きらい、すき 例えば、カチュアのために獲ってきた兎をデニムに渡された時のヴァイスの顔。ほんの一瞬、親友とは思えぬ面をヴァイスはデニムに向けた。とはいえ事を荒立てるわけにもいかずヴァイスはすぐに目を背けた。そう、あの顔──。
「ヴァイスが──」
親友が処刑された。否、親友だと思っていたのは自分だけだったようだ。ずっと昔から嫌いだったと、決別したあの時彼は言っていた。
生き残ってしまった。もちろん今死ぬわけにはいかない。父の遺言を果たさねばならぬ。しかし、姉を救うことさえできなかった自分に一体何が為せるだろうか。政治的なことはモルーバに聞けば良い。カノープスたちも解放軍の一員としてついてきてくれている。もっとも、昔に比べてそう多く語り合うことも無くなってしまったが。相談すればきっと彼らは親身になってくれる。もしかしたら、心を閉ざしつつあるのは自分かもしれない。
(この戦いが終わればヴァイスを弔ってやれるだろうか)
遺体が何処にあるのかも分からない。けれどいずれ──その時は、心の内に秘めた気持ちを伝えよう。
親友と思っていなかったのはデニムとて同じだった。この気持ちを何と表現すれば良いかデニムは分からない。姉がデニムを優遇する度に敵意を向けられ──デニムは悦んでいた。親友に向ける感情ではない。あの自分にだけ向けられた怒り、憎しみ、妬み──彼の持つ感情のそれら全てを独占できることにデニムは血を巡らせていた。この歪んだ感情があるから、仲違いをしたデニムを気遣う有翼人に後ろめたさを覚え、自分が異常であることを痛感せずにいられず、次第に心を閉ざしていったのだ。一人にしてください、と頼むと異国の男たちは心配そうにしつつもそっとしておいてくれる。
──ああ、ヴァイス、──ヴァイス!!
できれば彼の最期をこの目で見たかった。聞くところによればヴァイスは最期にデニムに助けを求めたのだ。一体どんな風に、どんな大きな声で、どんな顔で──想像するともう抑えられなかった。
好きだった。
ひどく歪んだものだったが、確かにヴァイスが好きだったのだ。倦怠感と共にようやく見つけた言葉に動けなくなる。そして──ヴァイスが死ぬまでこの感情を隠し通せたことに酷く安堵した。なんてちっぽけで醜悪な達成感だろう。デニムは誰にも縋ることなく啜り泣くのであった。