異端の牙 ①
ぱちぱちと火の爆ぜる音が耳をくすぐり、獅子神の意識はふっと浮上した。じんわりとインクがにじむように色を取り戻した視界に映るのは、見慣れぬ天井だった。
「ここ……は……」
全身が鈍く痛む。僅かに目に入った周囲の様子は、質素という訳では無いが、極端に物の少ない部屋だった。顔をしかめ、ゆっくりと上体を起こすと、すぐ横から男の声がした。
「起きたか」
「!」
まったく気配を感じなかった。その声の主は、獅子神が横たわっている寝台のすぐ横の椅子に腰かけ、こちらを見ていた。薄暗く表情はよく見えないが、黒いマントを着けた男のようだった。
「あなたは森の中で狼に襲われていた。腕と脚を負傷していたので、応急処置をしておいた」
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