震える手、押し潰されるかのような空気、少しでも壁から顔を出せば撃ち抜かれるという確信。
斜線が見える度、溶けていく味方。
今までの相手とは次元が違う。
圧倒的な力の前に今までの自分の努力を否定されたような気持ちになり、無力感と恐怖で段々と息が苦しくなる。
相手のリッターの銃口がこちらに向いた瞬間、荒い息とともに目を覚ました。
「っ……はぁ……はぁっ」
もう何度目かもわからない悪夢に両手で顔を覆う。
「ウィル?」
自分らしくないと感じながらも聞こえた声に縋るように震えた手でロゼの服をつかむ。
「嫌な夢をみたのか?」
隣に座り俺の背中を擦るロゼの手に少しの安堵を覚え息を整える。
最近はあまり見ていなかったのに。
いつもと違う俺の様子にロゼが心配そうに眉を寄せる。
「何か温かい飲み物淹れてくるな」
そう言って背を向けるロゼの手を繋ぐように掴んだ。
今は一人になりたくない。
「一緒に行く」
渇いたような俺の声にロゼは少しだけこちらを見たあとぎゅっと手を握り返してきた。
いつもだったら少し嫌そうにされるがこういう時のロゼは甘い。
「……お前ほんとちょろいよな。ちょっと弱々しく見せただけでそれだといつか付け込まれんぞ」
「うるさい手を離すぞ」
「やだ」
先ほどより手をぎゅっと強く握る。
憎まれ口を叩いても手を振りほどかないのはきっとまだ俺の手が震えたままだったからだからだろう。
2人でキッチンに向かう。
「ウィル、手を離さないと淹れづらい」
「俺が淹れる」
不満そうなロゼの手を離さないままに茶葉の入った棚に手を伸ばす。
「チョコミントティーは嫌だ」
「何でだよ至高の飲み物だぜ?」
「いくら美味しくても毎回水やお茶のように出されると嫌にもなるだろう」
不満そうなロゼの顔を見ていると不思議と笑みが溢れる。
嫌な夢も忘れられそうだ。
そんなやりとりをしながら空いている方の手でロゼにはカモミールティー、俺はいつも飲んでいるお手製のチョコミントティーを淹れる。
俺がロゼの分までチョコミントティーを淹れないか横で見張っている姿が愛おしくてわざと意地悪したくなる。
……流石に我慢するか。
2人でソファに腰をかけ飲み物を口にする。
ミントとチョコの香りと共に甘い味が口に広がると身体の緊張が少し緩まるのを感じる。
チョコミントはいつだって至高だ。
すっかり手の震えが収まった俺の手をロゼは離してしまい、空いた手が少しさみしくなる。
いっそわざと震えさせてみようか。
ロゼの目の前に手を出しこれ見よがしにぷるぷると揺らしてみる。
「何やってるんだお前」
呆れたような視線を浴びながらもさらに手を揺らして見せつける。
わざとやってるのがバレたらしい。
ロゼはため息をつきカモミールティーを机に置くとこてんと俺の肩にもたれかかった。
彼女なりに甘えているのか、少し顔が赤くなっている。
その表情に悪戯心が刺激される。
肩にかかる重量に心地よさを覚えながら飲み物をそっと机に置き、ロゼの太腿に触るとびくっとロゼが揺れた。
そのまま赤くした顔でぎゅっと手の甲を抓られる。
「今日はもうしないからな」
「ぐっ……」
そこまで痛いわけでもないが自らの手を押さえ少し大袈裟に痛がるふりをする。
まあでもこんな風に抵抗されるほど俺的には燃えるわけで……
「そんな事言いながら体は正じっ……」
「やめろ」
諦めずに手を伸ばすがべしっと手を叩かれてしまう。
……仕方ない、今回は勘弁してやろう。
飲み物を飲み終わり少し温まった身体で2人で寝室に戻る。
今日はもう嫌な夢は見ないで済みそうだ。