんは頼もしいな」
    通知を確認してタケルも台本と向き合う。四季と隼人が課題を玄武に聞きに来るまで静かな時間が事務所には流れていた。



    事前に調べた通り、タケルが読みたかった本は図書館にあった。2週間で読みきれそうな、普通の書店には中々置いていないという薄手の冊子を何冊か借りることが出来た。
    それと付随して、普段は貸し出しをしていないような文献も司書がよろしければ、とコピーしてくれた。
    何も考えずに本屋に行ったとして、この情報たちにたどり着くことが出来ただろうか?玄武や司書が文献についてやり取りしているのをぼんやりと聞きながら、タケルはコピーしたてでまだ少しだけ温い、つるつるしたコピー用紙を眺めた。
    玄武も次の仕事で勉強したいものがある。と、何冊か本を借りた様子だった。カバンに本を閉まった玄武は時間を確認すると、外は明るいが遅い時間になっていた。
    「もう閉館時間か」
    玄武は貸し出しカードに記載されていた開館時間を確認する。
    遅いといってもまだ夕方過ぎだ。ここで解散というのも、なんだか名残惜しい気がしたタケルは、出口へ向かう玄武を小声で呼び止めた。
    「硲さんから貰った問題集を解き終わったから、新しいやつが欲しい。一緒に選んでくれないか」
    「勿論だぜ」
    当意即妙。玄武に駆け足で寄ったタケルは、カバンから端のよれたテキストを引っ張り出す。
    「これを解き終わったら次はどれを見れば良い?」
    問題集はまず3周する。硲の教えをきっちり守ったタケルは、空き時間や休みを利用して、ついに先日4周目を終えたところだった。自分の年齢より対象は低めの内容だが、アイドルを始めてから取り組んだと思うと、我ながらちゃんと進んでいて偉い。とタケルは内心嬉しくなった。
    「それなら類アニさんが勧めていたものが良さげだな」
    駅ではなく本屋に歩みを進めながら、調べたこと、その前後の歴史のこと、何気ない最近の事などを2人は話す。
    普段はあまり仕事で一緒にならない事もあるが、勉強をきっかけにタケルと玄武は事務所内でよく話すようになり、深い仲になっていっていた。

    舞田が勧めていたという問題集を手に取ったタケルはそのままレジへと向かう。アルバイトの学生は2人に気付いているようでチラチラと目線をあげていたが、特に何も言われないまま会計を済ます。最近はメガネと帽子で変装しているが、玄武の長身はなかなか隠しきれない為か、2人でいると声を掛けられる事が増えた。
    何にせよ、自分に実力がついたという事だろう。とタケルは丁寧にカバーをかけてもらった問題集をカバンにしまった。



    結局すぐに解散するのも何だか名残惜しいと、2人はタケルの部屋に赴き、帰りに寄ったスーパーで買った出来合いをつつきながら、何でもない話に花を咲かせていた。
    ふとテレビを観ると、桜庭とアスランが2人でクイズ番組に出演していた。事務所の同い年だが、普段あまり見ない組み合わせでどうなるかスタジオは興味に包まれているが、そんな空気をものともせず、2人ともさっきからお互いの得意分野で連続正解を続けている。
    テレビを見ながら難問をどんどん当てる玄武をタケルは尊敬の眼差しで見つめる。
    「やっぱり玄武さんは何でも知っててすごい」
    「不浄不屈の精神で勉学に打ち込んできたからな。でもタケルがずっとストイックにボクシングに励んでいるのもすごいと思うぜ」
    テレビの中では最終問題をアスランが見事正解をして、315プロチームは総合優勝を果たした。最近薫とアスランがよく話しているのを見かけるのはこの番組がきっかけだったらしい。
    区切りの良いところでタケルはテレビを消した。急に6畳の部屋は静寂に包まれる。
    「頭使うの、苦手だから」
    ぽつりと溢す。自信はついているが、実際に自分より学力のある人間のすごさを目の当たりにすると、尊敬と少しの羨望が混ざって複雑な気持ちなにる。
    「それは克服していけばいいだけだろ。現に今こうやって俺やアニさん方を頼って勉強してくれている」
    買ったばかりの問題集と、ノートの束を一瞥して玄武は答える。
    「…そうだな」
    「明日タケルも俺も午後からだろう。文献をまとめる時間はたっぷりありそうだな」
    そう言い、玄武は立ち上がって自分の部屋に戻ろうとする。
    同じ建物に住んでいるとはいえ、自室とは勝手が色々と違う。今日は帰って準備をして、また明日タケルと勉強をしようと狭い三和土でブーツに足を入れようとした玄武の腕をタケルは掴んだ。
    ほんの3歩くらいの距離。掴むのは可能だが掴む理由が分からない。薄墨色の目が困惑を浮かべていると、タケルは視線を玄武に向けた。
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