treat食堂の隅にあるバスケットを開けると、中身は空だった。
「お菓子ならもうないですよ」
背後から朝日奈の声がした。
「見たからわかる」
数時間前まで、このバスケットにはお菓子がいっぱいに詰め込まれていた。
市民ホールのハロウィンコンサートで演奏したあと、こどもたちに配るためのものだった。
少しくらい余っていたらと淡い期待をしていたが、大勢の聴衆が居たし、お菓子の配布にも行列ができてとても好評だったし、すべて配りきったのだろうか?
「ちょっとくらい、残ってたはずだけど」
「笹塚さん、部屋に直行しちゃったじゃないですか。みんなの分はなかったから、ジャンケンして分けました」
すぐに取り掛かりたい作業があったのだ。自ら勝負を放棄したことが悔やまれるが仕方がない。
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