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    すなの

    @sunanonano25

    👼😈👼
    書いたやつ‪‪𓂃 𓈒𓏸✎

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    すなの

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    クロアジを書こうとしたはずなんですがなんか天使が男前になってしまいなにがなんやらになりましたがクロアジです

    火の夢を見る 眠っているのかと思ったが、そんなわけはなかった。天使は眠らない。

    待ち合わせはしていなかった。でも店の表には閉店の札が掛けられていたし、中に確かにアジラフェルの気配があった。クロウリーと約束があるわけでも出かける用事があるわけでもないのにこんなふうに店を閉めている理由は……まあちょっと考えればそれなりに思いつく。まず今日は雨だし、客のコートについてくる雫が店の床や万が一大事な商品まで汚したりしたらたまらないから。じゃなきゃ、しつこい客を追い払った後かもしれない。あるいは週末の善行を天国へ、そうじゃなきゃ彼のぶあつい日記帳へ報告するためかも。
    クロウリーは店の奥へ歩を進めて、それらのどれでもない、しかしこれ以上ないほど納得の理由を目の当たりにした。
    息をするのを忘れていやしないだろうか。まばたきは完全に忘れている。リーディンググラスの奥の目は一心に手元の本のページへ注がれていた。
    一体何時間こうしているんだろう。マグの中のココアはほとんど手のつけられないまま冷たくなっているし、昼から雨雲に遮られて薄くしか差していなかった日ももう落ちかけている。薄暗い室内に明かりもつけず、天使は黙々とページを捲っている。
    近くに寄ってみても、よっぽど夢中なのか目線はぴくりとも動かず訪ねてきた悪魔に気づく気配はない。人気もなく明かりのひとつもつけない室内は随分と冷えていた。
    「……エンジェル、アジラフェル」
    呼びかけても返事はない。
    ふだんなら絶対にしないことだったが、もう一度、今度はもっと耳元近くに顔を寄せてまず視線を送る。……気づかない。べつに読書の邪魔をしたいわけじゃない。急ぎの用事があるわけでもない。奥のソファに腰かけても勝手にキッチンの棚の酒瓶をくすねても咎められたりしないだろう。いつものことだ。そうすればいい。なのに、クロウリーは見えないなにかに手を掴まれているようにそこから動けなかった。
    「アジラフェル」名前を呼んで、ページを押さえる手にそっと触れる。こちらを見ない。気づくそぶりもない。息をするのも忘れていれば、視覚以外の感覚を閉じてるのかもしれない。氷みたいに冷たい指に触れたまま、クロウリーは少し逡巡して(バレやしない)と人間みたいな言い訳を胸の内で呟いた。それからアジラフェルの手の甲にそっと唇を近づけて、親が小さな子どもにしてやるように冷えた指に吐息を吹きかける。天使の指に適切な体温が戻ってきたのを確認して、逃げるように部屋奥のソファに座って入口の方へそっぽを向いた。
    誰かが、例えばアジラフェルが今クロウリーのしたことを目撃したら、悪魔に似合わない優しい所業だと頬を綻ばせるかもしれない。でも、とクロウリーは思う。でも、これは悪事だ。だってなんだかわからないが胸が痛む。

    「クロウリー」呼ばれて目が覚めた。目が覚めるということは、眠っていたのだ。いつの間に。
    「かわいそうに、こんなに冷えて」
    天使は天使然とした所作で、躊躇いなくクロウリーの手をとると自分の指に匿って優しく擦ってくる。そんなのお前だって、という言葉がクロウリーの喉から出かけて、ブレーキがかかる。眠る直前の悪事が寝ぼけた頭に蘇ってきたのだ。
    「……ご慈悲をどうも、天使様」
    引っ込めようとした手を、なぜかアジラフェルは両手でがっしりつかまえたまま離そうとしない。なんだ? このままおててを繋いでディナーにでも繰り出すか? いまが一体何時かわからないが。からかおうとする悪魔を制するようにアジラフェルは口の端をつりあげていたずらっぽく……悪魔がするように笑った。
    「まだ」と唇が動いて、指先に寄せられるのをぎょっとして見る。吐息が熱く触れてくるのを感じるとやっぱり変に胸が痛んだ。悪事だ。悪魔の所業だ。クロウリーは痺れるくらい熱くなった指先をぎゅっと握りしめて今度こそ自分の方にひっこめた。
    ソファの前に跪いていた天使は立ち上がると「すっかり夜になっちゃったけど、ディナーをご一緒してもいいかな? もう遅いしお酒を飲みに行くのでもいいね」とこともなげに言った。
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    すなの

    DONEアイスフレーバーワードパレット
    12.バナナ
    ひとがら/そばかす/脆弱性 でした🍌
    人間AUリーマンパロです👓👔
    スイートスポット 情報システム部と総務部なんて一番縁遠そう部署がどういうわけか同じフロアで隣り合っているのは、結局どうしてなんだっけ。
    クロウリーに聞くと「実働とそれ以外みたいに雑に分けてんだろ、どうせ」とか言うけれど、あの日のことを思い出す限り二人にとってこのオフィスの不思議な配置は幸運と言う他なかった。
    土曜の昼下がりだった。産休中のアンナが人事書類を提出しにくるというので、アジラフェルはガランとした休日のオフィスで彼女らを待っていた。それ自体は前々から予定していたことだったし、こちらにもあちらの用意した書類にも不備はなかったから手続きは無事済んで、復職時期の相談もできた。誤算だったのは、どこから情報が漏れたのか、生まれたてのかわいいアンナの赤ん坊を一目見ようとやれ彼女の所属する営業部のだれそれや、同期のなにがしがわらわらとオフィスを覗きに来て、アンナはアンナで「これ皆さんでどうぞ」なんて言ってえらいタイミングでお菓子の箱を出してきたことだ。チョコとバナナのふんわり甘い匂いのするマフィン。個包装だから持ち帰れはするが、まあみんなこの場でいただく流れだろう。そういうタイミングだ。カップが足りない!
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