Aの肖像(プロローグ) 日の光が僅かに届くすっきりとしない薄曇りの空の下、死柄木与一はとぼとぼと町の美術館へ向かっていた。家に帰りたくないというそれだけのために、さほど詳しくもない画家の展覧会へと足を向けていた。
昔からあるその美術館は未だ機械化されておらず、受付にはスタッフが常駐し来場者の対応を行なっている。物販とは別にリーフレットやパンフレットも置かれているため、忙しいであろうに初老の男性スタッフは涼しい顔で来場者をさばいていた。あまりひと目につかないようにと俯きながら足を踏み入れた与一は、並べられた美術品を横目に歩いていく。さほど時間をかけずに一階、二階と回廊を回り、案内板に従って三階の休憩スペースへと辿り着く。
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