私と貴方と貴方と私③「もう一度! もう一度でいいんだ! あの視線と低い威圧する声で私を罵ってくれ!」
パーシヴァルの前で入れ替わってるー! と叫んでしまったせいで、管制室とメディカルルーム、そして名だたるキャスターに知らせが行き、あれよあれよとバーソロミューの中にいるのが別世界の女のバーソロミューだと判明してしまった。
判明した瞬間から、パーシヴァルの目線は優しくなり、声は柔らかくなってしまった。
せっかく手に入れた宝や玩具を取り上げられた感覚に、バーソロミューはメディカルルーム内で「ちょっと罵ってくれたまえよ!」と叫んだ。
もちろんパーシヴァルは拒否。
そこをなんとか、先っちょだけでいいからと食い下がっていれば、メディカルルームを追い出され、廊下で冒頭のセリフを叫んだ。
「後少しで新たな扉が開きそうだったんだ! あの一瞬後には喉を槍で突かれそうな気迫と、声だけで戦意を喪失させる威圧感。それが別世界とはいえ“バーソロミュー”の為で、正直、興奮したというか!」
「お断りします」
「殺意が足りない!!」
くそぅ!
とバーソロミューが地団駄を踏む。
「こうなれば私も手段を選ばない! 貴殿の恋人であるこの身体に何かさせてもらおう!」
いつ入れ替わりが解消するかわからない。なにせカルデアのキャスター達と技術顧問が調べているのだ。
なのでバーソロミューは出し惜しみせず、最初から切り札をきった。
これは流石のパーシヴァルも怒るはずだ。さぁこいと期待に胸を高鳴らせて待っていれば、純粋な疑問なのですがと問いが返ってくる。
「何かとは?」
「え?」
「具体的に何をするのかと」
「そりゃ……」
真っ先に思いつくのは自傷行為だが、腕の一つ切れば医務室に運ばれて治される。それはカルデアの魔力を無駄に消費する事になるだろう。このカルデアは私のカルデアではないが、それでもこんな戦いの中にいるべきではないマスターがいて、踏ん張って戦っているのだ。我がマスターと敵対したら話は別だが、そうでないのなら、私のせいで魔力を無駄にするべきではない。
となると後は魔力を消費しない行為。
バーソロミューの過去の恥ずかしいエピソードをと思ったが、それは自分にもダメージがある上に、こっちのバーソロミューも同じ体験をしているとは限らない。
となれば、だ。
「……変顔とか変な格好してストームボーダー内ねり歩くとか?」
「それはなんとしても止めないとだね」
なぜか微笑ましいものを見るような目をされてしまう。
その後、パーシヴァルにエスコートされ、しばらく寝泊まりする部屋に案内された。
パーシヴァルは部屋に入る前に管制室に用事があるからと去っていった。
部屋のベッドに腰掛け、バーソロミューは部屋を見渡す。
見慣れたメカクレグッズ。見慣れないメカクレグッズ。そして私の部屋にはあるのにここにはないメカクレグッズ。
ストームボーダーは無限に部屋があるわけではない。
なのでこの身体のバーソロミューが使っていた部屋をあてがわれた。
同じバーソロミューなのだから当然なのだが、とても趣味が似ている。私もこの角度、この配置にするなという置き方をされ、厳密に言えば自分の部屋でないのだが安心する。
ボスンとベッドに横になり、目を閉じる。
こちらのバーソロミューとパーシヴァルはすでに夜を共にしたっぽいなぁ。羨ましい。私の努力が足りないのだろうか。もうこうなれば精力剤か。
そんな事を考えていれば、ほどよく眠気が襲ってきて——そういえば日記はあるのだろうか? と疑問に思う。
日記があるのならば、バーソロミューがどうやってパーシヴァルと初夜を迎えたか書いてあるかもしれない。男と女の違いはあるとはいえ、パーシヴァルとバーソロミューなのだ。参考になるかもしれない。
そうと決まればとバーソロミューは立ち上がり、床に這いつくばり、ベッドの下を見る。
ベッドの裏、ファイルがガムテープで固定されており、その中に鍵付きの日記帳が入っている。
あったあったと、日記を取り出せば、バーソロミューはベッドに腰掛けて自分の髪を一本抜いて鍵穴に差し込んだ。
「はぁ!? この◯◯◯◯◯が!! ふざけんな!」
自分とよく似た字の日記を読み、バーソロミューの口からは恋人には聞かせられない言葉がこぼれ落ちる。
「そんなに愛されといて、何が不安だ? あ? 毎日塞がれたいなら◯の◯◯◯◯でも詰めとけ」
日記には不安が綴られていた。
海賊だから男だからやはりいつかわと。
だから面倒くさいと思われる、重いと思われると分かっているのに身体で繋ぎ止めようとしてしまうと。
「はぁ〜? 自分の◯◯にたいそうな自信だなおい。そんなけやってりゃもう◯◯◯◯だろうに」
パーシヴァルは言葉をつくして安心させようとしてくれて、それが嬉しくてまた求めてしまうと。
「かまってちゃんか!? 試し行動はやめろおい! なんか居た堪れなくなるだろう!」
バンバンとベッドを叩き、「ちくしょう羨ましい!」と叫んだ。
「私だって、パーシヴァルのパーシヴァルを生でみたい! 私だって◯まで◯いて欲しい! ◯◯飲み込んで咳き込みたい!」
こうなればとバーソロミューは丸机に本を置くと、ペンを手に取る。
帰ってきた時に見て驚くがいいと、“それだけ愛されといてまだ試し行動とか、最大の海賊はずいぶん甘えたなんだな”と書き込んだ。
いくぶん溜飲が下がっだが、まだムカムカはおさまらない。
“私がこちらに来た時、彼の腕の中だったが、彼は紳士的だったので安心したまえ”
あえて勘違いされかねない文を残す。
満足して日記を閉じようとして、紙に文字が浮かび上がるのを視界が捉え、急いで開ける。
そこには、
“耳年増の処女◯◯◯に彼の相手は刺激が強かっただろう?”
と、バーソロミューと似た字で返信がきていた。
そうして鳴ったゴング。
普段、洒落者、粋人を気取っているが、荒くれ者の船長だったのだ。それはもう良い子には聞かせられない言葉の一つや二つは知っている。
相手が自分となればなおさら遠慮などいらない。
互いの痛いところが分かるからこそのダメージ、引くに引けないプライド、日記越しのやりとりはヒートアップしていく。
冷静になればけっして口にしない事まで書き連ね、“いっそ男の身体でこっちのパーシヴァルに抱かれとくのも悪くないな、緩くなってる◯使ってやるよ”みたいな事を過激に書けば、相手からの返信が止まる。
今まではすぐに日記に書き足されたというのに。
十分経つが返信がない。
何かあったのかと思っていれば、バーソロミューとは違う文字が浮かび上がる。
“バート、浮気かい?”
見慣れるほど手紙のやり取りをしたその文字に、ヒュッと息を呑んだ。