「で、どう思う?」
海賊の黄金時代、その代表格で悪逆の限りをつくしたと言い伝えられる大海賊、エドワード・ティーチこと黒髭は、同じく大海賊にて最後にして最大の海賊と謳われるバーソロミュー・ロバーツに相談を受けていた。
受けていたというより、部屋にノックもせずに入ってきたと思ったら、服を解かして下着姿になり、仁王立で冒頭の質問をされた。
何が何だかわからずとりあえず発砲でもしとくか、とならなかったのは、質問内容を正確に理解できてしまったからだ。
このバーソロミュー・ロバーツ、何をとち狂ったのかキラキラ騎士様の円卓第二席、パーシヴァル・ド・ゲールに惚れた。じゃあ奪えばいい。あの円卓から身も心も綺麗な騎士様堕として奪ってやれ。海賊と円卓のドンパチは楽しそうだ。一枚噛ませろやとなると思ったのだが、蓋を開けたら騎士様の方が凄かった。
もうお前、疾風の略奪返上しろよと思うぐらいに、騎士のまっすぐな猛攻と気迫にバーソロミューはたじろいで、怖気付いて尻尾巻いて退散した。まぁ逃げきれなかったので、周りだけでなく本人達も両思いだとわかっているのにくっついてないという状況ができあがった。
早よくっつけ鬱陶しい、というのが黒髭含む多くのサーヴァントの意見だ。
それがとうとう、腹を括ったらしい。
なんだっけか。日本の京都にできた微小特異点。マスターがレイシフトしたら、第一村人が聖杯持ってて意気投合して、爆速で解決して後は特異点消滅まで楽しんでというボーナスステージよような状況だったはず。
そういや食堂で騎士様にバーソロミューは誘われていた。共に異国の地を巡らないかと。バーソロミューはなんと返事をしたのだったが。とりあえず答えはイエスだったのだけ覚えている。
つまりその京都でついに恋人になって、まぁ最後まで奪うつもりなのだろう。海賊らしく。
それで勝負下着に意見を求めてきた、と。
理解できたといえど、ふざけんなと首根っこ掴んで放り出してもよかった。それもしなかったのは、いいかげん、つれない態度をとってしまったと、酒に付き合わされるのも鬱陶しかったしという心情からだ。
だからその身につけている下着について助言してやろうと、上から下までまじまじと見る。
顔は満点。
身体も筋肉ダルマとまでいかず、それでも海の男らしく鍛えられている。そして陰部を覆うひらひらした布。
騎士様のひらひらした白い布とお揃いでつねと言おうものなら殺し合いに発展するので率直な感想は飲み込んで、聖杯ウィキから知識をインストールする。
越中褌。縦に長い布。その片端、その両側から紐が伸びている。臀部に布が垂れ下がるように布を背に当て、紐を腹に回して結ぶ。臀部から股を通して布を腹部に回し、結んだ紐と腹の間に布を通し、余った布は前に垂らす。そうして褌のできあがり。
「あ〜、ね〜」
正直、だから? である。
異国の下着だなぁ、似たような下着はどっかにはあったか。どちらが起源かは知らないが、下着だな、である。
きっとコイツの事だ。日本、和服、下着とぐるぐるぐるぐると考えて、日本の古来の褌にしたのだろう。
「なんで赤よ」
「縁起が良いらしい」
「ゲン担ぎか」
仁王立ちして赤い褌で立つ姿は勇ましいが、初夜でそれを求められているかどうか。
どちらかといえばマグロ一本釣りしそうな格好である。
「エロくはねぇーんだよな。モノと尻の出方も中途半端だし。越中褌じゃなく六尺褌にして、形くっきり、尻たぶもばっちりだしたらどーよ」
聖杯ウィキによると、六尺褌はほぼTバックだ。
「それは、その……やる気すぎて引かれないか?」
「あの騎士様は引きはしねぇーと思うけどな。それかうっすい布ねぇの? レースとか。それで越中褌にすれば?」
「……ちょっと採点しろ」
ガサゴソとバーソロミューは持ってきた紙袋から様々な布を取りだす。
レースやら赤やらピンクやら、どれも褌なのだろう。
目の前でファッションショーをしようと脱ごうとしたバーソロミュー。この流れはと、慌てて止めようとする。
「待て待て待ちやがれ。この流れは、」
「失礼する!!」
「ほらー! って、え!?」
当て馬。お約束展開できっとパーシヴァルが飛び込んでくるとばかり思っていたのだが、飛び込んできたのはろくに話した事のないサーヴァント、大学教授になりたてぐらいのヤングモリアーティ。
黒髭と褌姿のバーソロミューを見て、目を開いて驚いた顔をするも、すぐにスンッと元の顔に戻る。
「なるほど、理解した。単純な方程式だとも。つまりダンテも褌か」
「なんでさ」
黒髭は某赤いアーチャーが時たまもらす口癖で突っ込む。それを聞き、いいだろう! 証明してやろう! とばかりにモリアーティが語りだす。
「私が不在の時にM &D法律事務所にそこの海賊が相談にきたらしくてね。恋人のハートを鷲掴みにする和服の下着はなにかと」
「法律事務所とは」と黒髭。
「けっして最近、依頼がなくて暇だからではなかったと思うが、同じマスターに集ったサーヴァントだ。快く相談に応じ、」
「『暇だし……私も悩んでたし』とわりと前のめりで応じてくれたよ」とバーソロミュー。
「……ともかく! ホワイトボードを消してなかったので、思考の痕跡を辿るのはたやすかったよ。後は答え合わせだけだ。バーソロミューは騎士に見せる前に誰かの意見を聞くだろう。そう考えてココにきたのだが、どうやら私の推理はなにもかも当たったようだ」
うんうんと満足げに頷いているモリアーティ。そんなモリアーティにバーソロミューはよく通る声で答えを告げる。
「彼は何もはいてないが」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
「着慣れない下着ははくのが難しかったらしく、それならいっそなしでいいのでは、着物は昔そうだったらしいし、という結論に達したらしく。……君はもう京都にレイシフトしたのだと思って、後をおったはず、」
「失礼する!」
バーソロミューの言葉の途中で飛び出していったモリアーティ。向かうは管制室だ。今すぐにレイシフトしてくれと頼むのだろう。
嵐のように着て去っていた来訪者を数秒見送ってから、バーソロミューは黒髭に向き直った。
「それで何がいいか、点数をつけて欲しいんだが」
「あ〜、その採点は辞退しますわ。拙者より、もっと最適な奴が来たんで」
「はぁ?」
片眉を跳ね上げて銃すら取り出しかけたバーソロミューの肩に、バサリとマントがかけられる。
そのマントは白色で、見慣れた物で、振り向かなくとも気配や香りで誰かわかってしまう。
「え? えぇ? な、なん、で」
冷や汗をかいていると、黒髭が手を振っている。その手には端末が握られていた。
「パーちゃんとメル友になっちゃった」
「私でもまだなのに!? パーシヴァル! 君、携帯持ったのかい!?」
振り向けば、微笑みを顔に貼り付けるパーシヴァルが。
あ、マズイ。
と、直感で悟ったのだろう、逃げようとしたバーソロミューを、ひょいっとパーシヴァルが抱え上げる。
「あ、あの、パーシヴァル、これはね」
「えぇ。わかってます。採点なら私に任せて」
律儀に黒髭に礼を言って去っていくパーシヴァル。
その背中を見送ってから、黒髭はクワッとあくびをする。
「バカップルは片付いたし、一眠りしてから、アニ◯イトに行きますかねぇ〜」
ベッドに横になり、目を閉じれば、入手するグッズの事で頭はいっぱいになり、バーソロミュー達の事はもう忘れていた。