はじめての宅呑みアパートの階段を登り切る。いつもより弾んだ息をどうにか落ち着ける。
気付けば肩で息をしていた。2度深呼吸する。すー、はー。すー、はー。
余裕ぶって振り返ると遠くの空が暮れている。じきに真っ暗になってしまうんだろう。
ジャケットのポケットに入れっぱなしだった家のカギを探り当てる。最近コイツを使うのにはコツがいるようになってしまった。
少し、押すようにして、回す。
カチャリ。
ほら、開いた。
今日、この部屋に古くからの友人……、御剣怜侍が来る。
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そう決まったのは今日の昼の事だ。裁判所での用事を済ませて伸びをしていたら、目の前を派手な赤いスーツが横切った。
「御剣」
「ム?」
振り返ったのはやっぱり御剣で、鋭い目を丸くさせていた。こんなに近くを通って気付かないなんてコトあるのか?
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