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    genmaihakumai14

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    genmaihakumai14

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    『天上天下三井独尊6』
    流三(全年齢対象)
    まだ付き合ってない流三。流三未満。

    the gift of MITSUI「あの・・・三井先輩、ちょっとすみません。いいですか?」

     放課後の駐輪場手前で、三井は1年生の女子生徒3人に囲まれていた。三井が歩いてくるのを、自転車にまたがってぼんやりと眺めていた流川は、小さく舌打ちをする。
     期末テスト期間中で部活はなかった。毎回テスト結果が芳しくない流川は、バスケの自主練も禁止されている。

    「ん?流川なら駐輪場にいるぜ。ほら、あそこ」
     声を掛けてきたのが1年の女子生徒だったためか、お目当ては流川だろうとこちらを指差し三井がそう返すのが聞こえた。
    「あ・・・えっと・・・私たち三井先輩に用があるんです」
     背の高い女子がきっぱりと答えた。確かクラスメイトだったような気がする。見覚えがあった。

    「え⁈オレに?・・・何?」
     三井は声が大きい。そしてその声はよく通る。会話は筒抜けだ。三井の声音は好きだが、話している内容は何となく気に入らない。

    「私たち三井さんのファンなんです。これ受け取ってください!」
     3人の中で一番度胸がありそうなポニーテールの女子がハキハキと言って、綺麗にラッピングされた袋を三井に差し出した。
    「あ、ごめんなさい。彼女さんいないって聞いたので・・・迷惑じゃなかったら」
     大人しそうな眼鏡の女子が、三井の顔を恐る恐る伺うように見上げた。

     ―先輩に彼女はいないのか?―
    重要な情報だ。声が小さいからよく聞き取れない。眼鏡女子に流川は勝手に苛ついた。

     一瞬キョトンとその大きな目を見開いていた三井だが、こういう事態には慣れているのだろう。素直に贈り物を受け取った。
    「ありがとな。開けてみていいか?」
    「「「はいっ!」」」
     3人組は見事にハモった。彼女たちは目を輝かせて、三井の指が赤いリボンをほどくさまを見守っている。

    「おお!マフラーと手袋じゃん。いい色だな」
     さっそくマフラーをくるくると首に巻き、手袋を嵌めて、三井はとびきりの笑顔をつくった。
     思わず高い声が出てしまったのだろう、長身のクラスメイトが
    「きゃあ~!カッコいいです、三井先輩!」
     と叫ぶと、ポニーテールも
    「似合います~!マジでこっちの色にしてよかったぁ。3人でめっちゃ悩んで選びました!あ~ん、使い捨てカメラ持ってくればよかったな」
     眼鏡は余程嬉しいのか、こくこくと頷き眼鏡を外して目元を拭っている。泣いているのか?オオゲサな。

    ―早く先輩を解放しろ。ムカつく―

     耳に突っ込んだウォークマンのイヤホン。しかし三井たちが気になってずっと一時停止のままだ。

    『この曲いいな。カセットテープのCMにも使われてたよな。へえ~お前CD持ってんの?貸してくれよ』

     昨日そう言っていたから、これだけは忘れず持ってきたというのに。女子生徒にやすやすと捉って、簡単にプレゼントを受け取り、有頂天な三井に流川の心中は穏やかではない。
     この状況は面白くないが、三井を置いて先に帰るという選択肢はなかった。
     それは試合を放り出して逃げるのと一緒だからだ。

     いつまで話してやがる。このおしゃべり。早くこっちへ来いよ。いいかげんクロックバイオレーションだろ。自転車のベルに指をかけたとき
    「ほんとサンキュー。流川が待ってっから、ごめんな」
     今やっとこちらの視線に気づいたらしい。3人組に手を振って三井が歩いてくる。

    「悪りぃ、待たせたな。あいつらなかなか放してくれなくてよ~。ほら見ろよこれ、いいだろ?マフラーと手袋。オレの好みわかってんな。センスあるぜ。このままして帰るっつったら、タグ付いてるからってオモチャみてえなハサミ出してさ、切り取ってくれたんだけど。こーんなちっちぇの」
     ソーイングセットの小さなハサミに、何故か三井ははしゃいでいる。流川はそんなものにはまったく興味はない。
    「背が高い子いたろ?あの子オレの中学の後輩なんだと。しかもバスケ部だったそーでよ。あの頃は人気あったからなオレは。なんせMVPだし。お前くらいには騒がれてたな、うん」
     そんなことどうでもいい。
     ただ三井の機嫌は損ねたくないので、会話を続けた。
    「あいつ同じクラスかもしんねーす。見たことある」
    「そっか!じゃあ、よろしく言っといてな。まあ、あの子たちはオレのファンで、オレのバスケを応援してくれてるってことだ」
    「よかったすね。人気者で」
    「そんな顔すんなって」
    「待ちくたびれた・・・」

     仏頂面の流川を見やり、三井はふっと微笑んで肩からさげたバッグのファスナーを開けた。
     そして革の手袋を取り出した。

    「ほら、これやるよ。オレのおさがり。ブルックスブラザーズのなんだぜ。まあ、お前はブランドとか知らねえだろうけどさ。羊の皮でデザインも洒落てるし、風は通さねえし。内側はカシミヤ100%だぞ」
    「ふうん」
    「おい、『ふうん』って何だよ。おさがりは嫌だってか?ほぼ新品なんだぜコレ。見た目きれいだろ」
    「何でそんないいものオレにくれるんすか。センパイのお気に入りなんでしょ」
    「・・・モテる俺様は、今さっきプレゼント貰っちまったし。たぶんこれからあの子らに毎日チェックされるからな。いただいたもんはちゃんと身に着けとかねぇと。感謝の気持ちが大事だ」

     すると三井は流川の手を取り、驚くほど優しい手つきで手袋を嵌めてくれた。
     突然のことに流川は息を止めてされるがままに固まった。

    「どうだ?あったかいだろ」
     上目遣いに見上げてくる至近距離の三井に、流川の止まった時はようやくゆっくり動き出す。
     内側のカシミアはふわふわと柔らかく、乾燥した手にしっとりとなじんだ。レザーの縫製は丁寧で、シンプルだけど洒落ていて、飽きがこなそうなデザインをしている。
    「その・・・軍手よりはマシだろ?」


    『え。流川の手袋ってそれ?』
    『っス。軍手。よく失くすから母親に束で渡された。右左ねえし。片方失くしても大丈夫だからって』
    『・・・すげえな。お前の母ちゃんのその発想。でも軍手ってなんつーか目が粗いだろ、指先とか冷たくなんねーの?』
    『真冬はこン中に伸びる手袋してる。それも左右ねえし。なんかいっぱいあってカラフル』
    『右が赤で左が黒とかあんの?ぷっ、湘北の色かよ』
     三井に爆笑されたのはつい先日のことだった。


    「それはお前にやるから。・・・じゃあ帰るとすっか」
    「あ。これ昨日言ってたバンドのアルバム。返してくれるのいつでもいいす」
    「おお。サンキュ!」
    「・・・先輩」
    「ん?」
    「手袋どうも」
    「おう。大切に使えよ。失くすんじゃねーぞ」

     女子にサプライズされたのがかなり嬉しかったに違いない。三井は流川の漕ぐ自転車の荷台で鼻歌をうたっている。
     ひとの気も知らないで。どんな顔してんだよ。
     可愛いとか綺麗とかよくわからないし、三井の好む異性のタイプも知らないけど、あの3人の中にもしも気に入った子がいたら・・・三井は付き合ってしまうかもしれない。そんなのは嫌だ。絶対に許せない。
     自分も三井に面と向かって、ファンです応援してます。いや、いっそのことアンタが好きだと伝えてみたい。今だって少しでも一緒にいたいから、遠回りして駅まで送って行くのに。

     三井から貰った革の手袋はとてもあたたかい。でも流川の胸は違う熱でちりちりと痛い。いつもの冷静な自分はどこへ行った。そんな据わりの悪い感情を振り払うように
    「センパイ、とばすから掴まってて」
     ペダルを勢いよく踏み込む。
     おわっ!と短く叫んでしがみついてきた三井の手。その愛しいはずの手は、女からの贈り物の手袋に包まれている。それを忌々しく思っている己の小ささに、流川は重たく息を吐いた。


    ***


     小さくなってゆく後輩の背中を見送る。いつも少しだけ名残惜しそうなその背中。時には自分の乗る列車がホームに入ってくるまで動かず、じっとこちらを見ていることがある。そのことに気づいてしまったのはいつからだろう。

    『流川の家って駅とは反対方向なんですよね~。あの子よっぽど・・・まあ三井先輩はお気づきでしょうけど。うふふ』
     彩子の含みを持った言い方に、なにがうふふだ油断ならねえ女。そう思ったのはまだ暑い季節だった。
     流川は自分のことを好いている。それは先輩に対する敬愛とか友愛とかそういうもののラインを超えて。
     確信したのは、風に秋の気配を強く感じ取れるようになってから。

     呼び止められプレゼントを渡されて、マフラーと手袋が出てきたときは、なんて自分はツイてる男なのかと神に感謝した。
     おさがりだと流川に渡した手袋は、これだ!と思って奮発して買ったものだ。セール品だったが今月の小遣いはすべて消えた。
     誰よりもしなやかにボールを扱う大きな手。長い指。冬のボールは硬く重たい。だから余計に指先の保護は大切だ。あかぎれやしもやけにならないように。流川を守ってやれるものをあげたかった。
     そして、さりげなく渡すタイミングを探していた。

     バスケ馬鹿の後輩だからこそ、バスケ以外の思い出も残してやりたい。自分はもうすぐ卒業してしまうから。手袋をする季節になったとき、バスケ以外の――自分との楽しかった帰り道を思い出してほしいから。
     けれど、わざわざ準備したプレゼントだと白状するのはまだ先がいい。あの初心で恋愛音痴のクールでかわいい後輩が、目をまんまるにして驚く顔が見たいのだ。 

     順風満帆で入学した高校。鳴り物入りで入部したバスケ部。大怪我と挫折した2年間。グレて想定外の体験もたくさんしたが、普通の高校生の青春もしたい。もちろんインターハイで山王を打ち負かしたことも、国体の選抜メンバーに招集されたのも忘れられない経験だ。
     でもベタで平凡な青春も謳歌してみたい。

     冬の選抜は翔陽が獲った。
     本音を言うと、もう少しだけ湘北バスケ部員として後輩たちとバスケがしたかった。
     大会は東京の会場で12月23日から1週間。翔陽を応援するべく三井も流川と連れ立って行く約束をしている。
     誘った時の流川の嬉しそうな顔は忘れられない。クリスマスだけど予定とかないのか?そう尋ねた自分に、二つ返事で「先輩と一緒に行く」そう言ったあの顔が。

     緒戦は24日だと藤真に聞いている。
     クリスマス・イブに浮かれた都会の人ごみの中、きらびやかな巨大ツリーの前で手袋の種明かしをしようと思っている。そんなシチュエーションもトレンディードラマみたいでいいよな。
     流川のやつ感極まって勢いで告白してこねーかな。自分は求められる方が好きだ。流川から告白されたら、もうはぐらかしたり焦らしたりはしない。
     なんせ高校生でいられるのはあと数か月なのだから。

    「オレ、あいつとキスくらいはしてえな。イブだもんな・・・」

     そう小さく呟いて、寒さからか照れからか赤く染まりつつある頬を、三井はマフラーに埋めた。完

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