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    岩藤美流

    @vialif13

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    岩藤美流

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    死んだ「兄」がいて、輝かしくて眩しくて人の心がわからない彼とは違う「理想の兄」になる為に「弟」を作り出したいでぴと、炎に憧れるあまりにシュラウドの「誰か」を海に引き摺り込んでしまったあずにゃんの話になる予定だった話だと思います

    人魚の命は泡から生まれて泡へと帰るのだと、昔の者は言ったらしい。深く碧い海の底から、ぽこりと溢れ出た泡、それこそが人魚の真の姿。ゆらりゆらりと海面へと浮き上がり、やがて地上に辿り着いた時、無に還るもの。それが、人魚の命だと。
     無論、そのような精神論は情緒的ではあれど、現実的ではない。雄と雌が卵に遺伝子を分け与えて生まれるのが命であることは、今や稚魚でも知っている。それでも詩的な表現が消えていかないのは、今日でも「魂」あるいは「知性」または「記憶」など、目に見えぬものがどこからきているのかがわからないからだろう。
     海底から溢れ出た泡のような、虚しい生。ただし人魚達にとってそれは少々長いものだ。平均寿命を300年とする彼らにとって、生は時に退屈で緩慢なものだったろう。海藻が波で揺れるように、ゆらゆらと毎日をぼんやり過ごす大半の人魚達の人生は、まさしく泡のようなものかもしれない。
     しかし。
     地上には数多の人間と呼ばれる、弱い生き物が住んでいる。彼らは自分達の命を、火に喩えるらしい。
     火。
     海中にあって縁遠いものだ。火とは、燃えるとは何か。時に命を、あるいは恋を指すそれが何か、年若い少年にはわからなかった。自分達にとって命とは泡で、恋とは渦だ。火とは一体如何なるものか。それを謳う人間の暮らしとは。
     海の魔女が慈悲の心で助けたという、人魚と人との恋。人魚は何故、人間に恋をするに至ったのか。尾鰭も背鰭も無く、鱗も無ければ卵も為さない、奇妙な白く小さな生き物。あれほど奇妙な生き物に、何故人魚は惹かれたのか。
     事実を確かめるのは性分だ。誰より勉強をした。誰より実践をした。だから、それも確かめようとしただけだ。
     そうして彼は出会ってしまった。
     青く地上で揺らめくもの。白い肌の細く小さな体。じっとこちらを見つめる憂いを帯びた金の瞳。
     その青が、火であると知った時。彼は心に、火を宿してしまった。
     あ、という声が聞こえた気はした。気付くと少年はその火を海中へと引き摺り込んでいた。
     夜の海にポツンと浮いた小舟。少年は闇夜に紛れて、そろりと海中から忍び寄った。人間を、火を一目見れたら充分だったのに、それと目が合ってしまった。
     美しい青い火に。闇夜の海を覗き込む金の瞳に。こちらへ手を差し伸ばすかのような白い手に。思わず触れてしまった。そして自分の手より遥かに意思に従順な8本もの足が、それを捕らえて海中へと招いたのだ。
     欲しい、欲しい。もっと間近で見たい。
     水に落とされた火が揺らめいたのは一瞬のことで、悲鳴のような音を上げてそれはその美しい青を失った。残ったのは夜の海に溶け込むような、短く切り揃えられた群青の髪だけだ。
     金の瞳と目が合った。気がする。自分達と違い、海中で無力な彼に、こちらが見えていたとは思えない。驚いたように開かれた双眸が、力を失っていく。呼吸をしようとしたのか、開かれた口から、ごぼりと泡が溢れ出る。
     あ。
     その時少年は唐突に理解した。命を、奪おうとしている。少年は彼に脚を巻き付けて、懸命に海面へと上がる。人魚は海上でも呼吸ができるというのに、人間が水中でできないなんて、なんと弱い体だろう。おまけに体に布を巻きつけているものだから、小さな体なのに随分重い。このままでは命を落としてしまう。火が消える。泡が割れる。少年は必死にその体を舟の上に戻そうとした。
     海上の舟はひどく不安定で、乗せようとしても嘲笑うかのようにゆらゆら揺れた。焦るほどにうまくいかないことに痺れを切らして、少年は舟を置いてほど近い陸地の浜辺へと、彼を運んで行った。
     砂浜に転がして。様子を見る。ぐっしょりと濡れた体はピクリともしない。虚空を見つめる金の瞳ばかりが輝くようだ。群青の髪からはチリチリと火が生まれ出ようとして、また消えるを繰り返す。
     死なないで。
     鼓動が聞こえそうなほどに早く、重く響く。震える手で彼に触れようとした時、聴き慣れない声を聞いた。人だ。
     少年は浜を離れた。必死だった。人魚の仕業とバレたら、どうなるか。自分のせいだとバレたら、どうなるか。わからなかった。恐ろしくて恐ろしくて、少年は逃げた。
     何もかもから。逃げた。その記憶すら、消すほどに。全てをかなぐり捨てて、少年は逃げた。
     人間に焦がれては、いけない。火に魅入られては、いけない。



     ここまで
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    h‘|ッЛ

    DONE #しん風版深夜の60分一本勝負
    お題「放課後」

    遅刻!ワンライ+20分!

    何度書いてもくっつく話は良いよねぇ...
    しん風しか勝たん...マジで...

    ※誤字に気づいて途中修正入るかもかもです。

    ⚠️アテンション
    高校生未来パロ。
    同じ学校通ってる。
    最初付き合ってない。

    3 2 1 どぞ
    しん風ワンライ『放課後の告白』

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    西陽の射す窓。教室から溢れ出る紅に染る廊下。笑い声や掛け声が重なり心地よく耳を掠めていく。
    一般生徒の最終下校のチャイムまであとわずか。

    委員会の集まりが長引き、担当教員に頼まれて資料室に資料を置きに行った。ついでに整理まで行った所までは予定通りだった。そこから更に社会科教師に捕まり、今日提出だった課題を社会科教室前の箱から持ってくることを頼まれ、更にそれを名簿に纏めあげた。あろうことか最後に教頭に捕まって長話に付き合わされてしまった。

    今日もしんのすけと帰る予定だった。社会科教師に捕まった時点でしんのすけには先に帰っていいと連絡した。本当はしんのすけと帰れたのに。きっとしんのすけはモテるから、そこらのJKに絡まれて流されて一緒に帰ってしまったんだろう。

    アイツの隣は僕のものなのに――

    鞄は教室に置いてきた。しんのすけとは教室で待ち合わせていた。明日アイツに彼女が出来てたら、僕はどんな顔をするだろう。泣くか怒るかそれとも笑うか。こんな思いをするなら先に帰っていいなんて言わなきゃ良かったんだ。僕の心はなんて狭く 2725