出られない部屋■お題
「受けから愛されてると思ってる」攻めと「攻めから嫌われてると思ってる」受けを「相手の嫌いなところを10個言わないと出られない部屋」に入れたとき。
扉の上に書かれた文章を読んで僕はボソっと言った。
「僕、ティルさんから嫌われているって思わないといけないらしいですよ」
「そんなことあり得ない。好きだよ」
二人の間に無言の時間が流れた。
「……いえ、違くて。今回の設定の話です」
「分かっているよ」そう言ってティルさんが整理してくれた。
「俺は君が好きで、君から愛されている自覚がある。でも君は俺から嫌われていると思っているってことでしょ?」
「そうです。見事にすれ違ってますね」
「そんなことで君が傷付く可能性があるなら、さっさと俺から告白して好きって分かって貰うのが一番良い解決方法だよね?」
「ん?これってそういう話なんですか?」
「相手の嫌いなところを合計10個か…」
ティルさんが腕を組みながら、う〜んと悩んでいる。確かに言い辛い話題だ。だけど、僕が恋人で不満がないはずがない。勇気を振り絞って話を振ってみた。
「あっあの…本音で言って良いですよ。一つは予想が出来ていますので…」
「え!?そうなの?俺は出てこないんだけど…何?」
ティルさんは心底驚いたという顔をした。その反応に僕も戸惑う。
「…何で僕が自分の嫌なところを聞かれるんですか…」
「いや、俺はまだ思い付いていないから参考までに聞いておいた方が良いのかなって。君の勘違いだったら訂正もしておかないと」
ティルさんの顔には「さぁ言ってみて」と書かれている。
僕はしどろもどろになりながらも小声で答えた。
「…その…いつまでも待たせて…え…エッチなことをさせてくれない…ところとか…」
「……」
僕は俯きながらも続ける。
「ティルさんは…したいんですよね?我慢してくれているんですよね?」
「……」
ティルさんは額を抑えたまま何も言わない。
僕は彼の方をチラリと見た。
「そう…思っていたんだ」
「当ってます?」
無意識に服の裾をギュッと強く握っていた。そりゃ恋人から拒まれたら傷付くし、嫌いにもなる。分かっていることなのに…上手く受け入れられない。
ティルさんのことは好きなのになんでだろう?
そう考えているとティルさんは僕の両肩をガシッと掴んで真っ直ぐ見つめてくる。
「リオウ、よく聞いてね。そこは嫌いなところじゃないよ」
「えっ!?本当ですか!?」
思わず聞き返してしまった。
「うん。勿論君としたい気持ちはある。けど、その行為はお互いの気持ちを確かめ合ったり、高め合う為であって目的じゃない。あくまで手段の一つだ」
僕はふんふんと頷きながら話を聞く。
「だからそれで君を嫌いになるのは本末転倒だ」
「そうなんですか…?」
「まぁ…最近の君が俺を受け入れようと努力してくれているから言えることなんだけど」
男女の夫婦だってレスは離婚理由になる。同性同士は婚姻関係になれないのだからお互いに努力して相手を繋ぎ止めないといけない。いつまでもティルさんの優しさに甘えたままではダメだ。
「うっ…じゃあ僕、頑張ります」
「俺も君が早く慣れるようにちょっかいは出していくつもりだから。ただし嫌われない程度にね」
そう言ってティルさんはニッコリと笑った。
「話しを戻すけど、リオウは俺の嫌いなところある?」
そうだった。このままじゃ部屋から出られない。改めて扉の上の文章を見る。
「嫌いなところって言うのが厄介ですね…好きなところだったら良かったのに」
そう、ティルさんは僕には勿体ないくらいの恋人だ。格好良くて優しくて武術が得意なのに魔力も高い。頼りになる。こんなに色んなことが出来るのに嫌味っぽいところもない。当然モテる。でも一途なんだよなぁ…こんな人の一体どこを嫌いになるんだろう?というか凄すぎて…何で僕のことが好きなのか謎だ。
僕は横目でティルさんを見た。何故か目が合う。ドキドキする。
僕がこの人と釣り合っているかは分からない。でも他の人に譲る気にはなれない。だからティルさんに見合う人になれるようにもっと頑張ろうと改めて決心した。
「俺も君の好きなところならいくらでも言えるのにな」
「どうします?このままじゃ出られないですよ?」
お互いに顔を見合わせ困ったという表情をした。
僕は溜息をついて
「壁…ぶち破れますかね?」
「その方が手っ取り早いかもね。試してみようか」
そういって僕たちは壁の方へ向き直した。
※補足
幻水の世界が同性同士が婚姻関係になれないかは分からないです。
2主が坊ちゃんのことをベタ褒めしてますが、あくまで坊ちゃんへの憧れが強く惚れ込んでいる2主視点だからです。他の人から見たら違う感想が出るかと。
2主視点なので描かれてませんが、内心では坊ちゃんも2主のことをベタ褒めしてて、「この子の憧れの存在でいられるように、ずっと好きなままでいて欲しいから努力を続けよう」と考えていて2主の方を見たので、二人の目が合っています。