小説家隣人パロ その男は、まるで風景でも見るかのように俺を一瞥して通り過ぎたあと、ぎょっとした顔をして振り返った。頭のてっぺんから爪先までぐっしょりと濡れて、古びて少し傾いたアパートの外廊下に座り込んでいる人間を見たら誰でも驚くだろう。驚かせて申し訳ない、と思った。
しかしそいつはその後、何事もなかったかのようにドアノブに手をかけると手前に引き、その隙間に薄い体を滑り込ませると静かに扉を閉めて姿を消した。それで俺はやっと、そいつがアパートの左隣の部屋に住む人間だったことを知る。
数ヶ月、前引っ越しの挨拶をするために訪ねた時は留守にしていたそいつの顔を、俺はこれまで一度も見たことがなかった。ドアに鍵をかけていないのか。不用心な奴だ。こんなボロアパートの鍵などあってないようなものだが、なるほど。鍵をかけなければ俺は今こんな状況に陥っていないわけだから、あいつのやり方も道理にあっているのかもしれないと、冷えた体でぼんやりと考えながら今日の災難について思い返していた。
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