頭の中に霞がかかったように朦朧とするのは、鼓膜にまとわりつくラジエーターのかすかな唸りのせいか、あるいは温んだ空気のせいか。
窓の外では甲高い笛の音そっくりに鳴り響く風と、刃物のような鋭さで肌を切りつける雪とが猛威を振るっていた。
一人がけのソファに両膝を抱えるようにして座り込んでいたシュウが、ふと読みさしから視線を上げる。書斎と隣りあった寝室では、部屋の主が静かに寝息を立てていた。
肘掛けから身を乗り出し、テーブルに置かれたカップへ手を伸ばす。お客様にお茶のひとつも出さないなんて失礼だよね、とキッチンへ立ったときから既に彼はひどく憔悴していた。茶葉をはかる指先が細かく震えているのを認めたシュウが半ば強引にベッドへ叩き込まなければ、彼は今でも無理を押して客人をもてなそうとしていたかもしれない。はじめのうちこそ抵抗する素振りを見せたアイクも、肩まで毛布を引き上げると観念したように瞼を伏せた。
2023