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    岩藤美流

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    岩藤美流

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    これはダイナミック夢オチのえっちな話になる予定だった話

    夢見の雫と、 イデアは「夢見の雫」と呼ぶらしい、その虹色をした涙型のカプセルを指に持ち、まじまじと眺めていた。ぱっと見では尖っているように見える先端も丸みは有るから、飲んでも危険ではないとは思うけれど、この色はなんだ。よく言えばオパールのような、悪く言えばシャボン玉の表面のような色をしたソレを、口に入れることにまず勇気がいる。こんな物を飲んでも大丈夫なのか。まあ魔法に満ちたツイステッドワンダーランド、割となんでもありだけど……。イデアはそんなことを一人考えながら、そのカプセルを見つめている。
     自室はもう眠る準備をしていて薄暗いが、彼にしては珍しく22時に就寝の準備を整えているし、談話室ではオルトは既に充電に入っておりスリープ中だ。部屋の扉には「面会謝絶」の汚い字をコピー用紙に書いて貼っておいたから、サーバーがシャットダウンしたとかじゃないと起こすのは許さないし、そういう要件なら僕を再起動してねとオルトが追記もしてある。つまり、イデアは今日、本気で眠るつもりだったのだ。



     そもそもソシャゲやオンラインゲームのイベントが重なり、ただでさえ睡眠不足だったイデアが更に徹夜を重ねてしまったのは、とある寮生のパソコンが壊れたことから始まった。イグニハイド寮にしては珍しく機械にあまり強くない彼は、「何もしてないのに壊れたんです」という決まり文句を漏らしたが、事実、恐らく何もしてないのに壊れたようだった。経年劣化のようなもので、妙に古いソレは動かなくなってしまっていた。買い換えた方が早いですぞこれは、と言うイデアに、彼は涙ぐんで答えたのだ。
     うちは貧乏で、それにこれは亡くなった父が誕生日プレゼントに買ってくれたもので、大切な写真も入っていて。イデアは「はあぁーーーーー」とそれはそれは大きな溜息を吐いて頭を抱えた。どうして素人というのは大切なデータとやらをバックアップもせずにおくのか。貧乏だっていうのはわかったけれど、この性能では何かと限界がある、フレームはまだ使えるけど中身はどうにかしたらんと……。文句は沢山言った。厭味もめちゃくちゃに言った。しかしイデアは、オルトと共に寝る間を惜しんでそれを復旧したのだった。

    「はあ、なんといいお話でしょう。イデアさんはお優しいんですね。修理料金は高くついたでしょう」
    「それが拙者の部屋に転がってた古い部品とかを使ってキメラ合体したから、まあ別にお金はかからなかったんですわ」
    「イデアさん、そういう時は原価を2割と考えて利益を8割乗せるんですよ。あなたの作業時間もかかっているんですから、いいですか、あなたの頭脳や時間は本当に素晴らしい発明品を作り出せるものなんですから、安請け合いは……」
    「はいはいはい、あーねむ、あー」
     ボードゲーム部の部活に睡眠をとらないまま現れたイデアは、そのままボンヤリした頭でアズールと対戦し、しこたま負けた。あーねむい、あー寝そうと繰り返しながら机に突っ伏しながらも、眠らないし部活に出た理由はイデアにもよくわからない。よくわからないが、出なくてはいけない気がしたのだ。
     アズールは「帰ってお眠りになった方が良いですよ」とは言いながらも追い返しはしなかった。けれど、珍しくボロボロに負けたイデアを見ながら「ふむ」と一つ呟き、懐から小さな小瓶を取り出す。その中には、一粒の虹色のカプセルが入れられていた。
    「これも何かの縁でしょう。勝負に負けた罰ゲームとして、これを今夜服用して下さい」
    「なあにそれ、めっちゃ綺麗ですなあ、本当に飲めるモンなんです?」
     机に突っ伏したままイデアが問うと、アズールはニッコリと微笑んで、丁寧に”商品説明”を始める。
    「それはもちろん。危険な物ではありませんよ。深海の人魚達の間では「夢見の雫」と呼ばれているもので、とある貝の成分でできている薬でして」
    「へー……?」
    「自分の望んでいる心地良い夢を見ながらぐっすり眠れるという素晴らしい薬でして、深海でも珍しく高値で取引されているんです。陸の人間にも安全で効果が有ることは、既に研究されているから安心してください。だから、これを飲んで感想を聞かせてもらえませんか? それを対価としましょう」
     つまり実験台ってことっすな~。と回らない頭で呟きつつ手のひらを出すと、そっと瓶が置かれた。宝石にも見えるそれがころりと瓶の中で動く。綺麗っすな、と漏らして、それからこれを飲むのかあ、とも続ける。綺麗ではあるが、お世辞にも食欲が湧く色ではない。
    「あなたのお好きな知育菓子だと思えば飲めるでしょう」
    「うは、そうきますか、なるほどね……。わかった、わかったよ、罰ゲームは絶対、ってね」
     今夜飲んで、次の部活で感想言いますわ~。そう答えるうちにも欠伸が出る。あかん、これは完全に電源切れちゃいます、とブツブツ言っていたものだから、アズールが「そうでもしなきゃあなた、飲まないでしょうし」と呟いたのは聞き取れなかった。



     時は戻って寝室である。イデアはその「夢見の雫」を見ながら、ぼんやりしていた。
     眠すぎて頭が働かないのだ。先程シャワーをする時鏡を見たけれど、エグいクマができていたし。飲まなきゃなあ、寝なきゃなあ、と思いつつ、眠すぎて頭が働かずなかなか動けない。
     そもそもイデアが眠るのを好まないのは、実を言うとあまり夢見が良くないからである。
     子供の頃からそうだったのだけれど、毎晩のようによくない夢を見る。それは荒唐無稽なものであったり、現実のことだったり、現実であるかのようなまさに悪夢だったりしたけれど。睡眠が浅いのか、イデアはよくうなされた。睡眠が足りなくなるほど起きていれば、身体が眠ろうとするからグッスリ眠って夢も見ないのだけれど。イデアは”いい夢”という物を殆ど見たことがなかったのだ。
    (夢、って言葉自体がポジティブの塊みたいなのも面白いっすよな、しょーもない内容ばっかりなのに、まあ目が覚めるようなモンだから昔の人も夢と希望を一緒くたにしたんかな……あかんねむい、ねむ……)
     うとうとし始めて、イデアは一つ溜息を吐き出すと、意を決しそのカプセルをぽいと口に放り込み、水を流し込むとそのままずるずるベッドに移動する。
     薬を飲んだばかりで横になっちゃダメだよ、とオルトがいたなら言われそうなものだ。イデアはしかし、もう一刻の猶予も無いほど眠くなっていた。布団の上に横になると、そのまま溶けていきそうだった。とろとろと意識が薄れていく中、ぼんやりと考える。
     いい夢ってなんだろうな、アズール氏の、夢、とかかな……。
     だったらいいな。そう思うだけで妙に幸せな心地になって、イデアは思わず笑みを浮かべると、そのまま眠りの世界へと落ちて行った。



     
    「イデアさん、イデアさん」
    「ふえ……?」
     眼を開くと、目の前にアズールの姿が有った。いつものようにきっちりと制服を身に着けた彼が、自分の上に、おまけにすぐそばにいる。ひぇ、と悲鳴を漏らしてから、どうしてここに? と素朴な疑問を言葉にする。アズールは「どうしてとは随分ですねえ」と言いながらも、優しくイデアの頬を撫でた。
    「恋人なんですから、夜を共にするのは当然のことでしょう?」
    「こい、びと……?」
    「そうですよ。僕とあなたは恋人同士……そんなことも忘れてしまったんですか? ひどい人だ」
     そう、だったっけ。僕とアズール氏は恋人同士……だったっけ? 少し考えてから、ああこれは夢だった、とてもいい夢、だからアズール氏との幸せな夢を見てるんだ、と納得する。しかし酷く頭がぼんやりして極度に眠い時のような感じがするから、これが夢のようには思えなかった。まるで現実のようにリアルなアズールが、ベッドに横たわったイデアの上に乗っている。その温もりも、アズールのコロンの香りも感じられるものだから、ますます夢だか現実だかわからなくなる。
     でも、これってすごいことじゃん。ぼんやりした頭でそう思う。だって、まだ好きって伝えてないしこれからも伝える予定なんて無いけど、もう僕達は恋人同士のハッピーエンドに辿り着けてるってことでしょ。素晴らしい夢なんだから、乗っかるしかない。イデアはおずおずとアズールに手を伸ばし、その背中を抱く。ずっとこうするのが夢だった、いや、事実夢なのだけれども。
    「イデアさん、僕のこと好きですか?」
    「う、ん、……好き……」
     なんだこの問答は、少女漫画じゃあるまいし。顔が自然と熱くなる。恥ずかしくて仕方がないが、まあ夢なんだから恥をかいても大したダメージも無い。せっかくなら、思いっきり堪能しよう。どうせ一晩の幻なのだから。
    「アズール氏、好き……好き……もっと抱きしめてくれる……?」
    「おやおや、甘えん坊さんですね。もちろん構いませんよ。でも、もっと色んなことをしたくないですか?」
     色んなことってなんだ。随分積極的なアズール氏だなあ……。でもアズール氏ならこんなもんか。
     イデアがそんなことを考えている間に、アズールの顔が近づいてくる。あ、これキスだ。理解して胸が高鳴った。思わずぎゅっと目を瞑ると、閉じた唇に温かいものが「ふに」と触れる。柔らかい。これが、キスなのか。したことないから知らないけど。
     アズールは啄むようにキスを繰り返してくる。その度に息を止めて唇を合わせているだけでは物足りなくなった。もっと、と応えるようにイデアもアズールのキスを受け入れて、互いに唇を重ねる。気持ちいい、もっと、と思ったのがわかるらしく、アズールは何度も何度も飽きもせずにキスを落とす。
    「ん、ん……っ!」
     何度目かに、舌先で唇の隙間をつつかれた。思わず僅かに口を開くと、アズールの温かい舌がぬるりと入り込んでくる。少し驚いたけれど、嫌悪感などはなくてイデアはそれをわけもわからず受け入れた。
     角度を変えながら丁寧に口内を撫でられると何ともいえず蕩けていきそうに気持ちいい。うっとりしながらも、息苦しさに眉を寄せ、キスの合間に「は」と呼吸する。アズールが「鼻で息をするんですよ」と優しく教えてくれた。
     だってそれではアズールに鼻息が当たってしまうかもしれないし、それなら苦しいほうがいいような、だって気持ちいいし、ああでも苦しい。
     イデアはそんなことを考えながら、アズールを受け入れ続けた。その間にもアズールがイデアの身体を撫でている。愛撫、という言葉はイデアの頭には思い浮かばなくて、「なんだか映画のラブシーンみたいでアズール氏はえっち」と思う。
     その対象が自分であることは役得だが、有り得ないことだ。あの誰よりも努力と形にこだわる男ならきっとこんな風に好きな人とキスをするだろうという僕の妄想だ。そう考えると少し胸が苦しくなった。いい夢なのに、切なくなるなんて良くない。夢は夢とわからないほうが幸せだ。
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