ちいさなお願い。テルミナの宿屋で、小さな仲間が眠りに落ちたのを見計らい。
冷えないように、そっとシーツをかけ直してあげると。
セルジュは、ベッドに腰掛けてストレッチをしているカーシュにそっと声をかけた。
「今日、いっしょに寝てもいい…?」
いつもは恋人らしい振る舞いに恥じらいを見せるセルジュが、そんなことを言うなんて。
緋色の瞳が一瞬大きく見開いたが、断る理由なんてなかった。
口の端をほんの少し上げて、横になりながらもう一人眠れるスペースを確保するカーシュ。空いた所を二度手で軽く叩いて、『こっちへ来い』と促す。
セルジュは笑顔を浮かべながらベッドに腰掛ける。
ゆっくりと横になると、ふたりは一枚のシーツで包まれた。
元々シングルベッドなので、男ふたりで寝るには少し狭い。セルジュが落ちないように、右腕で腰を引き寄せて顔を見合わせられる程度に密着させる。
体の距離が近づくと、いつもは威勢の良い声が優しく微かにかけられる。
「なんかあったか?」
「えっと…単純に、一緒に寝たらどんな風なのかな、って知りたくて」
再び緋色の瞳が驚きで大きく見開く。驚きの表情を見て、少年は申し訳なさそうに頭を下げた。
「…ごめんなさい、子どもっぽいお願いして」
「…いや、別に構わねえよ。気になったんなら、しょうがねえな」
困った顔に左手を伸ばして、頭を撫でた。不安に染まった顔が、少しだけ和らぐ。
一緒のベッドで眠れるという千載一遇のチャンスに若干の下心はあったのだが、純粋すぎる願いの前で欲は掻き消える。ただ、一時期のセルジュの沈みようを思えばここまで心を開いてくれたことを、カーシュは嬉しく思った。
それに、『セルジュが望む存在になれるのは、俺しかいない』とも。
仲間で、気の置けない親友で、歳の離れた兄弟のような、お互いを支え合いながら、軽口も叩き合うことができるし、ときには愛し合い、与え合う存在。
「で、一緒に寝た感想はど…」
撫でながら感想を聞こうとしたら、海の色の青い瞳はいつの間にか閉じられ、穏やかな寝息を立てていた。
「って寝ちまったのか、相変わらず早えな…」
ベッドに入るとすぐに寝てしまうのはいつものことだが、誰かが隣にいても変わらないようだ。それだけセルジュが心を許してくれている証拠かもしれないし、日々の冒険で疲れているのかもしれないし、もしかしたらまだ恋人同士の振る舞いを知らないだけかもしれないけれども。
「…これくらいは、許してくれよな」
そう言って、そっと唇を重ねた。
本当はもう少しイチャついてみたいが、実った恋の形に正解はない。
むしろ、これを『恋』と呼ぶのが正解かどうかすらもわからないけれども。
少しずつ、関係性を重ねていけたらいい。
そう願いながら、腕の中の少年を強く抱きしめ、緋色の瞳も眠りに落ちていった。
翌朝。
「ねぇ、セーちゃん。今朝、なんでカーにつかまってたんだ?」
「えっ、リーア、起きてたの…?」
「リーア、いつも早起き! おひさまが登る頃に起きてる。けど、セーちゃんたちといっしょにいる時はおひさまが登った後にもういっかい寝てる!」
「そ、そうなんだ…あのね、リーア。その…カーシュに『つかまってた』こと、みんなには内緒だよ?」
「うん、わかった! 強いセーちゃんの頼みなら、リーア守る!」
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お父さんと一緒に寝た記憶がないからとか、好きなひとと寝てみたいとか、さまざまな理由が混ざってああなりました。
セルくんがおねだりできるようになった、って言うのが大きな一歩だと思います。
進みそうで進まない関係なのも良き。
セルジュ+カーシュ+リーアの擬似親子感好きです。
武器が同じ斧だし、リーアの合体技がドラゴンライドなので、勝手にカーシュに憧れてたらいいなと思ってます。呼び名は適当。