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    岩藤美流

    @vialif13

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    岩藤美流

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    大事故コメディ不敬の続きの、更なる大事故不敬を書こうとしたら思いのほか少女漫画になってしまった上に長くなったのでいったん区切ったやつ

    ##ナルザル

    N/T2 R 800GIL 前編 森の都、グリダニア――。
     静謐な黒衣の森の中に現れるその街は、ウルダハとは違い草木と花の香りに包まれていた。穏やかな気候、そしてゆったりと流れる小川。鳥たちが小枝で囁き合い、人々は柔らかなそよ風に頬を撫でられながら、静かな時を過ごしている。
     同じエオルゼアにあって、随分違うものだ。ザルはそんなことを考えて気を紛らわせていた。隣に立つナルも「おお、なんとも……なんともこう、そう、なんとも……森だな!」と無駄に元気良く、何の感想にもなっていない事を言っている。共感しているのだから仕方ない。
     そう、二人は今、謎の「気まずさ」に支配されていたのだ。
     今はウルダハで生殖行為を試した翌々日にあたる。翌日、つまり昨日は、朝目が覚めると肉の身体は悲鳴を上げるほど痛みを訴え、二人してベッドで寝込んでいたのだ。おまけにぴっとり引っ付いて呻きながら寝ていたもので、何かを考える余力も無かったのだが。
     今日になると身体もすっかり元通りになり、ナルは大きな声で「今日は何処へ行ってみるか、ザルよ!」と言い、ザルを見た。ザルのほうも「そうであるな……」と返事をしながらナルを見て、それからしばらくの沈黙の後、二人は何故だか顔を逸らしたのだった。
    (な、なんであろう、この、なんであろう……)
     それが「気まずい」であることも知らない二人の神は、こうして今グリダニアの地を二人してもじもじしながら踏んでいる。
     ナルが気まずくなると、ザルにそれが伝わって気まずくなる。ザルが気まずくなることで、ナルが――。つまり、悪循環だ。何かの増幅機構のように気まずさを膨らませていたザルは、ついに口を開いた。
    「な、ナルよ」
    「う、うむ! なんだ、ザルよ!」
    「い、一度、その。共有を、切らぬか……」
     ナルザルは二人の神が表裏一体の関係として存在している。だから地上に顕現するにあたっても、いつものごとく繋がりを持ってしまったのだ。この悪循環はそのせいであり、だからこそのあの夜も――。そう思い出しかけて、ザルはまた、胸と顔が熱くなるのを感じた。それがナルに伝わる前にと、言葉を続ける。
    「この、なんと申していいかはわからぬが……、いや、そうだ。お互いに別れて街を散策し、また後程共有したほうが多くを見聞きできるであろう……」
    「お、おお、そうであるな! ザルはやはり賢い! であれば、さっそく私が生の力で……」
     ナルも素早く同意してくれて、ザルはほっとした。共感でお互いに気まずくなることも無くなるだろう。
     生を司るはナル。彼の力で、互いの肉体の在り様が書き換えられる。お互いを繋ぐものが無くなって最初に訪れたのは、気まずさの増幅が無くなったことによる「安心感」ではなく、常に在ったはずのものを失ったような、なんとも言い難い「喪失感」だった。
     落ち着かない気持ちはあるものの、共感してナルの考えが伝わってくることも、己の気持ちがナルにわかることもない。その事に安堵するような、少し寂しいような。妙な心地になりながらも、「これでよいか?」と尋ねるナルに対してザルは頷いた。
    「では、各々この街を見て歩き、人の子の暮らしを知ろうではないか! また夕暮れに……そうだな、宿で先に部屋をとり、後程そこで落ち合おうぞ」
     ナルがいつもと変わらぬ様子でそう言うのに、「う、うむ」とザルは小さく頷いた。



    「ううむ。とは言ったものの……なんとも、「独り」というのは落ち着かぬものだな……」
     ナルは腕組みしたまま、のすのすとグリダニアの街を歩いていた。ザルがそうであるように、ナルもまた真の意味で「独り」になるのは初めてのことである。その心細さにも似た、何か欠けたような感覚は不思議なものだった。
     ナルが訪れたのはグリダニア旧市街の、紫檀商店街だ。そこは商業都市であるウルダハの商店街とは何もかもが違う。森の都らしい木造の建物内はランプの優しい光に照らし出され、穏やかながらも活気が有る。木造の床は靴の音も石作りとは異なるし、人々の声の響きも違って聞こえる。商人たちは呼び込みを競うように声を張り上げたりはせず、穏やかに店先に立ち、人々の求めに応じている。
    「ふうむ。街によってこれほど違うものなのだなあ。実に面白い! なあ、ザルよ――」
     隣に向かって声をかけたけれど、そこには誰もいないし、共感は返って来ない。その事実に何か底知れぬ寂しさを感じかけて、ナルは首を傾げた。人の子の世界に降り立ってからずっと、わからぬことばかりだ。それもまた、愉しいと思っていたのだが……隣にいるはずの者がいないだけで、どうにも何か、愉快ではない。
     ううむ……と唸りながら、とぼとぼ商店街を進む。面白い物がないわけではない。ウルダハのように見世物が有るわけではないが、異なる文化には興味深い点が多いのだ。けれど、どうにも。それを共に喜ぶ者がいない、この寂しさをなんと表現したらいいのやら。
    考え事をしていたせいか、いつのまにか商店街は通り過ぎ、槍術士たちの集う場に出ていた。冒険者やグリダニアの兵たちが熱心に槍を振るい、声を上げている姿は力強い生の表れで心が躍ったが、しかしやはり同意が無い。気付けばナルは、しょもしょもと背を丸めて川沿いにしゃがみこんでいた。
     水の流れを受けて周る水車小屋を眺めながら、我知らず嘆息していると、後ろから「やっぱりナルザル神だ」と声がかかる。驚いて振り返ると、そこには冒険者が――件の、英雄が立っているではないか。
    「おお! おお、人の子よ、私はナルだ! よく私がわかったのう!」
     愛すべき人の子が目の前に現れて、ナルは大喜びで立ち上がった。聞けば、後ろ姿からして見慣れた姿だったようだ。妙なものだ、今日は髪も燃えていないし羽根も生えておらず、胴体も分かたれていないのに。
    「我らは今、そなた以外にはわかるまいと思うて、本来に近い姿で地上を楽しんでおるのだ!」
     人間観察をしていると告げれば、英雄は「なるほど」と頷く。ややして辺りを見渡し、片割れはどうしたのかと尋ねてきた。これは渡りに船とばかり、ナルは昨夜自分達の身に起こったこと、そして先程までのことを洗いざらい赤裸々に語った。英雄にとっても大事故である。
     大いに語り尽くしてから、ナルは目の前の英雄がなんとも表現しがたい妙な顔をしていることに気付いた。
    「どうした、人の子よ。そんな、口の中にイールでも入ったような顔をして」
     首を傾げたナルに、英雄はしばし言い淀んでから、丁寧に慎重に語ってくれた。
     ナルとザルの過ごした一晩が、いかに間違っていたかを。



     一方のザルは、ナルの数倍はぼんやりとグリダニアの街を歩いていた。
     ふらふらゆらゆらと歩く、白いローブ姿に仮面の男は幽鬼にも似て、誰にも声をかけられなかったのは幸いだった。ナルと別れてからというもの、彼だけのものとなった「何か」を持て余していたのだ。
     それが何なのか、ザルは知らない。先日受け入れた場所はすっかりナルの神威で元通りのはずだ。なのに、腹の奥底に熱が宿っているような妙な感覚が有り、足取りが重い。それに胸もだ。常ならば深い暗黒に満ちているそこからは、人の子のように鼓動が聞こえる。トクトクという音が耳について離れないのだ。
     はぁ……と小さく溜息を吐いていると、ふいに竪琴の音が聞こえた。誘われるようにそちらを見ると、吟遊詩人だろうか、竪琴を片手に何やら詩を歌っている。近付いて耳を傾けると、どうやらそれは愛の詩のようだ。
     見れば周りの人の子たちはうっとりとした表情でその言葉に酔いしれている。ふむ、つまりこれは人の子の感性に触れる詩ということか。ザルは興味深く見守った。
     内容は、離れ離れになっていた男女が、幾多の苦難やすれ違いを経て手を取り結ばれるというようなもの、だと思われる。二人は一つになり、やがて子が生まれて幸せになる――。まさに生の喜びであろう。死を司るザルには、そうした生にまつわることは縁遠いものであったから、学ぶことの多いものになった。
     愛し合う二人は一つとなり結ばれるもの。逆に言えば、一つとなり結ばれている二人は愛し合っているに違いない。つまり、自分達は愛し合っていることになる。しかし、愛し合う、とは一体どういうものなのだろうか?
     詩では「愛」とは当たり前に理解できる概念のように語られているし、それを受けて人の子達も感動しているのだから、当然人の子は「愛」について熟知しているのだろう。なら、人の子に訊くのが最も効率的かもしれない。
     ザルはそう考えて、歌を終え、観客もそばにいなくなった詩人へと声をかけた。
    「人の子よ、訊きたい。愛し合うとは、どういうことか」
     その質問に詩人は微笑んで答えた。離れていても共に在り、想い合うこと。互いを重んじ、助け合うこと。はたまた、夜を共にすること。愛し合うという言葉には、数多の物語と情景が含まれているものだ、と。
     ザルはますますわからなくなった。
     顔も見えないのに、その様子が見てとれたのだろうか。詩人は苦笑して、懐から一冊の本を差し出した。純愛物語といえばこれ、というほど、グリダニアの地では有名なものらしい。先程詩人が歌っていたものは、この物語をモチーフにしているようだ。
     幼い頃より共に在った二人はやがて互いが愛し合っていることを知るが、様々な試練が2人を襲い、彼らは何度も分かたれる。それでも、相手を想い、信じ、魂で結ばれていた。ついに二人は再び出会い、結ばれる。熱い抱擁、甘く優しい口づけ。視線が絡み合い、二人は一つに――。
     ザルは読みながら、何故か、顔が熱くなった。
     気に入ったのならあげるよ、と詩人が言うので、それをありがたく頂戴する。そしてザルは、街の散策も忘れてそそくさと宿へと向かったのだった。



     そして時は流れて、夜の帷が穏やかにグリダニアの街を包み始めた頃。
    「……はぁ〜〜〜〜」
     ナルは生の神にあるまじき溜息を、彼らしい音量で吐き出していた。
     エオルゼアの、世界の英雄に聞かされたことはナルにとって衝撃的であり、そして重大な問題を抱えている。生殖行為とはザルが言ったように本来男女が、つまり夫婦が行うものであり、対だからといってしないことなのだ(しないわけでもない、とは付け加えていたが)。要するに、一つの神の名を持つナルザルが生殖行為をする必要性は無いと断じられてしまった。
     おまけに何が何だかわからないまま、初めての相手に薬を使ってなだれ込むのは、人の子に言わせれば倫理観に欠けるらしい。間違いだらけの生殖行為に及んでしまったナルを見かねて、英雄は「その手の本」を渡してくれた。「正しい愛の確かめかた」なる題名のついているそれにも、英雄の言うとおり一心同体である者と行うとは書いていないのだ。当たり前である。
     ついでに問題はそれだけに留まらない。ナルにしては珍しく、反論するザルを言いくるめた自覚が有るのだ。
     生殖行為に巻き込んでしまったと思うとなんとも恥ずかしいやら申し訳無いやら、謝らなければと思うのだけれど、今はまだ2人の意識が繋がっていない。言わなければバレないのだけれど……しかし独りであることはもう嫌だ。しかし共有を再開すればバレる。
    「私はどうすればいいのだ〜〜〜〜ああ〜〜〜〜……」
     大音量で悩むナルのことを道行く人の子が凝視しているが、今はそれどころではない。これから先の、自分と半身の全ての問題なのだ。かといってザルのところに行かないという選択肢は無かった。もう独りなんて飽き飽きしているのだ。
     とりあえず、会ってから考えよう。今はザルの声が聞きたい。ナルは連火発揚ほどの勢いで今晩泊まる宿へと駆けて、ザルとの部屋へと入った。
     ザルは先に戻っていたようで、ぼんやりとした様子でベッドに腰掛けている。その膝の上に何やら本が置いてあったけれど、それどころではない。既にいるとは思っていなかったから、会ってなんと切り出すか、考えてもいなかったのだ。
    「お、……おお、ザル、は、早いのう! ま、街はどうであった!」
     ナルは英雄から受け取った本を部屋の入り口に隠しながら尋ねた。常ならば、ザルの返事など待たなくても彼の意識が流れ込んでくるものだが、今はそれが無いのでさっぱりわからない。しかしそれでいい、でなければ自分の知ってしまったとんでもない事実も伝わってしまうのだから。
     しかしザルはというと、ナルの言葉に応えるでもなく、静かに座っているばかりだ。怪訝な顔をして「ザル?」ともう一度、それなりの音量で問いかけると、「あ、ああ」とようやく返事が有る。
    「人の子の考えることは、まこと面白いと思うたな……」
    「そ、そうであるな! 得るものの多い一日であった!」
     ナルはそう言いながらザルの隣に腰掛ける。ベッドが大いに軋み、ナルもついでにザルもバウンドする勢いであった。それからまた、部屋に沈黙が満ちる。ナルは次の言葉が思いつかないし、悪いことにはザルのほうもなにも言わない。
    (き、……気まずい……!)
     ナルは頭の中だけでそう思った。この感覚を「気まずい」と表現するのだとは英雄に教わったが、本当に胸が苦しくなるものだ。何故ザルは今日あったことを話してくれないのだろう。それに、共感を取り戻そうと提案しないのだろう。されては困るのに、されないと何か寂しいような。もしかして、ザルのほうは分かたれているほうがいいのだろうか。他の神々にもナルは元気が良すぎるとか言われているし、実はうるさいと疎まれていたのでは……。
     常に意識の共有が行われていたわけで、そんなわけはないのだが。不安は見つめると大きくなるものだ。焦燥感の襲われ、ナルはどうにかしてなにか話題を振ろうと思った。
    「ザ「ナル」」
     口を開いたのがほぼ同時になってしまい、二人ははっと顔を見合わせて、また逸らした。まるで思春期の恋仲のような様相である。 
    「ザ、ザル、よいぞ、なんだ?」
    「いや、ナルのほうが先に声をかけたであろう……」
    「わ、私の話は大したことではないから! ザルが先に!」
     ナルがそう告げると、ザルは「ふむ……」と思案してから、「では」と口を開いた。
    「ナルよ。我らの愛を確かめ合わぬか……?」
    「……えっ」
     予想外の発言に、ナルは素っ頓狂な声を上げた。



     ザルの説明によれば、愛とは彼らそのものであるらしい。どうしてそうなったのかは知らない。ナルとザルの間には愛が有るのだ。どういう理屈かは、よくわからないけれど。
     しかし彼らは今、半身を切り離し互いが個として存在している。それはすなわち人の子と同じ在り様だ。だとすれば、今こそナルザルは真の意味で、人の子と同じように愛を確かめ合うことができる。異なる肉体、魂が混ざり合い一つになること、それが生の躍動だ、と。
     ナルはザルの力説を聞きながら、心の中で滝のような汗を流し「何故そうなったのだザルよ……⁉」と何度もツッコミを入れていたが、口に出す勇気が出なかった。あまりにもザルが、あの思慮深く慎重で、しかし時として共に気持ちを昂らせる半身が、確信を持って語っているのだ。ナルとしては、それを聞き入れるより他になかった。
     そもそも、一心同体である彼らが生殖行為をする必要は無かった、と英雄に教わった。確かにそれは事実なのかもしれない。だが、今はどうだ。分かたれた肉体、魂。そして切り離すことのできない絆。今こそ、商神ナルザルが一つになる時なのではないか。そんな気もしないでもない。
     先日とは逆に、ナルのほうがザルの意見に流されている。やはりこの場に止める者は誰もいなかった。
    「……わかった! ザルよ、共に愛を確かめ合おうぞ!」
     ナルは大きく頷いて、ザルの手を取った。
    「で! ……何をすればよいのだ?」
     単に生殖行為をするだけなのだろうか。ナルの疑問に、ザルは既に答えを得ていたようで、静かな言葉が返って来る。
    「熱い抱擁と甘い口付けの後、一つになるのだ……」
    「ほう、熱い抱擁と、甘い口付け」
     ふうむ。ナルは首を傾げつつ、ザルをぎゅっと抱いてみる。これは抱擁だろう。熱い、とはなんだ。人の子の形容詞はよく理解できない。疑問を口に出すと、ザルは「恐らく、互いに求めあうようにすることと思われる」と説明し、彼のほうも抱き返してきた。
     互いにぎゅうと抱きしめ合って、しばらくそのままで過ごした。果たしてこれが愛を確かめる行為なのか、よくわからない。しかし、肉の身体からはトクトクと心の音が聞こえてくる。ナルよりも、ザルのもののほうが早いような気もした。
     よく考えてみると、常ならばこうして抱き合うことなどできないのだ。互いが互いの腰にいるわけだから。この世で最も近しいのに、最も遠いようにさえ思えて、では今は、と考えると急に胸が熱くなった。抱きしめる腕に力が入って、ザルのフードに頬を寄せる。すりすりと甘えるような仕草が出たのは何故だろうか。ザルのほうも背中を撫でてくれて、それがなんとも心地良い。
     ふいに気付くと、二人の心音は随分高まっていた。ナルは顔が、いや胸や腹、もはや全身が熱いような妙な心地になっている。つまりこれが、熱い抱擁ということなのか。ザルが手を離したので、ナルも同じようにザルから手を離す。名残惜しい。今すぐ抱きたい。そう感じる身体を抑えて、「そ、それから……甘い口付けか……」と呟いた。
    「しかし、我らの顔は人の子とは違う……。彼らと同じように開いたりはせぬし、口としての機能が無い故に唇も弾力が無い。口付けを交わすことは困難で、恐らく意味が無いであろうな……」
    「う、うむ。こんなことならもっと人の子に近づけておけばよかったな。もし次の機会が有れば、私がそのように作り替えておこう!」
    「……今は、これで」
     ザルの手が、ナルの頬に触れる。びくりとして固まっていると、その指がナルの固い仮面に触れた。指先が、優しく唇をなぞる。たったそれだけの動作である。ザルのほうも仮面なのだから、表情などわからないし、気持ちなど伝わってこない。それでも十分にわかる。繋がりを持とうとしていること、あの冷静で穏やかなザルが、何をしようとしているのかということが。
     ザルの手が頬から離れる。ナルの唇をなぞった指を、そのまま己の唇へと寄せた。する、と指で撫でるだけの行為。しかしそれが「甘い口付け」の代わりなのだと思えば、愛おしくもなる。
     人の子へ抱くものとはまた異なる、何か衝動めいた、強く猛るような愛おしさ。ナルは片割れの名を呼んで、その身体を抱きしめベッドの上へと押し倒した。
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    岩藤美流

    DONE歌詞から着想を得て書くシリーズ①であり、ワンライの「さようなら、出会い」お題作品の続きです。参考にした歌は「A Love Suicide」です。和訳歌詞から色々考えてたんですけど、どうも予想通りタイトルは和訳すると心中だったようですが、あずいでちゃんはきっと心中とかする関係性じゃないし、どっちもヤンヤンだからなんとかなりそうだよな、と思ったらハッピーエンドの神様がゴリ押しました。イグニハイド寮は彼そのものの内面のように、薄暗く深い。青い炎の照らしだす世界は静かで、深海や、その片隅の岩陰に置かれた蛸壺の中にも少し似ている気がした。冥府をモチーフとしたなら、太陽の明かりも遠く海流も淀んだあの海底に近いのも当然かもしれない。どちらも時が止まり、死が寄り添っていることに変わりはないのだから。
     さて、ここに来るのは初めてだからどうしたものか。寮まで来たものの、人通りが無い。以前イデアが、うちの寮生は皆拙者みたいなもんでござるよ、と呟いていた。特別な用でもなければ出歩くこともないのかもしれない。さて、寮長の部屋といえばもっとも奥まっている場所か、高い場所か、あるいは入口かもしれないが、捜し歩くには広い。どうしたものかと考えていると、「あれっ」と甲高い声がかけられた。
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    「アズール・アーシェングロットさん! こんばんは! こんな時間にどうしたの?」
     その言葉にアズールは、はたと現在の時刻について考えた。ここまで来るのに頭がいっぱいだったし、この建物が酷く暗いから失念していたけれど、夜も更けているのではないだろうか。
    「こ 5991

    れんこん

    DONE第二回ベスティ♡ワンライ
    カプ無しベスティ小話
    お題「同級生」
    「はぁ……。」
    「んんん? DJどうしたの?なんだかお疲れじゃない?」

    いつもの談話室でいつも以上に気怠そうにしている色男と出会う。その装いは私服で、この深夜帯……多分つい先ほどまで遊び歩いていたんだろう。その点を揶揄うように指摘すると、自分も同じようなもんでしょ、とため息をつかれて、さすがベスティ!とお決まりのような合言葉を返す。
    今日は情報収集は少し早めに切り上げて帰ってきたつもりが、日付の変わる頃になってしまった。
    別に目の前のベスティと同じ時間帯に鉢合わせるように狙ったつもりは特に無かったけれど、こういう風にタイミングがかち合うのは実は結構昔からのこと。

    「うわ、なんだかお酒くさい?」
    「……やっぱり解る?目の前で女の子達が喧嘩しちゃって……。」
    「それでお酒ひっかけられちゃったの?災難だったネ〜。」

    本当に。迷惑だよね、なんて心底面倒そうに言う男は、実は自分がそのもっともな元凶になる行動や発言をしてしまっているというのに気づいてるのかいないのか。気怠げな風でいて、いつ見ても端正なその容姿と思わせぶりな態度はいつだって人を惹きつけてしまう。
    どうも、愚痴のようにこぼされる 2767

    YOI_heys

    DONE第1回 ヴィク勇版ワンドロワンライ『ひまわり』で書かせていただきました!
    ひっさびさに本気出して挑んでみましたが、急いだ分かなりしっちゃかめっちゃかな文章になっていて、読みづらくて申し訳ないです💦これが私の限界…😇ちなみにこちらhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17839801#5 の時間軸の二人です。よかったら合わせてご覧下さい✨
    第1回 ヴィク勇版ワンドロワンライ『ひまわり』※支部に投稿してあるツイログまとめ内の『トイレットペーパーを買う』と同じ時間軸の二人です。
    日常ネタがお好きな方は、よかったらそちらもご覧ください!(どさくさに紛れて宣伝)



    第1回ヴィク勇ワンドロワンライ『ひまわり』


    「タダイマー」
    「おかえり! って……わっ、どうしたのそれ?」

    帰ってきたヴィクトルの腕の中には、小ぶりなひまわりの花束があった。

    「角の花屋の奥さんが、持ってイキナ~ってくれたんだ」

    角の花屋とは、僕たちが住んでいるマンションの近くにある交差点の、まさしく角にある個人経営の花屋さんのことだ。ヴィクトルはそこでよく花を買っていて、店長とその奥さんとは世間話も交わす、馴染みだったりする。

    ヴィクトルは流石ロシア男という感じで、何かにつけて日常的に花を買ってきては、僕にプレゼントしてくれる。日本の男が花を贈るといったら、母の日や誕生日ぐらいが関の山だけど、ヴィクトルはまるで息をするかのごとく自然に花を買い求め、愛の言葉と共に僕に手渡してくれるのだ。
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