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    るんです

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    るんです

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    中白の🌟🎈です

    序盤なのでcp要素ないです
    白藤の両親、中山の上司を捏造しています
    最初に人が亡くなるシーンがあります(グロではないです)
    初めての文章なので誤字脱字あると思います
    以上が大丈夫な方はお読みください

     この雪は、初雪らしい。暖かい部屋の中で指先だけがやけに冷えているのはそのせいか。
    「母さん、寒くはありませんか」
    「大丈夫ですよ。でも……そうね、雪が降ってきた様だからこれから冷えるわね。貴方ももう少し暖かくしなさいな」
    「そうですね。上着を取りに行ってきます」
    階段を、上る。とても今際の時とは思えない様子を思い返す。近頃は調子が良いようでよく身体を起こしている母。素直に喜べないのは如何かと思うが、しかし、目に余るほど明るく振る舞うのだ。医師せんせいに余命一年を伝えられたのが十一ヶ月ほど前なので、その通りなら今が一番辛いはずである。
     ――厭な、感じだ。

     上着を持ち、ふと思いついて母が以前よく読んでいた本を手に取る。少し迷って結局持って行くことにした。
    「戻りました」
    「ああ類、丁度今父さんが帰ってきた所ですよ」
    「おかえりなさい、父さん」
    「ただいま。……その本は」
    「目に付いたので持ってきました。調子が良い様だから母さんが読まれるかと思って」
    「あら、久しぶりに読もうかしら。貴方達もお好きな本を持っていらしたら?」
    「……そうだな。偶にはそんな夜も良いだろう」
    父も、同じことを思っていたのだろうか。
    「僕が父さんの分も持って来ます」
    「いや、お前は先上に上がったんだろう。俺が持って来る。どの本がいい」
    「では、―――」
     
     不思議な気分だ。今までは全員がこの部屋に集まることなど滅多に無かったし、三人揃うことがあればずっと話をしていたから。僕は小説を、父は学術書を、母は詩集を手にしているが、ちゃんと読んでいるのは母くらいで、僕も父もずっと母のことを盗み見ている。本に目を向けてみても、字面をなぞるだけで内容が頭に入らない。こうして何度目かの視線を母に向けると、本を置き、布団に入って庭の方へ体を向けている。声をかけようと口を開く。
    「かあさ」
    「あなた、るい」
    か細い、小さい、声。呼吸の音だけが、やけに大きく聴こえる。
    「……なんだ」
    「月があかるいわ」
    「そうだな」
    静寂。―――静寂。
    「か、あさん?」
     初雪の日。母の寝顔は月に照らされ透き通るようで、とても、綺麗だった。





     「中山くーん」
    「はい、何でしょう」
    東京、蝉の鳴く季節。このビルの一角では、蝉の声でなく人の声が行き来している。その中で今し方上司に名前を呼ばれた男は、用件を伺うべく呼び声の主の元へ歩く。
    「どうしたんですか、谷川さん」
    「中山くん、この近くの白藤さんとこの書店知ってる? あそこで売上の記録貰って来てくれないかな」
    「知ってますけどあそこ、古書店ですよね。売上記録必要なんですか」
    「うん。近頃、本の価格を僕達出版社が決めるようになっただろう。それでちょっと、正規の……というか出版社と直接取引しているお店と古書店とでどの程度価格が変わってるか把握したいんだ」
    「分かりました。じゃあもう今から行ってきて良いですか」
    「大丈夫だよ。白藤さんによろしくね」
    「はい」
    わざわざ自分に頼む理由は何かあるんだろうかと中山は思考する。
    (あー、ご近所さんとの交流ってやつか。谷川さんそういうの気にするからなあ。考えてみれば俺以外の社員はほとんど行ったことあるみてぇだし)
    取り敢えず、と財布と名刺を持ち誰にともなく告げる。
    「外回り行ってきまーす」
     階段を下り、エントランスを抜けると夏の空気と排気ガスの香りがする。暑い。都会の夏の暑さには何年経っても慣れない。地元九州の方がマシである。
    「……自転車借りて来れば良かったな、くそ」
    記憶の限りでは、社から目指す古書店までは意外と距離があったはずだ。早く日陰に入りたいと思いながら、中山は独りごちた。

     「……い、るい」
    この男、読書に熱中すると周りが見えなくなる癖がある。こんな有様で店番ができるのかと聞きたいが、知人以外が店に入って来ると目敏く気付く様なので心配はしていない。実際何度か万引きを捕まえているのを見たことがある。
    「類!」
    丁度客はいないようなので、目一杯大きな声を出す。
    「ん、ああ百合子。ごめん、もうこんな時間か」
    「その癖、どうにかしてよね」
    「うん、まあ、善処はするよ」
    「じゃあ代わるから、ご飯食べてきて。少しは野菜も食べて」
    「うん、まあ……善処するよ」
     男――類の店の隣、百合子の働く店は喫茶店である。洋食を庶民向けに安く提供し、芸術家や文化人の交流の場としても機能している。一度類が貧血で倒れた時から、幼馴染みである百合子に言われてそちらの店で昼食を取るようになった。この時間は類の店の方に客はほとんど来ないため、百合子が代わりに店番をしているのだ。読書から意識を遠ざけ、時間を認識すると途端に空腹を感じる。喫茶店の方からは良い香りがしている。
    「じゃあ行ってくる」
    「はい。行ってらっしゃい」
    類が店を出て、足音が遠くなる。が、すぐに戻って来た。何か忘れ物だろうか。いつも何も持たずに行っている気がするが。
    「百合子! 父さんが帰ってきたから君も店に戻ってくれて大丈夫だよ」
    「え、あ、こんにちは……」
    「こんにちは。すまないが、類の食事を見ておいてくれないか。最近少しふらつくことがあるんだ」
    「分かりました。野菜沢山食べてもらいますね」
    (そんなに心配される程では無いんだけどな)
    類は何か不満げな様子だが、百合子と共に喫茶店へ歩いて行く。今日は野菜を食べるまで店番には戻れなさそうである。

     古書店に入る前に手巾で汗を拭く。長かった。夏の日差しの中を歩くのはかなり体力を使う。
    「すみません」
    奥に座る男に声をかける。
    「何かお探しですか」
    対応した男は五十代くらいか。職場の奴らが店主は若い男だと言っていた様な気がするが、まあ気にすることでは無い。
    「いえ、私は白波出版の中山と申します。もしよろしければこちらのお店の売上の記録を頂きたいのですが」
    「ああ、白波さんですね。売上の記録……売上台帳の複製でよろしいですか」
    「ええ。ありがとうございます」
    「少々お待ち下さい」
    少し時間がかかるようなので店内を見渡す。普段行く書店では見ないような本が多いが、流行り物はいくつか新しいものを置いてあるようである。腐っても編集者、本を見ると気分が上がることはあれ下がることは無い。例外を除いては。ふと見た場所にあいつ、、、が担当していた本が置いてあり、すうと表情が消える。
    (……チッ)
     男が戻ってきて、手渡された物の中身を少し確認する。これで良さそうだ。
    「これで大丈夫です」
    「良かったです。あとこれ、今日は特に暑いですからお飲みください」
    差し出された水を有難く受け取る。
    「すみません。助かります」
    「いえいえ、またお越しください」
    「はい。ありがとうございました」
    一件落着。しかし意外と長い道を徒歩でやって来たせいでかなり時間がかかってしまった。もう昼休みが終わる頃である。早く戻ろう。そして飯を食おう。腹が減っては戦ができぬとはよく言ったものだ。社まで無事に戻れるように祈りながら、日差しの中へ歩き出した。

     足音がして、類が店へ戻って来る。
    「おかえり。先白波さんのところから中山っていう人が来てな、売上の記録がほしいと言っていたから売上台帳の複製を渡したよ」
    「ああ、ありがとうございます。谷川さんから連絡は来ていたんですが、今日この時間だったとは……」
    「中山にはあったことがあるのか」
    「いえ、初めて聞く名前ですね」
    そう、初めて聞く名前だ。今まで何回か白波から人が来たことがあるが、毎回違う人間なので谷川さんが何か考えているのだろうと思っている。
    (何か余程の事がない限り中山さんはもう来ないだろうな。残念だ。次からはお昼時を避けてもらうように谷川さんにお願いしよう)
    父が中山に渡したものを確認し、店番を代わる。今日は何人客が来るだろうか。そんなことを考えながら、読みかけの本に手を伸ばす。

     二人が出会うのはまだ先になりそうだ。
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