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    まつさん

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    まつさん

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    古代ショタビマ✖️現代ヨダナ♀のビマヨダ♀。序章。
    昔あった、ガス会社のCMパロディです。現代人のクローゼットから偉人がタイムスリップするやつ。つまりは逆トリップ。

    ワンドロ「出会い」 ──開けたクローゼットから、毛玉が転がり落ちた。

     突然鳴り響いた爆音は、家主であるドゥリーヨダナの手からカラトリーを落とすには十分過ぎるものであった。平皿の上に落ちたフォークが更に跳ね返り、床へ消えていく。しかし、それを拾い上げるだけの余裕が今の彼女には無い。
     なんせ、ここは一人暮らしの室内。来客を招いているならまだしも、己以外の気配があっては大問題だ。
     何かがクローゼットの中でドタドタと暴れている。呻き声が聞こえる。
     悠長に夕食を取っている場合ではなくなってしまった。彼女はすぐさま席を離れ、届く距離にあった花瓶を武器代わりに抱えて、物音の煩いクローゼットへ近づいていく。
     なに。時代が違えど……性別も違うが。この身は幾度と闘いを乗り越えた武人クシャトリア。たかが不法侵入の獣如きに怯んでいては、かつてカウラヴァを率いた長子として示しが……
     嘔吐を催す緊張感に抗い唾を飲み込む。そして彼女は、ええいままよ、とクローゼットの扉を開放したのだ。

     ──そして、冒頭。
     足元に落ちてきた毛玉を避け、正体を確認すれば。床に落ちていたのは見知らぬ獣などではなく。

     深紫の髪を持つ、年端もいかない子供。

    「……っ、ビ……ッ!?」

     ドゥリーヨダナは戦慄する。
     なんせ、それは。今世では『まだ』お目に掛かっていない、我が宿痾。
     忘れようにも忘れる事など出来はしない、最悪の天敵。

    「び、び、ビーマではないかぁ……ッ!?」
    「っい、てて……、あ……?」

     つい、人差し指を突き付けて悲痛な叫びを上げたのも無理はなく。
     人様のクローゼットから転がり出た子供は、彼女を見遣りパチクリと目を瞬せた。その子供特有の大きな瞳に見つめられるだけで「ヒッ」と喉奥から悲鳴が漏れ出てしまう。なんせ、ちょうど百兄弟みなが一方的に痛めつけられてた頃の姿だ。背に寒気が走るのも仕方あるまい。

    「な、なんっ、何故わし様の家にちんちくりんのビーマが……!?貴様、何処から入ってきた!?親御はどうした!!け、警察を……!」
    「……、スヨーダナ?お前、スヨーダナか?」
    「ハァ!?」

     身体が硬直する。それは決して、今世では聞くことのない呼び名。両親も、きょうだいも、友人達も知り得ない、前世の記憶を持ち越した彼女の、懐かしき特別の名だ。
     それを知っているということは、こいつ。

    「すげー!いつの間に大きくなったんだ!?なぁ、此処は宮殿の中か?ちょっと狭いけど、スッゲェ明るい!」
    「手狭ではないわ、バカタレ王子!!一人暮らしにはこれくらいがちょうど……ぐうう……!きさま、もしや……」

     ──紀元前から来た、幼少期の宿敵。
     二十一世紀を生きるドゥリーヨダナは、頭を抱える。
     風神の子が時代規模の迷子になるなどと、此奴は一体、何処ぞの神の怒りを勝ったというのだ……!?

     嗚呼、夢であれと願ったとて現実は覆らず。彼女がショックで眩暈を起こしかけている中でも、好奇心旺盛な子供は物珍しさからかキョロキョロと辺りを見渡していて忙しない。遂に我慢できなくなったのか、床に付けていた尻を持ち上げてドゥリーヨダナの前から消えようとするので、咄嗟にその首根っこを鷲掴んだ。油断も隙もない。

    「おまえ、一体どこからやってきた?他の兄弟は?」
    「え?えー?うーん?わっかんねぇ。俺はただ、稽古終わりに昼寝しようと思って森に行っただけだぜ」
    「森に行ってそれからどうした。まさか、その脚でわし様のクローゼットの中に移動してきたわけではあるまい?」

     クローゼット、という聞き慣れない言葉に首を傾げたので、「あれだ」と指差して答える。半開きの観音扉からは見慣れた日用品が顔を覗かせるだけで、別段、亜空間に繋がっている……などというヘンテコな異変は窺えない。あっても困るだけなのだが。
     幼いビーマは襟を掴まれたまま視線を彷徨かせ、顎に手を添えて首を捻る。

    「えっとな。昼寝場所を探してたら、でっけぇ孔が開いた木があったんだ。うろ、っつーのか?ああいう場所って生き物が食い物を溜めておくにはうってつけの隠し場所だからさ、ちょうど稽古終わりで腹減ってたし……わ、わけてもらおうかなって思って……」
    「思って?」
    「手ェ、突っ込んだら……からだごと落ちた、っぽい?」
    「ぽい?ではないわ!!だからキサマっ、そんなに薄汚れて……!」

     見ろ、この野生児の姿を!服は愚か、色素の濃い顔や跳ねっ返りが強い深紫の髪にさえ土汚れが目立っている。まるで泥遊びを終えた幼児さながら!お前は何だ?童話の真似事か?兎を追いかけて樹洞へ落ちたならまだ可愛げがあろうが、動物の餌を拝借しようなどとは呆れて物も言えまい。
     三つ子の魂百まで。悪食男はこの姿の時から悪食であったというわけで。
     こんな泥臭い格好のまま室内を歩かせるわけにもいかず、ドゥリーヨダナは一言「来い!」と言い放ち、掴んだままの首根っこを引っ張って無理矢理連行する。慌ててついてくるビーマの足元からポロポロと乾いた汚れが剥がれ床にまだら模様が出来ていくのを横目に、彼女は大きく溜め息を吐いた。


     ──さて。
     連行先の風呂場にて薄汚れた子グマをマシな状態まで洗って(水が熱くなっただの、泡が目に染みるだの、一通り騒ぎ尽くした)、量の多い髪をドライヤーで乾かし(お前にまで父神の加護があるのかと目を丸くされた)、ひとまずマトモな見てくれにした頃には、いよいよドゥリーヨダナの体力は底を尽き、ソファにぐってりと身を投げた。過去、現在、共にきょうだいの多い彼女といえども、度々力加減を見誤る半神の子供が相手となるとその辺の悪餓鬼の方がマシに見えるというものだ。
     ああそうさ。コレに武術の学びを教え込んだ遠き記憶の師達に、改めて尊敬の念を抱こうとも。己には手に余る。

     柔らかなソファに沈む彼女を、二つの丸いまなこが覗き込んでいた。ランドリー行きになった古代の服の代わりに家主の私物であるTシャツと短パンに着替えた幼きビーマは、ドゥリーヨダナの髪を一房摘み上げて、くん、と匂いを嗅ぐ。髪を引っ張られたことで強引に首が持ち上がり、痛みで顔を顰め、咄嗟にビーマの手を振り払う。

    「ッ、やめよ。わし様に触れるでない」
    「……スヨーダナは、女だったのか?」
    「は?……あー……このわし様はまあ、女だが。お前のところの『ドゥリーヨダナ』は男であろう。カウラヴァの長兄。クルの一族の正当なる後継者だ。間違えるなよ」
    「でも……お前はどう見ても女だ。しかも、おおきいし」

     そう言ってから、辺りをきょろりと見渡す。先程までとは打って変わり表情に不安の色を乗せたビーマは、居心地悪そうに身体を縮めた。

    「なんとなくわかる。ここ、宮殿じゃねぇ……よな……」

     尻すぼみな言葉と共に項垂れる。
     やっと、迷子になったのだと気がついたか。初めからしおらしくしていれば、多少は可愛げがあるというのに。
     突然降って湧いて出てきた特大の『面倒な生き物』を前に、ドゥリーヨダナは何度目かの深い嘆息を漏らす。
     かつて散々苦汁を飲まされ、切っても切れぬ怨嗟の果てに惨い殺され方をした相手といえども──このビーマは子供だ。恐らく、此奴は。従兄弟の手ずから毒を食らう前の……憎らしく魯鈍な幼き半神。

     ──今、ここで。刃を突き立てて喰い殺してしまおうか。
     そんな考えが過ぎるも……すぐに追い払った。大人と子供の差を埋めるどころか、それを遥かに凌駕する恐ろしき武力を目の前の子供は宿している。現世を生きる淑女たるドゥリーヨダナには、棍棒を操る力など持ち合わせていない。必要ないのだから当たり前だ。

     それと。
     今世ではいまだお目にかかれていない因縁の姿を見て、ほんの少し。少しとはいえ──情が湧いた。

     やっと面を見せたか、と心なしか歓喜を覚えたように。

     ドゥリーヨダナは子供の手を引き、ソファに座らせる。大人しく従って不安げにこちらを見上げてくる光景がおかしくて堪らない。

    「ああそうだとも。ここは我が父王の宮殿ではない。わし様も、おまえの知るドゥリーヨダナではない。おまえは絶賛迷子中だとも、馬鹿ビーマ。なんせ世界を超えて来たのだからな」
    「せかい……?もしかして俺は、天国スヴァルガに登っちまったのか?」
    「おい。勝手にわし様ごと殺すな!違う。天界なのでは……いや、古代からしたら文明も何もかも違うわけだが……とにかく、故郷とは別の地に飛んで来てしまったのだ。それも態々わし様のもとになんて、嫌がらせにも程があろう」
    「……かえれる?」
    「それはこっちが聞きたいぞ〜?きさまみたいな野生児、今すぐ送り返してやりたいというのに。……おい!泣きそうな顔するな!ビーマとあろう者が、ナヨナヨくよくよと……!」

     光の加減で色を変える菖蒲の瞳が水気を浮かばせたのに気付き、慌てて両の手で小さな頬を包み込んで目尻を拭ってやった。されるがままの彼はドゥリーヨダナを見上げ、「スヨーダナ」と震えた声で名を呼んでくる。悔しいことに不安に揺れる宿敵の姿に愛らしさを見出してしまうのも無理はなく、彼女は己の胸のうちに湧く感情を誤魔化すために子供を抱き寄せて背を撫でた。
     こんな真似、この一回こっきりで終わりだ。幼いとはいえ彼はビーマなのだから、ドゥリーヨダナから賜る慰めなど屈辱に思うに違いない。もし逆の立場であれば、憤死して暴れ回ってる。

     腕の中のビーマは大人しかった。すんと鼻を鳴らして胸元に擦り寄ってはきたが、これ以上の接触は無用だと心を鬼にして、彼をやんわり引き離す。なんせ、こんなに小さくとも風神の子、猿神ハマヌーンの弟には違いない。下手に加減を間違えられでもしたら、女の腕など簡単にポッキリやられてしまうではないか!体躯の差はあれど、ビーマからしたら現代のドゥリーヨダナは赤子同然であろう。
     それに弟を慰めるのは主に兄のユディシュティラの仕事なので、腹の立つ品行方正な男と同列にされるのも嫌だった。

     年上のムカつく従兄弟の顔を思い出して軽く身震いを起こしていると、ドゥリーヨダナとビーマの間で、くぅ、と虫が鳴く。
     出所は一つしかない。なんせ、小動物の餌に手を出すほどに食に関しては貪欲極まりない悪食さなので。

    「スヨーダナ……おれ、腹減った……」
    「またおまえはいけしゃあしゃあと……誰がわし様のディナータイムを邪魔したと思っている?……少し待っておれ。仕方ないからな、慈悲でも何でもくれてやるわ」

     かつて大悪党ヴィランとして名を馳せたドゥリーヨダナとて、ひもじい子供を放っておけるほど鬼ではない。それが宿敵の形をしていようと、だ。
     まだ少し涙が浮く目尻を指先で拭い、子供の肩を叩いてからソファから移動する。ただキッチンへ移動するだけなのだが、余程心細いらしい。雛鳥よろしく深紫の毛玉も付いてくる。
     冷蔵庫を開け、ほぼ空っぽの中身を眺めて歯噛みした。
     そも、自炊より外食が多い一人暮らし生活。食材という食材はあまり置いてはいない。今夜は珍しく早めに仕事が切り上がったため、こうして家でひとり夕食を取っていたのだが……
     とりあえず、野菜室にひっそりと置いてあったりんごを手に取り、丸ごとビーマへ与えてみる。包丁で切り分けるなんていう面倒な気遣いは森育ちには不要だろう。何も言わずともビーマは手渡された赤い実に齧り付き、舌を通る甘い果汁に目を輝かせていた。

    「まったく。疑いもせんのだな……美味いか?」
    「つめたくて、うまいっ!」
    「なら良い。これは貸しだぞ、ビーマ。この貸しはおまえのところのドゥリーヨダナに返すといい。求めようにも、今のおまえは何も持っておらんからなぁ」
    「甘く見られちゃ困るぜ。俺一人でも獣を追いやるぐらいならどうって事ないし……師匠にもな、棍棒の筋が良いって言われたばかりなんだ!」
    「ほ〜?しかしこの世界は割と安全でな。身を脅かす脅威はさほど無い。というわけで、ちんちくりんの出番も無い。残念だったな」
    「む。ちんちくりんじゃねぇっての。そういえば、下女は居ないのか?スヨーダナがひとりでいるだなんて考えられねぇ」

     それはそちらの『スヨーダナ』が第一王子だからだろう。あの頃は常に兄弟や下女などの他人を傍に控えていたが、今の彼女はただの一般独身女性。大概はひとりで何でもこなせよう。
     そことなく答えると、不要な懸念を抱かせたらしく、声色に心配の色を湛えて生意気にも顔を覗き込んできた。

    「……さみしく、ないか?」
    「……。……迷子であるキサマにそのまま問い返してやろうか?」
    「む……」
    「はは、無用な心配をする前に自分の立場を考える事だな〜?」

     しかしどうしたものか、この突然の来訪者に対する処遇は。
     第一に勿論、古代インドへの返却だろう。大いに癪とはいえ……五王子が四王子になってしまっては、かの大叙事詩は成り立たない。ビーマセーナはビーマセーナ故に、あの壮大な物語を動かすには欠かせない唯一無二の歯車だ。彼に現代の生温い空気を吸わせるのは、今ここに居るドゥリーヨダナが許せそうになかった。
     古代のビーマは古代に居るべきなのである。まあ、王宮にいるであろう『ドゥリーヨダナ』は「平穏を揺るがす野蛮人などいらん!」と跳ね返してきそうだけども。
     例の得体の知れないクローゼットを調べるべきか。そう思って踵を返すと、服の端をくんと引っ張られた。

    「な、あの鍋の中身はなんだ!?さっきからいい匂いがして気になってしょうがねぇんだ!なあ!」
    「おまえ!少しは危機感を持て!あれはわし様のディナーだ。ビーマなどに下賜してやる義理はなーいッ」

     ……そう、言い切ったのに。
     強い興味を示したせいでやけに煩くごねられ、結局、鍋いっぱいにあったポトフは全て食い意地の胃袋に吸い込まれてしまった。見目も味も馴れぬであろう異国の家庭料理が余程お気に召したのか、食っている間だけは持たせたフォーク片手に黙々と口へ運んでいたため、静かにクローゼットを調べたいドゥリーヨダナにとっては割と有難い事であった。明日の朝食のことは明日考えるとしよう。

     件のクローゼットの扉を開いても、そこにあるのは家主の私物だけだ。紀元前へ続く道などあるはずもなく。

    「おい、クソビーマ。木のうろから落ちたと言ったな?何か変化を感じはせんかったか。実はそこは神の根城で、許可無く立ち入った事で怒りを買っただとか」

     扉を締めてから振り返れば、鍋の縁を両手で掬い上げて中身を飲み干していた子供が間抜け面で首を捻っている。まったく心当たりがないらしい。
     この頃のビーマは、心の成長が不十分であった故に人間性が欠けていた部分があったように思う。特に他人からの怒りに関しては無頓着であり、些事だと受け流して本人の記憶にさえ残っていない。その無邪気な暴力に百王子達は皆揃って怒りを沸せていたが、下手したら今回の珍事も、父神の護りが届かぬ所で無自覚なヘマをやらかしたのやも。

     空の鍋を置き、軽い足取りで傍まで寄ってきた大食漢に「満足か」と問うと、満面の笑みで「すげぇうまかった!」と返されたので、それはそれで良しとしよう。

    「孔に落ちて、転がっていって、目を開けたらスヨーダナがいたんだ。それしか覚えてない」
    「どこぞのバラモンが現れて懇々と説教されなかったか」
    「されてねぇ。俺しか居なかった」
    「ううむ……」

     もはや唸るしかあるまい。手先で顎を摩り、考えに耽るドゥリーヨダナを見上げていたビーマは、徐にクローゼットの扉を開けて収納スペースに足を掛ける。本来そこは人が入る所ではないのだけど、彼にも考えがあるようなので止めはしない。

    「再現したら何か思い出すかも!ちょっと待ってな」
    「おおい、ビーマ。その汚い足でわし様の物を汚すでないぞ。下手に触れて壊すでもしたらただじゃおかんからな」
    「大丈夫だって。えっと、これで扉を閉めて……」

     クローゼットの中に収まる子供の姿が観音扉の奥へと消える。その様子を見守り、「どうだ?」と声をかけた時であった。

    「うーん、狭くって暗、い……おわっ!?」

     突然の悲鳴。ほぼ同時に響いたガタンッという大きな物音に、やっぱり何か踏み潰したかとこちらから扉を開ける。

     しかし。

    「……ビーマ?」

     ……先程まであった子供の姿は、どこにも無く。
     あるのは、散乱した変哲も無い私物達。子供どころか生き物ひとつさえ見当たらない。
     まるで、マジックを目の当たりにした気分だ。脱出不可能の箱の中から人が消えるイリュージョン。
     もう一度扉を閉め、勢いよく開けたとて影も形も残っておらず。クローゼット本体の周辺を窺っても何ら変化はない。

     ──……帰った、か?
     思い至るは当然の結論。クローゼットからやってきて、クローゼットから帰る。至極簡単な話。

     広い室内で、ひとりになる。
     ドゥリーヨダナは、元からひとりぼっちだった。思わぬところから舞い降りてきた宿敵が彼女のテリトリーをぐちゃぐちゃに荒らし、結局ひとりで取り残される。
     ……幻覚でも見ていたような、胸に残る夢心地の余韻。キツく封をして沈めたはずの些細な願いが知らず知らず水面上へ浮かび上がり、形となって現れた、気分を害する最悪の影法師。なんて悪趣味な、ゆめ。

     その後は、気もそぞろに身支度をし、さっさと寝台へ潜り込んでしまった。きっとアレは、仕事の疲れが見せた幻なのだ。そう、自信に強く言い聞かせると、全てが曖昧になり軽く受け止められるような気がしたのである。つまりは、現実から逃げた。

     しかし、そうは問屋が卸さない。

     翌朝、ドラム式洗濯機から子供サイズの古めかしい服を引っ張り出したと同時に、突如として脳内に『まだ仲違いしていなかった頃。沐浴後で濡れた髪を、彼の風神の力で乾かしてもらっていた』という、今まで決して存在し得なかった記憶が勝手にインプットされ、ドゥリーヨダナは顔を真っ赤にさせて手元の古代服をくしゃくしゃに丸めた。知らん知らん知らん!昨日までそんな記憶は無かったではないか!何だというのだ、突然!?

     その『思い出』こそ、迷子になった古代のビーマが、現代のドゥリーヨダナから知恵を得たという、決定的な証拠。

     ──願わくば、あの毛玉が二度とクローゼットから現れませんように!

     彼女の思いとは裏腹に、この日を境に幾度も幾度も「会いにきたぜ、スヨーダナ!」という台詞と共にアイリスの輝きを見る羽目になろうとは、今のドゥリーヨダナには知る由もないのだ。



    『 あの頃の、幼き君との出会い 』
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