ジャンメグの話 『快進撃が止まりません』
『バトルが終わりました、勝利です』
そのアナウンスを聞くが早いか、中央に佇む少女がカメラに向かってその身体に釣り合わない大口径のガトリングガンを乱射し微笑む。左右で色が異なる髪が靡く。
「いえ〜い!メグメグの勝ち〜♪」
自身をメグメグ、と名乗った彼女はこの#コンパスではガンナーと呼ばれるジョブに就いている。本来ならば後方からアタッカーや、私のようなタンク達を支援しつつ長い射程を活かした攻撃を主として行うジョブだ。しかし彼女の戦闘スタイルは違った。アタッカーと同じか、それ以上前に出て敵を倒す事だけを意識して戦っているようだった。痛みを忘れてしまった自分にダメージなんて関係ない。そう言うように、前に出てはダメージを負って、それでもまた前に出て。死んでしまってもまた前線に駆けて行って敵を撃ち倒す。私には彼女の戦闘に対してとやかく言うような権利は無い。けれど…やはり心配になる時は少なく無い。彼女だって人間なのだ。認識していなくとも肉体に限界はある。この電脳空間ではそんなの関係ないなんて事も分かってはいる。それでも、かつて目の前で幾多の仲間の死を目の当たりにしてきた私には…。
「ちょっとだるっち〜!せっかく勝ったんだよ?ハッピーでしょでしょ?」
ハッと我に返ると、メグメグさんがこちらを覗き込んでいた。バトルの興奮が抜けきらない、少しほてった顔で。その表情は凄く明るいはずなのに、なんだか無性に切なくて。つい、生まれた一つの疑問を不意に問うてしまった。
「メグメグさんは…死を恐れていないのですか?」
「え?」
突然そんな事を問われて、メグメグさんも少し驚いたような、訝しむような表情を浮かべる。つい溢れてしまった疑問を補足するように続ける。
「…勿論、私は貴女の事をきっとまだ知り得ていません。ですが、貴女はまだ子供の身である事は見ての通り。守られるべきだった立場のはずです。なのに、何故…何故、貴女は…」
言葉が詰まる。メグメグさんは私を不思議そうに見た後、答えを紡ぐ。
「メグメグはねー、『痛い』も『怖い』もよくわかんないんだー…だから、どれだけダメージ受けても関係ないの!ここでなら、死んでもまた復活できる。だから死んでも平気!サイコーだよね!」
無邪気に笑う彼女と対照的に、私は打ちひしがれていた。元は彼女も、痛いを知って、怖いを知って、心を殺さなくて済んだはずなのに。どうして。
「…『痛く無い』と『ダメージが無い』は別物なのですよ、メグメグさん…」
「……?だるっち…?」
きょとんとする彼女を前に、そう絞り出すのが精一杯だった。壊れた彼女の心はまだ治せるだろうか。私はきっと、この子を救わないといけない。神の声が聞こえたわけでは無いけれど、そんな気がした。少しずつで良い。一緒に歩んでいかなければ。私が彼女の過去に向き合い、彼女が痛みを思い出すまで。