この雪は、初雪らしい。暖かい部屋の中で指先だけがやけに冷えているのはそのせいか。
「母さん、寒くはありませんか」
「大丈夫ですよ。でも……そうね、雪が降ってきた様だからこれから冷えるわね。貴方ももう少し暖かくしなさいな」
「そうですね。上着を取りに行ってきます」
階段を、上る。とても今際の時とは思えない様子を思い返す。近頃は調子が良いようでよく身体を起こしている母。素直に喜べないのは如何かと思うが、しかし、目に余るほど明るく振る舞うのだ。医師に余命一年を伝えられたのが十一ヶ月ほど前なので、その通りなら今が一番辛いはずである。
――厭な、感じだ。
上着を持ち、ふと思いついて母が以前よく読んでいた本を手に取る。少し迷って結局持って行くことにした。
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