僕だけのクレールよ 覚えておきたい歌がある。
相棒の声から生まれたそれは、ステージの上で歌ったことがない、客席から聴いたこともない、そもそもコードすら決まってなくて、当然ながら詞も付けられていない。ふと思いついたフレーズを口ずさむ、でたらめな鼻歌と言ってもいい。
だが、その歌の先には誰かが居た。直接尋ねた訳ではないし、名前も素性も知らない。けどそいつは、相棒にとって大事なやつで、大事にしたいやつなんだって分かる。まるでオレに向けられたものかと思わせて、バカみてえに浮かれてしまいそうになるのは、音楽に込められた想いを汲み取り、己の全てで表す感性に長けているからだろうか。
耳の奥にこびりついて離れない。一度思い出すと、うまく言葉にできない気持ちが引き出されて、心の臓を震わせる。息苦しいくらい胸の奥が熱くなって、今にも駆け出したくなるような。
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