十五話Aパートまで ――眠れ、眠れ、いい子の天使。
――月の悪魔が、真の姿、照らしてしまう前に……。
今日もあの人は綺麗だ。桜色の唇から紡がれる子守唄は、王立学校で習ったどの歌よりも凛としていて、うつくしい。
あの『秘密』と称した丘で、いつものように落ち合ったのが始まりだった。不格好なサンドイッチを携えて――最近は練習の甲斐あって、少しだけ……ほんの少しだけ、マシな見た目で挟めるようになった――ひとり佇む王子に、声を掛けようとした。
名を呼ぶ寸前で踏みとどまった。ぎしり、獲物を捉えたとき特有の、息を飲むような緊張感。それと全く同じ塩梅で、全身が『止まれ』と合図を発した。四肢はすっかり硬直し、血管を通って走り抜けて行くような……凄まじい速度で、全神経が張り詰めていく。
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