私と貴方と貴方と私 目を開けたらパーシヴァルの寝顔があった時の心境を20文字以下で述べよ。
答え、よし! これでラブラブセックス生活突入ー!
である。歌って踊り出さなかった自分を褒めてやりたい。
恋人となったものの手を出されず添い寝すらしてもらえず、落ち込んでいたのだ。黒髭をBARに連れ出し、相談してしまうほどには。
『黒髭。率直な意見が欲しい、三十代後半女、見目は悪くなく、性格は外向的、箱入りというわけでもない。そんな恋人が処女だった場合、関係を進展させる上で処女はプラスかマイナスか』
『オブラートいります?』
『貴様の溶けやすく破れやすいオブラートなど初めからない方がマシだ』
『マイナス一択。重そうだし面倒臭そうだし、扱いに困る』
『うぐぅ……り、理由を説明してもか?』
『荒くれどもの男所帯、女とバレれば見境なく襲ってくるバカはいるからだろ? そしたら婚期だけでなく処女を散らすのも逃しちまったってやつね。まぁはいはい……で、理由は分かったが、とりあえずその処女、とりあえずぶち破っていいのか、優しく夢見させてやりゃいいのか、どっちなんだい! ってなるな』
『ぐぅぅぅ』
『まぁでも、相手はあの騎士様だろう? 私の為にとっといてくれた……とは言わねぇな、大切にしたいとかなんとか、むしろ感激されるんじゃねーの? 知らんけど』
『大切にしたいと言われたさ! だがこんなに手を出してもらえないとは思わないだろう!』
やはり重いと思われてるのか。面倒だと。いやだがあのパーシヴァルだ。言葉通り大切にしたいのだろう。わかっている。わかっているが、こっちは両想いになった日の夜でも覚悟はできていたのだ。こっそり風呂で全身ピッカピカに磨いてきたし、なんならデートの日は今日か今日かと念入りに風呂に入っているのだ。それなのにそれなのに。
『押し倒そうにも力では勝てず、魔術や媚薬の類も勘付かれる。こうなれば……酒だ! 酒の力に頼ってやる!! 酒は魔術でも媚薬でもないからな! でろんでろんに酔わせて上に乗ってさよなら処女! おいでませセックス生活だー!』
『……おいバーソロミュー、異様にテンションがって、誰だよこんな度数の高い酒飲ませたの……拙者か』
『マスター! これと同じ酒の瓶をダースで持ち帰る!!』
そんなこんなで黒髭と教授に見送られ、酒瓶が入ったケースを持ってパーシヴァルの部屋を訪れた。
夜だというのにパーシヴァルは嫌な顔一つせず酔っ払いを出迎えてくれ、そっとケースを取り上げて水を飲まし、バーソロミューの部屋までおくってくれ、ベッドに横にして布団をかけてくれトントンまでしてくれたのだ。
バーソロミューは眠気に逆らえず……
「ん?」
ここで記憶と現状の異和に気づく。
てっきり酒の勢いでパーシヴァルとと思ったが、記憶では寝かしつけられたはずだ。バーソロミューの部屋で。
だがここはパーシヴァルの部屋。バーソロミューの部屋ならばメカクレ人形やグッズがサイドテーブルやベッド周りに置かれているはず。
寝かしつけられてから、何かが起こった? 思いだそうとするが、記憶の欠片も見当たらない。
そもそも昨日はやったのか、添い寝だけという可能性もありえると、布団を少しめくって自分の身体を見る。
「…………」
軽装とはいえ服は着ていた。服の上からでも分かる。なんだか自分の身体が違う。
まず、胸がない。そして腰回りや脚も少しはあった丸みがなく、引き締まっている。
「………………」
そういえば、昨日寝かしつけられながら、パーシヴァルに喚いた。
『どうして手を出さないんだ』『据え膳だろう』『やはり処女は重いのか』『それとも他に理由が?』
思いつく限りの理由をあげ、そうだその中に、同性愛者なのか、私ではという発言をした記憶が蘇る。
いやまさか。そんなバカなと現実を否定しつつ、ベッドから抜け出す。
あ、よかった姿見があったとその前に立てば、先端が白に抜けたうねりのある黒髪、日に焼けた肌、海のようだと讃えてくれた青い目と、自分の面影がある男がそこに立っていた。
いや、まだだ。
まだ決まったわけではと、往生際悪く自分を見下ろす。自分の下半身を。
そっとパンツのウエスト、その腹部分に指を入れ、ちらりと前に引っ張る。
「…………………………よし」
指を引き抜いてパンツを元の位置に戻すと、部屋から出る為、ドアに向かう。
混乱の真っ只中にいるので自室であれこれと考えたい。というか、自室に引きこもりたい。無理、不貞寝したい。どうして男になるんだ。聖杯か。この身に、うん? この身か? まぁいい。この身にいれられた聖杯のせいか。その聖杯が願いを叶えたか。そんな叶え方は遠慮願いたかったのだが。
ともあれパーシヴァルに見つかる前に、添い寝とかしてたならもう見つかってるかもだが、本当に昨日何があったのか。ともかく見つかる前に! この場を離れなくては!
とドアに向かい、ドアのタッチパネルに手を伸ばそうとした時、背後から声がかかる。
「バーソロミュー? どこにいくんだい?」
「っ!」
ちょっと食堂に紅茶でも、と言いかけ、声帯も変わってるだろうからと言葉を飲み込む。
振り向いていいものか悩んでいれば、パーシヴァルがベッドから降りる気配が。
「貴方が不安に思う気持ちを真に理解できず、察する事しかできない私を不甲斐なく思う。貴方が昨夜、提案したように私が毎夜、貴方を求めれば少しは不安が拭えるのかもしれない」
昨夜、何をしたんだ何を言ったんだ私は!
混乱した頭でも、パーシヴァルがすぐ背後に立ったのは気配で感じ取れる。
「だがそれでも何があっても身を差し出そうとする貴方を受け入れる事はできない。私は貴方が怪我をしていれば手当に専念し、霊基異常をおこしていれば寄り添って解決に専念したい。何もない日でも昨日のように互いの気持ちを語り合って寄り添って寝るだけの日も尊いと感じたい」
バーソロミュー、とパーシヴァルが後ろから抱きしめてくれる。
「私は貴方がいいのです。若くないからだとか、悪党だからとか、男だからと、か…………」
パーシヴァルの言葉が途切れ、抱きしめられていた手が離れて肩を掴まれ、正面を向かせられる。
青い瞳がバーソロミューを射抜き、威圧する声が問うてくる。
「誰だ? バーソロミューの身体で何をしている?」
自分に向けられた殺気にも近い圧に、正直、ゾクゾクしてしまったが、それはそれとしてオタクとしてはこの機会は逃せないと、大きな声で叫ぶ。
「私たち、入れ替わってるー!!??」