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    岩藤美流

    @vialif13

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    岩藤美流

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    タイトル未定 続きが欠けるかわからないので もしかしたら供養になるかもしれないアズイデちゃん

    内容的には恋に無自覚なあずにゃんが自主規制する話 そんなにえっちなものではないです

    そこは恐らく、行ったこともないイデアさんの部屋だ。よくタブレットで撮影したものを見せてくれていた。新しいグッズが手に入ったとか、オルトさんが綺麗に片付けてくれたとか、そういう、僕にとってはどうでもいい報告を重ねていたから、本物は知らなくても密やかな香りまでわかるような気がする。
     イデアさんからはいつも独特の香りがした。香り、というほどのものではないかもしれない、それほど微かなものだ。それは不快なものではなくて、むしろ僕にとっては落ち着くものだ。何の香りなのか、彼自身は香水など使わないだろうし、しかし石鹸の類でも無い。例えるなら、薄暗い蛸壺の中に一人眠る時のような、穏やかで静かな、優しい夜を思い出す、そんな香りだった。
     イデアさんはあのいつだって散らかっているベッドを何故だか整えていて、その上に乗って僕を待っている。僕は、吸い寄せられるように彼に触れた。温かい髪、熱い程に上気した頬。金色の瞳は僅かに濡れ、揺れている。表情は不安げだから、安心させるように彼を抱きしめて、その額にキスをした。
     それは子供にするようなものだったのだけれど。僕はもっと彼に触れたくなった。唇を瞼に、頬に重ね、そして彼と視線が混じり合い、拒絶の色が無いことをみると、彼の唇に吸い付いた。柔らかいそれはふわりと僕を受け入れる。優しく唇を食むと、イデアさんはうっとりと目を閉じて僕に身を任せる。
     僕は彼をベッドに横たわらせ、彼の細い体に触れた。お世辞にも柔らかくもなければ肉付きがよいわけでもない体を、イデアさんは気にしている様子で隠したがる。それをゆっくりと開いていく。僕はあなたの身体に幻滅したりはしない、と言葉ではなく全てで伝えるために、急ぐことはしない。
     彼が自ら、早くしてほしいと言い出すほどに優しく。首筋にキスを落とし、鎖骨を舌でなぞる。触れただけで骨格までわかるような肢体を撫で、怖がることのないよう丁寧に服を脱がせる。彼は何故だか前開きのブラウスを着ていたから、とても簡単に脱がすことができた。彼はそんな服を着たりしないのに。
     裸で触れ合いたいと思うのは、恐らく本能だろう。人魚はそうしたものだった。僅かな装飾品を除けば、いつだって裸で暮らしているものだから。皮膚と皮膚を重ねて初めて、近しいと感じられる。だから僕はイデアさんから全ての衣類を取り除き、その身体に重なった。
     それからのことを、何と理解すればいいのか。僕は、イデアさんと交接することを望んだ。しかし僕は今、人間の身体だ。交尾することは叶わない。そう思った次の瞬間には、僕の身体は人魚の姿に戻っていた。肌の色も深海の闇に溶け込むようなものに変わって、ああ懐かしき忌々しい姿、と思ったのもつかの間だ。
     イデアさんが、僕から逃げようとした。僕はそれを見て、酷く胸が締め付けられる。と思えば、僕は駆られるようにその8本の足で彼の身体を捕まえ、押さえつけた。
     どうして僕から逃げる。どうして僕を受け入れない。
     僕はこんなにも、あなたのことを――。
     そして、僕は彼に、自分の欲望を突き入れた。





    「……」
     目を覚まして、アズール・アーシェングロットはまず、自分の手を見た。眼鏡をかけていないから僅かにぼんやりしている視界には、人間の手が映っている。次に周りを見ると、そこは寮長であるアズールの私室だ。しばらく考えて、夢を見ていたのだと確信すると、アズールは深い溜息を吐いた。
     このところ、夢見が良くない。いや、良くない、というのは少し違うかもしれない。アズールは連日、イデア・シュラウドの夢を見ていた。内容は様々だが、今日のようにスキンシップをしている夢もよく見た。ただ、イデアの部屋に行っていたのも初めてだったし、裸になって重なるまではともかく、交接を望むなんて初めてのことだ。ましてや彼を無理やり雌にするだなんてそんなのは。
    「……一体何の夢なんだ」
     アズールは思案し、それからふと不快感に気付いた。恐る恐る布団の中に手を入れて、体をまさぐり不快感の正体を知ると、深い皺ができるほど眉を寄せることになった。
     




     朝から洗濯をする羽目になったアズールは、陰鬱な気分で授業を受けた。もちろん彼にとって大切なことは授業の成績や教師からの評価であるから、表立ってその憂鬱を出したりはしない。いつものように優等生を演じていたことだろう。
     普段はモストロ・ラウンジの運営や、寮長としての仕事があるため、ボードゲーム部へは週に2度しか顔を出せない。アズールはその時間を心待ちにしていた。彼は今でこそ表舞台に立ち、人と話すことを生業としてはいるけれど、元来静かな場所でじっくりと思考を巡らせることを好む。そうした彼にとって、ボードゲーム部で過ごす時間は特別に穏やかなものだ。それ以上の意味は無い。
     そう思って部室の扉を開いたのだけれど、入ってすぐに「アズール氏~」と名を呼ばれてビクリとした。そのような反応をする予定は無かったので、困惑しながらもそちらを見ると、教室の隅でイデアがボードゲームを机の上に置いている。
    「待ってましたぞ~。新作が手に入ったから早速やろう、アズール氏の大好きな戦略系でござるよ」
     フヒヒ、と彼の鋭利な歯を覗かせて笑っている。その様子は長年共に過ごしている双子とよく似ているから、親近感があるのだと思っていた。
     彼と高度な知能戦を繰り広げるゲームはとても緊張感があって楽しい。それに彼の天才的な頭脳は人類の宝と言っても過言ではない。本人に自覚は無いけれど、彼の存在は富と栄光そのものと言っていい程の価値がある。彼がその価値に気付いていないのか、周りが気付いていないのかはしらないけれど、それを無下にしようとしている危うさがとても気になるのは商売人としての性だろう。元来陰気であることはアズールも同じで、だから彼の後ろ向きなところが理解できる、故に一緒にいても落ち着くのかもしれない。それ以上のことではない、つもりだった。
     あんな夢。たかが夢だ。夢なんて、不合理で意味不明なのが普通だから。現実の僕達には関係無い。
     そう思っていたのに、アズールはどうにも、イデアと目を合わせることができなかった。
    「……アズール氏?」
     イデアが首を傾げている。それは視界の端に映ったから、すぐにでも気を取り直していつものように振舞わなければと思った。笑顔を浮かべて、イデアさん、と名を呼べばいい。胸を張って彼の正面に座り、ボードゲームを楽しめばいい。あんな夢のことなど忘れればいいのだ。
     もう一度イデアの顔を見る。金色の瞳と視線が交わった。
     それだけで、ありありと昨夜の夢の様子を、そしてその時の自分の興奮を思い出して。
    「……イデアさん、申し訳ありません。僕は今日、少々体調が優れないので部活動はお休みすることにします」
    「え? は? あ、ちょっと、え、大丈夫?」
     困惑する声に、心配が混ざるのにも答えないで。アズールは足早に教室から出て行く。
     逃げ出した、と言ったほうが正確かもしれなかった。




    「あれぇ? アズール、なんでいんの? 今日部活じゃね?」
    「……」
     支配人室のソファに腰掛けて考え込んでいたアズールは、やって来たフロイドの声に顔を上げた。シフトが入っているから寮服に着替えてはいるものの、いつもどおりスカーフもシャツもだらしなくしたままの彼が、どかりと隣に腰掛けてくる。アズールはフロイドの質問には答えず、「聞きたいことが」と代わりに質問を投げかけた。
    「フロイドも精通しているんでしたよね」
    「うえ、急になに? してるけど……てか、陸に上がってしばらくして急にきたから、3人でめっちゃビビって調べたじゃん、覚えてねーの?」
    「いえ、よく覚えています。……あのジェイドの動揺している顔を見るなんて、めったにないことですから」
     海にいた頃は人間の生殖について調べる必要性も無かったから、その日が突然来てしまって3人とも慌てたものだ。色々と書物を漁って、それが思春期に訪れる性の目覚めであり、病気などではないと知った時には安堵した。とはいえ、陸の人間と違い、人魚達は性欲自体が希薄だ。ある程度の周期で処理しないと健康に良くない、と知った時にはなんと面倒な体かと思ったものだけれど、放っておくと思わぬタイミングで勝手に出てしまったりしかねないものだから、仕方なくそんな体と付き合ってきた。
     しかし、であれば今日のアレは一体何だったのか。
    「お前、生殖行為の夢を見たりしますか」
    「えー? んまあ、たまに見るけど~」
    「どんな雌との夢です?」
    「んーん。ジェイドの夢~」
    「……」
     眉を寄せて彼を見ると、フロイドは「あは」と笑った。
    「あは、じゃない。生殖行為の相手は雌だろう。兄弟じゃない」
    「えー、だあって、好きなんだもん。するならジェイドがいいなー。ジェイドはそう言ってくれないけど」
    「当たり前だ。まったく……雌と交尾をして子孫を残すのが生殖行為なんですよ、理解していますか?」
    「してるー。してるけどー、オレはジェイドとがいーだけー」
    「はあ……」
     話にならない。アズールは首を振って諦めた。
    「まあいい。お前とジェイドの関係のことは、お前たちに任せます。こんな話ができるのはお前たちだけだから、この際率直に聞きますが」
    「今の時点で全然率直じゃなくね?」
    「生殖行為の夢を見て、精液を出してしまうことは?」
    「んー? たまにあるかなー。ジェイドがめちゃめちゃエロい夢見た時とか」
    「ジェイドの名前を出さなくてもいい、何か良くないものを想像してしまうだろう……」
    「アレなると、バレないように洗濯すんの面倒なんだよねー。カニちゃんにも聞いたけど、やっぱああいう時は一人部屋がいいって思うって。オレもちょっと思うけどー、そしたらジェイドと一緒に寝られなくなるからやだなー」
    「彼に相談しているんですか、では良い解決法を知っていたり……?」
    「カニちゃんはー、そんなに好きならもうホントにやっちゃったら、って言ってたあ」
    「……期待した僕が馬鹿でした」
     アズールはそれはそれは深い溜息を吐いて頭を抱える。この様子ではいずれフロイドは実力行使に踏み切るだろう。その時のジェイドの反応を見てみたいような、そうでもないような。いや、見たくない。稚魚の頃から知っている身内のそういうシーンなど想像したくもない。
    「あ、じゃあじゃあ、アズールもそういう夢見たんだ~。アズールは、どんな雌との夢を見たの?」
    「それが、妙なんです。どういう事か、イデアさんの夢を見まして」
    「……」
    「おい、どうして黙るんだ」
     そこはいつものように笑うなりからかうなり……、と口にしながらフロイドを見ると、彼は何とも怪訝な表情を浮かべていた。
    「アズールって、馬鹿なの?」
    「なんだ、いきなり。僕が馬鹿なわけがあるか」
    「そうだよね、オレもアズールのこと、深海で一番頭いいと思ってる。でも今は、すげー馬鹿なのかなって気もしてる」
     相反することを言われて、今度はアズールが怪訝な顔をする番だ。このウツボは一体何を言っているのだろう、と思っていると、フロイドは少し考えてから、まるで稚魚に説明するかのようにゆっくりと言った。
    「あのねぇ、アズール。オレは、ジェイドが好き」
    「知っています」
    「だから、ジェイドと交尾する夢を見て、寝てる時に出しちゃうことがあんの」
    「先程聞きました」
    「それで、アズールは、ホタルイカ先輩と交尾する夢を見て、寝てる時に出しちゃったんでしょ?」
    「ええ、恥ずかしい限りですが」
    「じゃあ、アズールはホタルイカ先輩が好きなんじゃん」
     フロイドの言葉が支配人室に響いた。それから長い間部屋には静寂だけが満ちる。アズールは何度か瞬きを繰り返し、フロイドも彼の反応を待って何も言わなかった。
    「……はあ?」
     ようやっとアズールが声を出した時、彼は大きく眉を寄せて、心の底から「解せない」と言った表情を浮かべていた。
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