悪い夢「…、……。」
ぼんやりと眠りの世界に浸りつつある芭琉の頭に、人の声が聞こえた気がした。話しかけられている?誰に?
「…、芭琉くん」
段々と現実世界に戻ってきた意識は、戮の声を拾った。見れば、ベッド横に戮がしゃがんで目線を合わせている。
「…あ、戮か。どうしたの?」
「あ、その…ちょっと芭琉くんの顔見たくて」
俯きがちに話す戮は、どこか躊躇っているように見えた。
「そう?…まぁ、それくらいなら別にいいんだけど」
「うん、そ、それだけだから」
じゃあ戻るね、と言って部屋に帰ろうとする戮の背中に「もしかして、悪い夢でも見た?」と横になったまま投げかけた。戮は言葉を聞いた瞬間立ち止まって、振り返って戻ってきた。また目線を合わせるようにしゃがむ。
「…そう。だから少し不安になっちゃって会いに来たの」
どんな夢だったのだろう、と芭琉は思ったが、その悪い夢を戮に思い出させるのも嫌だと考え、聞かなかった。
「なんかいつもの戮らしくないなって思って」
「えへへ、バレてた」
「一緒に寝る?」
「いいの?」
少し端に移動して場所を確保する。少し涼しくなったので、薄手の毛布とタオルケットを重ねてかけている。潜りやすいように捲ると、戮が潜ってくる。捲っていた部分を戻して戮を覆うようにかければ、安心したような表情をして静かに目を閉じた。芭琉もそれを見て、親友の隣で穏やかな寝息を立て始めた。