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    すなの

    @sunanonano25

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    すなの

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    自転車に乗る話
    車庫入れ匂わせありますが、どちらでもお好きな方で読んでください

    Someday, in September garden 酩酊した時とは違う、不快な浮遊感だ。
    耳障りなブレーキ音に歯を食いしばって傾ぐ体を戻そうとするが間に合わない。肩の辺りに奇跡の気配が柔らかく漂っていたが、癪なので突っぱねて反対側に倒れ込んだ。
    「クロウリー!」
    クロウリーの体が地面に着くより先にアジラフェルがもう一度奇跡を起こしたから怪我をするような酷い転び方は免れた。尻もちをついた悪魔の横で車輪がカラカラと申し訳なさそうに回っている。


    「お前、自転車乗れるのか!?」

    どんな話の流れだったかは思い出せないが、ただ意外だったのだ。結局車の運転も奇跡頼みだった天使があんな不安定な乗り物を操るなんて想像がつかない。
    「乗れるさ」とアジラフェルが不服そうに言うので、少しだけ意地悪を言いたくなった。悪魔としては当然、しかし、友だちとしてはいささか礼を欠く行為だったかもしれない。
    「奇跡なしで? 公道を?」
    「そうとも」
    「なんでそんなおかしな嘘をつく?」
    「嘘はつかない。わたしは天使だ」
    「そうだったな」
    「疑ってるのか? 確かにわたしは色々……器用な方ではないけど、車の運転だってできるし、スクーターにも乗れる。乗馬も君より得意だ」
    「ああ……」
    車の運転はともかく、乗馬はたしかに……と小さく頷く。クロウリーがあまり馬に乗りたがらないのは上手い下手よりも好悪に因るものだったが、結果的に乗馬はアジラフェルの方が得意かもしれなかった。
    「ダンスもそう。私の方が上手だ」
    それはちょっと、踊る天使が自分以外にいないからって驕りすぎじゃないだろうか。そう言おうとしたが、「そうだ!」とアジラフェルがわくわく声を弾ませるのに、なんとも嫌な予感がして口を閉じる。
    「そんなに信じられないなら見せてあげよう。ちょうどいい天気だ。バスケットに昼ごはんも積んでピクニックに行こう。どうかな?」
    「お前ピクニック好きだな……いや待て、俺を前カゴ付きの自転車に乗せるつもりか?」
    「嫌ならカゴの代わりにギアをつけてあげるよ。さ、コーヒーとサンドイッチの用意をしよう」
    そう言って、天使は強引に悪魔の手を引くことも悪魔に好きなサンドイッチの具材を聞くこともしなかった。自分が用意してやれば、クロウリーは渋々でも必ずくっついてきてくれるとアジラフェルは無邪気に信じているのだ。彼は一度この思い込みのせいで本当に酷い失敗をしたはずなのだが、どうも懲りていないらしい。クロウリーもクロウリーで、結局彼のこの無邪気さ、天使らしさを気に入っているものだから、最後はアジラフェルの言う通りにしてしまう。今だって忌々しげに舌打ちしているが形だけのことで、なんてことはない。犬も食わないアレだ。
    とにかく天使と悪魔はそれぞれの自転車のカゴにサンドイッチとコーヒー、紅茶を積んでピクニックにでかけることにした。

    なぜ自分がこの乗り物を好まないか、クロウリーはすぐに思い出すことになった。
    ハンドルはぐらつくし、カゴの荷物は気になるし、どこもかしこもスタイリッシュじゃない。自転車そのものも、乗っている自分もだ。
    5mも進まないうちにふらついて転んでしまった悪魔の横に自分の自転車を停めおいて、天使はむくれている友だちをよっこいせと抱き起こした。
    「大丈夫? 怪我は?」
    「怪我はしてないが、あんまり愉快な気分じゃないな」
    「ああ、怪我がないならなにより」と天使が微笑んだのを見てクロウリーがむっと眉を寄せる。
    「ずいぶん楽しそうだな。友だちの失敗を笑うなんて天使らしくないぞ」
    「まさか! 君が危ない目にあうのが楽しいわけがない。ただ……そう、かわいいなと思って」
    悪気はないんだ……と、本当にしょんぼりしながら天使が言うので、悪魔はついつい黙ってしまう。
    「君は誘惑が仕事のくせに、君自身はとても無欲だろう? 自転車に乗るのも馬に乗るのもわたしには楽しいことだ。体が弾んで、いい景色が流れていって……ね? 同じように、君は食事もダンスも嗜むけれど夢中になったりしないし、なんというか、肉体の欲望に浸らないタイプだ。浸るのが下手なようにすら見える。悪魔なのに……わたしにはそれが好ましいし、少し……ごめん、やっぱりちょっとだけ面白みがあるなと思った。ただ決して馬鹿にした訳じゃないんだ」
    「……ああ、わかったよ、わかった」
    クロウリーに言わせれば、アジラフェルの方こそ地上のあらゆる楽しみ、悦びに耽る才能があり過ぎるのだ。天使のくせに。クロウリーだって並の悪魔程度に貪欲だし、おびただしい量のアルコールで酩酊するのも、ベッドで悪事に身体をとろけさせるのも大好きだ。肉体の快楽に浸るさまなんてよくよく見て、知っているはずなのに、「無欲」だなんて笑わせる。
    「なあ、この体を楽しませるならもっといいやり方がある。知ってるだろ?」
    クロウリーは欲深な天使の腰を抱き寄せて悪魔らしく囁いた。
    「こんなのより、お前に乗る方がずっと楽しい」
    あけすけな誘惑に焦る天使を家の中に引きずり込んであわよくばベッドでもう一眠りできたらいいと目論んだのだが、アジラフェルは狼狽えもしなければ自転車での外出を諦める気もないようだった。それどころか、しれっと「ああ、そうだろうね。わたしもだよ」なんて言うものだからクロウリーの方が目を丸くしてしまう。
    「でも、ほら、自転車はわたしと違って動かないし、随分静かだろう? よっぽど取り回しやすいと思うよ」
    「ああ……?」
    「きっとすぐ上手になる」
    つ、と胸の辺りを撫でてくるやわらかな指にいよいよ面食らう。
    「君は乗馬もあんまり好きじゃなかったようだけど、体に美しい風を受けながら走るのって気持ちがいいよ。背すじが伸びて、額を上げるとわれわれの故郷が見えそうなくらい空が高く澄んでいて、それで、横を見ると君がいるんだ。素晴らしいだろ?」
    そのあんまり清らかでやさしい景色は悪魔の体に毒なような気がしたが、思い浮かべずにいられなかったし、悪くないなと思わされた。天使はにこりと微笑むともう一度「さ、行こう」と促した。
    空には爽やかな風が満ちて、天使の巻き毛が秋陽を受けて滲むように光っている。サングラス越しにも分かるくらいに。
    「なあエンジェル、今日はいい天気だな」
    「うん、本当にね」
    「今気がついた」と悪魔はサドルに跨りながら言った。
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    すなの

    DONEアイスフレーバーワードパレット
    12.バナナ
    ひとがら/そばかす/脆弱性 でした🍌
    人間AUリーマンパロです👓👔
    スイートスポット 情報システム部と総務部なんて一番縁遠そう部署がどういうわけか同じフロアで隣り合っているのは、結局どうしてなんだっけ。
    クロウリーに聞くと「実働とそれ以外みたいに雑に分けてんだろ、どうせ」とか言うけれど、あの日のことを思い出す限り二人にとってこのオフィスの不思議な配置は幸運と言う他なかった。
    土曜の昼下がりだった。産休中のアンナが人事書類を提出しにくるというので、アジラフェルはガランとした休日のオフィスで彼女らを待っていた。それ自体は前々から予定していたことだったし、こちらにもあちらの用意した書類にも不備はなかったから手続きは無事済んで、復職時期の相談もできた。誤算だったのは、どこから情報が漏れたのか、生まれたてのかわいいアンナの赤ん坊を一目見ようとやれ彼女の所属する営業部のだれそれや、同期のなにがしがわらわらとオフィスを覗きに来て、アンナはアンナで「これ皆さんでどうぞ」なんて言ってえらいタイミングでお菓子の箱を出してきたことだ。チョコとバナナのふんわり甘い匂いのするマフィン。個包装だから持ち帰れはするが、まあみんなこの場でいただく流れだろう。そういうタイミングだ。カップが足りない!
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