乱れたシーツに横たわり、微熱のような気怠さを纏ったまま弓親は一角から渡されたペットボトルを受け取った。
締め切ったカーテンの隙間から差し込むトワイライトがしっとりと湿った弓親の身体を照らし、つい先程まで行われていた行為の余韻を艶かしくなぞる。
力の入らない手でボトルキャップを開けようとし、既に蓋が取られた状態であることに気付いて薄く笑う。
見かけによらず、こういう些細な気遣いが出来る男なのだ。
重い身体を持ち上げ、ヘッドボードに背を預ける。
荒い呼吸を繰り返してカラカラに乾いた口を潤すためペットボトルの水を半分ほど飲んだところで、弓親はおもむろに口を開いた。
「一角、今日隣のクラスの子から手紙貰ってただろ?あれどうしたの」
ベッド端に腰掛けて同じく水分補給していた一角は、投げかけられた言葉を数秒咀嚼したあと呟いた。
「忘れてた」
「酷いね君って。人の好意を無碍に扱うもんじゃないよ」
想定内の返答に苦笑する弓親に対し、一角は不本意とでも言いたげな表情を見せる。
「頼んでもねぇのに勝手に好意持たれて、挙句こっちが悪もんにされんのかよ」
「断るにしても、とりあえず読むだけ読んであげなよ」
心底面倒くさそうに溜息をついたあと、一角は乱雑に脱ぎ散らした制服のズボンを拾い上げた。
後ろポケットを探ると気の毒なほどよれて折れ曲がった水色の封筒が姿を見せた。
雑な手付きで封を開け中身を取り出し数秒目を通したのち、興味なさげにローテーブルの上に投げ置く。
「何だって?」
「こういう手紙は定型文でもあんのか?どいつもこいつも同じことしか書かねぇ」
ベッド端から弓親の隣に移動した一角は呆れたように吐き捨てた。
「好きです、付き合って下さい?」
「泣かれたりしたら厄介なんだよ」
「ふふ、今まで何人の女の子を泣かせただろうね一角。罪な男だね」
軽口を叩く弓親をじろりと睨むと、一角はその手からペットボトルを奪った。
「まだ飲んでる」
横暴な振る舞いを非難して取り返そうとする弓親の伸ばした腕を掴み、動きを封じる。
「お前も同罪だ」
「え?」
不意に投げかけられた言葉に一瞬理解が遅れる。
その隙をついて一角は弓親の身体を再び乱れたシーツの上に引き戻した。
そのまま覆い被さると、組み敷いた相手から戸惑いの声が上がる。
「ちょっと…同罪って何のこと?」
罪をわからせるように形の良い唇に口付け、舌をねじ入れると細い身体がピクリと跳ねた。
そのまましばらく粘膜の感触を楽しみ、性衝動が暴走する前に解放して口を開いた。
「お前がいるせいで他の奴らが俺と付き合えねぇんだから、お前も同罪だろ」
「…無茶苦茶な理論だね」
唐突に口内を蹂躙された上に汚名を着せられた弓親はなじるように一角を仰ぎ見る。
自分のせい、と言われるのは癪だ。
先着順でもあるまいし、お互いに相手を憎からず思っているからこそ今の関係に発展したのではないのか。
「じゃあ僕を捨てて鞍替えしたら?」
「んなこと出来るか」
つい感情的に言い放った弓親の言葉を、一角は間髪入れずかき消す。
口を尖らせて拗ねる弓親の髪に指を絡め、宥めるように囁いた。
「お前しか考えられねぇよ」
一瞬目を大きく見開いた弓親は、直視できないとでも言うように頬を染めながら目を伏せた。
「…ズルいよね君って」
「俺ほど正直な男はいねぇだろ」
「…もういいや、僕も君と一緒に罪を重ねることにするよ」
観念したように小さく溜息をついてすり寄る弓親の体温に、一角は先程抑えたはずの本能が再び目覚めようとしているのを感じた。
いつの間にかカーテンの隙間から差し込む光は街灯のそれに代わり、弓親の身体をまた違う色に染めて見せる。
無機質に白く輝く素肌に吸い寄せられるように触れると、細い指が重ねられた。
「間違いなく共犯だね、僕」
「逃げられねぇからな」
にやりと笑い意思を確かめ合った2人は、欲望の赴くまま互いの身体を貪る獣に姿を変えた。