cute! ロナルド君は可愛いものが好きだ。
猫耳が生えただけの生き物を可愛いと言い、ハロウィンのかぼちゃの見た目が可愛いと愛情を注ぎまくった結果自我を持たせ、未確認生物を少年のような顔で捕獲してきては可愛いから飼うと持ち帰り、私の使い魔たるアルマジロのジョンを見ては可愛いと餌付けしたがる。
本人はハードボイルドを気取っているが、そんなことは全然ない。表情豊かで、ちょっとおバカで、脳筋で。そんな彼は、可愛い生き物を前にすると垂れた目を更に下げ、柔らかい笑みを浮かべるのだ。
今だって私の城に来ているというのに、かぼちゃに寄り添われ、ツチノコを肩に乗せ、膝の上に転がしたジョンのお腹を緩んだ表情で撫でている。出したお茶はとうに冷めているし、お茶菓子にも手をつけていない。家主たる私のことなんて、お茶よりも長いことずっと放置。
「ねえ、ロナルド君」
「んー?」
名前を呼んでも、返ってくるのは生返事。こちらを向きもしない。テーブルを挟んで真ん前に座っているのだから、ちょっと目線を上げてくれるだけでいいというのに。
「ねえってば」
「なんだよ、今ジョンと遊んでんのに」
チラリと私をひと睨みして、ロナルド君の視線がまた下へとさがる。すぐそばに居るのに、今日はまともに話すらできていない。私にも笑顔を見せてほしい。隣に寄り添いたい。三匹だけその手に触れられるなんて、ずるいではないか。
「私だって⋯!」
塵にならないように気をつけつつ、両手を強く握って太ももに打ち付け、声を張り上げる。
「一族のみんなに、可愛いって言われてるんだから!」
「⋯は?」
「ヌ?」
全員の視線が一気にこちらを向く。ああ、ようやく見てくれた。
「昔っから、お前は可愛いねって言われて育ってきたし。今だって、お父様は私が一番可愛いって言うもの」
青の瞳がまん丸く開かれて、何度も瞬きを繰り返す。
「小さいコウモリにだって変身できるし、ジョンのお腹にも負けないくらい胸毛はふわふわだ!見た目だって、私がベースなんだからそりゃあもう可愛い!」
考えるより前に、言葉が口から次から次へと溢れ出す。私は、何を言っているのだろう。
「ぜぇ⋯ぜぇ⋯」
一気にまくし立てたものだから、息が上がる。呼吸を整えている私の前で、ロナルド君と三匹の首が同じ方向に傾き、ころりとかぼちゃが横に転がった。
「すぅ⋯私だって、可愛いんだから!構ってよ!」
大きく深呼吸して、最後の一言。そうだ、私は可愛いんだから、三匹と同じくらい。いや、三匹よりも、もっとたくさん構うべきだ。
ねえ、私だけを見て。手を繋ぎたい。手袋越しじゃない体温はどれだけ温かいのだろう。その長いまつ毛は何本あるの。真昼の空みたいな瞳が欲しい⋯あれ?
「ふはっ」
渦巻く思考の中、荒い息を吐きロナルド君を見つめていると、気の抜けた顔がくしゃりと崩れ、開いた唇から吹き出すような笑い声が漏れる。
「ははっ!なんだよ、お前。俺に構って貰えなくて拗ねてんのか」
とろりと空が溶けて、唇が緩やかな弧を描く。
「意外と可愛いところもあるじゃねえか」
初めて私に向けられた、砂糖を煮詰めたような甘い瞳に、心臓がどくりと大きく跳ねた。
胸の鼓動が耳の奥に響く。血の気のない頬が、いや、頬どころか耳と首まで熱い。なんだこれ。
「あ?おい、なんだいきなり!」
耳の端からざらざらと身体が崩れ、一際大きな鼓動と共に、全身が塵になる。
「構えって言ったくせに、なに死んでんだよ。ロナルド様の時間は高いんだぜ」
ガサツな足音に尊大な言葉、いたずらに塵をかき混ぜる手すらも可愛いと思うなんて、私は頭がおかしくなってしまったらしい。
「ったく、しかたねーな。そもそも、毎回復活するまで何時間も傍で構ってやってるだろ」
大きな衝撃と風圧で、塵が飛び散る。なんの前触れもなく私に倒れてきたロナルド君に潰され、塵を掠める吐息はくすぐったいし、その重みは復活の邪魔にしかならない。
「なあドラルク、もっと俺を欲しがれよ。目の前であいつらを甘やかすだけじゃ、まだ足りないか?」
くつくつと笑い、塵に直接吹き込まれる声音は甘く、少し意地悪な感じだ。広がった全身でロナルド君の体温を感じ、塵の一粒まで、全てが心臓になってしまったかのように、動悸が止まらない。
こんなことは初めてだ。私は、どうしてしまったのだろう。