それは秋の色「あれ、都丹さん、今日のスカーフ、初めて見ますね」
夏太郎に言われ、貰い物だと返す。
先日彼女に会ったとき、プレゼントだと渡された小さな箱。開けてみれば、手触りのいい布地が入っていた。スカーフだからよかったら使ってください、と言われたのを思い出し、土方さん達との集まりがあるので折角だから着けてみた。
「似合ってますよ」
「そうかい、ありがとよ」
彼女の選んだものだから、変な色や柄ではないと思う。今の夏太郎の反応からもそれは間違いないだろう。
「夏太郎、これ、どんな柄だ?」
「えっと、無地、ですね」
正直、それは意外だった。以前夏太郎と三人で買いに行った時、彼女が選んでいたのは全て柄物だったからだ。あの時は夏太郎と一緒に、これがいい、あれがいいとスカーフをあてられ、着せかえ人形になった気分だったのを覚えている。こんな盲た年寄りに何を宛がおうが同じだと思うんだが。何が楽しかったんだか。
「じゃあ、色はどんなだ?」
「えーっと、赤、じゃない、赤茶……かな……うーん……」
どうやら夏太郎には説明出来ない色合いらしい。
「おや、葡萄茶色とは……いい色だな、都丹庵士」
「あ、土方さん」
聞こえてきた声に、夏太郎が嬉しそうな声を上げた。
「えび……ちゃ、いろ?」
聞いたことのない言葉に、頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
えびちゃ、赤……えび……海老、か?
瞬時に頭の中にむきエビの姿が浮かんできた。いや、絶対にそれは違うだろう……と、自分でツッコミを入れる。
「えびちゃって、あの海老ですか?伊勢海老とかの」
どうやら夏太郎も同じ事を考えていたみたいだ。
すると土方さんがふっと笑ったのが聞こえた。
「葡萄茶とは、海老ではなく葡萄と書く。山葡萄の種類の一つが名前の由来だ。まぁ、今は一緒くたにされているようだがな」
「あ、なるほど。言われてみれば赤ワインみたいな色かもしれません」
あぁ、なるほど……。夏太郎の言葉で、ようやく自分もその色のイメージが出来た。だがちょっと俺には派手なような気がするが。
「秋らしい色じゃないか」
土方さんにそう言われ、選んでくれた彼女に感謝する。
流石です、土方さん、とはしゃいでいた夏太郎が、あれ、と小さく呟く。
「どうした、夏太郎」
「都丹さん、さっき無地だって言いましたけど、ここ、何か模様が」
夏太郎がスカーフを触っているようだ。
「刺繍ですね……黒い糸で……A……Toniって、都丹さんの名前ですよ」
「はぁ?」
慌ててスカーフを外すと手で触っていく。着ける時には気付かなかったが、小さく刺繍のしてある場所を見付けた。指で触って確かめれば、確かに自分の名前だ。
「愛されてるな、都丹庵士」
「よかったですね、都丹さん」
土方さんと夏太郎の言葉に、何だかむず痒くなって、片手で顔を覆ってしまった。