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    リィユウ(リィン×ユウナ)が人生最愛。
    あとバツティナ(Dしでぃあ)と、
    ジャンル雑多(時期的に、Aーむどふぁんたじあ絵を描くことも)

    生活の状況で絵の練習や、描く時間を取りづらく落書き中心。
    ジャンル別でアカ分けは、多分しないです。
    現在の目標は、年1で完成絵を投稿すること・・・(^^;

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    ##WA3

    ももも欠乏症。「申し訳ありませんが、うちの店では取り扱ってございません」
    「そうか、邪魔したな」
    そう言うとジェットは重い足取りで、入り口へと続く階段を上がっていった。


        ももも欠乏症。


    ここはティティーツイスター。荒野を行き交う渡り鳥たちの情報の集まる街だが、犯罪者も多い。
    そんな街の裏通りを、仏頂面のジェットは歩いている。内心とてつもなく機嫌が悪く、苛ついていた。
    (腹減った……)
    本当はそんなに空いてもいないのだが、今はなぜかその単語しか思い浮かばないらしい。
    ここ最近彼はある物を食していない。それは先ほどの店での会話のこと―――

    『ここにネクタール……白桃の缶づめはおいてあるか?』

    桃である。
    自他ともに認める桃缶好き(白桃限定)のジェットは、かれこれ一ヶ月近く好物の桃を食べていない。 
    白桃の缶づめ―――ネクタールは、低下した最大HPを回復できる貴重な回復アイテムで、
    遺跡を探索する時や魔獣を倒した時などたまに手に入ることがある。
    が、ファルガイア中の遺跡をほとんど探索してしまったヴァージニア一行にとっては入手するのは困難となっていた。
    魔獣を倒して手に入れるという選択もあるのだが

    『それだけのために? わたしたちにそんな暇があるの?』

    と、彼女に一蹴され、リトルロックの犬をチェンジクレストでネクタールに変えようとすると

    『そんなことをしたら、ミレニアムパズルに放り込んで、ジェット一人で解いてもらうからね☆』

    と、満面の笑顔の彼女に脅されてしまった。
    リュックマン商会では売っていないし、花園の少女のところでは栽培はできない。
    最後の望みでブラックマーケットに来てはみたのだが、
    (やっぱ無ぇか)
    その望みも絶たれてしまった彼は仕方なく宿の方に戻ろうとしたとき、
    「あれぇ~、ジェットどうしたの?こんなところで」
    (出やがった……)
    我らがチームのリーダー、ヴァージニアだ。
    「これから帰るの? だったら一緒に行こッ!」
    ヴァージニアは紙袋いっぱいの荷物を持っている。ジェットはちらっとそれを見ると、
    「ん? この中身が気になる?」
    「興味ない」
    「まあまあ、見せてあげるよ。遠慮しなくていいから」
    と言って、紙袋の中身を見せる。
    「別に遠慮なんか」
    「じゃーん! えっとね、シャンプーとリンス、ボディーソープに洗顔クリーム、制汗スプレーに薬用リップでしょ」
    「つーかこれみんな、」
    パッケージには、桃の絵柄、『桃風味』と、書かれたものばかりだった。
    「桃のエキスが入ってるんだ。髪とお肌にいいんだって」
    「本物が入ってるワケじゃないだろ」
    「ん~どうなのかな?勧められたままに買っちゃったからなぁ」
    「いいんかよそんなんで、単なる無駄遣いじゃねえか」
    「女の子には、身だしなみとお洒落することが、すごく重要なのッ! ……あ、あと桃の形をしたボディスポンジも入ってたよ。ジェットも使ってみる?」
    「な、男がそんなオンナの使うような代物使えるかよ。石鹸だけで十分だ、石鹸で」
    「石鹸だけじゃ髪が痛むわよ、せめてトリートメントは使おうよ」
    「使うか」
     そんな会話を交わしているうちに二人は宿屋についた。

    ――夕食――
    四人でチームを組んで旅を始めてから宿屋の出す食事にデザートを出されることがたびたびあった。
    ジェットはそれに桃が出されるのを密かに楽しみにしていたのだが
    (桃は出ねぇか)
    彼はひととおり食事を食べ終え座席から離れようとすると、
    「こらジェットッ!ちゃんと『ごちそうさま』って言いなさい!」
    (ッ――……)
    無言で行こうとするジェットにヴァージニアは、まるで母親かのように彼を注意する。
    その様子を見ていたクライヴとギャロウズは
    「人として最低限、あいさつくらいはしてくださいね」
    「そうそう。ガキじゃないんだからな」
    と少々顔がニヤケつつ微笑ましそうに今の行動を指摘してくる。
    ジェットは苦虫を噛み潰したような表情をしていたが、
    リーダーの少女は口では敵わないと分かっていたし、大人二人組みにはからかわれるのも面白くないので
    「ゴチソウサマ。ちょっと外に出てくる」
    素直に従っておくことにした。
    「うんッ。いってらっしゃい」
    ヴァージニアは満足そうな笑みを浮かべる。
    「私もごちそうさまッ。先にお風呂入ってくるね」
    彼女も食事を済ませ、席を後にした。

    (さてと…そろそろ寝るか)
    ジェットは少しの時間、外でブラついてきた後、宿屋に戻り、シャワーを浴びてから泊っている部屋に戻ってきた。
    ドアを開けるとパジャマ姿のヴァージニアがすやすやと眠っている。
    (ったく、こいつ自分がオンナだって自覚あんのか)
    いつもならリーダーとはいえ女性であるヴァージニアと男性陣のメンバーと部屋は別々にするのだが、
    他の部屋が満室であるためやむを得ない。しかも部屋は狭く、四つのベットが横並びにしか置くことが出来ないほどだ。 
    その入り口側のベットに彼女は寝ていた。
    (アイツらはまだ酒場か)
    クライヴとギャロウズは、二人でまだ酒を飲み交わしているのだろう。
    (まあいいか、早く寝よう)
    ジェットは一番端のベットに行き、毛布の中に潜って瞼を閉じた。

    しばらくして―――
    (寝れねぇ)
    気が落ち着かないのか、なかなか寝付けないようだ。
    (つーか腹減ったな)
    彼は桃を食べれないことでまだイラついていた。
    と、ふと後ろに寝返ってみると、
    (――ッ!)
    自分のとなりのベットにヴァージニアの姿があった。
    (おま……どうやってこのあいだを移動してきやがったッ!)
    さっきまで彼とは反対側の離れたところで寝ていたはずなのだが
    彼が目を閉じていた時間はだいたい十分くらいでその間、人が移動するような音は聞こえなかった。
    そしてベットとベットの間には、寝返りでは渡れないほどのスキマがあるはずなのに何故彼女は自分の目の前にいるのか?
    (コイツ……寝ぼけてゲイルクレストを使ったな。なんでそんな器用なコトが出来んだよ)
    ジェットは起き上がり、自分が寝ていた部屋の端側のベットから反対側のベットに移った。
    (器用にも程があンだろ……ったく)
     と思いつつ毛布を被り、再び瞼を閉じた。

    またしばらくして、やはり寝付けず目を開けると、
    (オイ)
    またもやヴァージニアが自分の前のベットで眠っていた。
    (って、だからなんで移動してるんだよッ!!もういいッ、とにかく寝るッ)
    ジェットが反対側へ寝返ろうとしたその時、
    「ッ! 落ち……ッ!!」
    彼女を庇おうとし、二人ともベットのスキマに落ちてしまった。
    (~~~ッ、なんでいつもいつも反射的にコイツのことを助けちまうんだ)
    あきれるくらいのお人よしっぷりに自己嫌悪しつつ、自分の隣にいるヴァージニアを睨みつけようとすると、
    「逢いたかった」
    (……え?)
     彼女がぼそっと呟く。何か夢を見ているらしく寝言だった。が、
    (な、何を言っているんだ)
     なぜかその言葉を聞いてジェットは顔が、身体が熱くなるのを感じた。だんだん心臓を打つ鼓動は速くなる。
    (ただの寝言だろうが、なのになんでこんな……一体何だってんだよッ)
    と一人悶々としていると、ヴァージニアからいい香りがするのに気づいた。
    (この香りは……)
    桃だ。彼女の身体から桃の匂いがする。
    『桃のエキスが入ってるんだ。髪とお肌にいいんだって』
    どうやら昼間に買った [桃の香りのお風呂セット] を使ってみたらしい。
    彼は彼女の方に顔を近寄せる。
    彼女の髪の毛を一房とり、自分の鼻に近づけてみる。
    まだ乾いてなく若干湿り気のある髪の毛から甘酸っぱく澄んだ桃の匂いがする。
    (本物の香りじゃないのにな)
    ジェットはその香りでイライラしていた気分ががだんだん落ち着いてくる。
    すると、ヴァージニアがまた呟く。
    「もう……離れないで」
    (ッ!)
    再び身体が熱くなり鼓動が速くなる。目の前には彼女の寝顔
    桜色のくちびるは荒れないように薬用のだがリップをつけたらしく、艶やかで微かに桃の香りがする。
    彼は無意識に掴んでいた髪の毛に指を絡ませ、彼女の首筋の後ろに手をあて自分に引き寄せる。
    彼女の唇と自分の唇を合わせようとした――――……そのとき
    「もう、置いていかないで、おとう……さん」
    (親父……ウェルナーの夢を見ていたのか)
    今の言葉でどうやら我に返ったらしい。
    (――ッ! 何やってるんだオレはッ!? )
    今しがたの自分の行動を思い返し、思わず顔を赤くなるジェット。
    あと少しで触れそうになる彼女の唇から慌てて顔を離し、
    彼は痛みで頭を抱えた。頭をベットの柱に思いっきりぶつけてしまったのだ。
    (ッ!―――痛っ~~ッ……)
    隣にいるヴァージニアは安らかな寝息を立て眠っている。
    (ホント何やってるんだか、バッカみてぇ。しっかし、こんな状況でも起きないなんて一体どういう神経してるんだか)
    「だいすき、おとうさん……」
    その表情はとても満足した笑顔であどけなく見えた。
    (今はむしろその方がありがたいか)
    ジェットは彼女の身体を抱えベットに寝かせてやり、部屋から出て階段を下りていった。
    (頭冷やしに行ってくるか)

    「それにしてもうまくいくかねぇ」
    階下の酒場から賑やかな声が聞こえる。ギャロウズたちの声だ。
    「さぁ、なんともいえませんね」
    「うまくいかなきゃ困るぜ、わざわざリーダーに買う商品を勧めたんだからよ。だってよあの二人だぞ? ファザコンと白桃缶好きだぜ? 恋の進展もへったくれもありゃしねぇじゃねえか。まぁ鈍感なリーダーはともかく、ジェットが桃の香りパワーの効果で手を出してくれればッ!」
    「まさか。彼だって理性があるのですから、そこまでうまくは」
    「いやいや、奴もオトコだからな。野生の本能くらいは持ち合わせているはず」

     バタンッッ!!

    勢いよく開いたドアの外には仏頂面の少年が立っていた。
    「余計なお節介アリガトウよ。お前の仕業かよ」
    「じぇ、じぇじぇじぇジェ、ジェット!!………ん、[お前] の?」
    ギャロウズは自分の前にいるはずのクライヴの姿を確かめる。
    (ッ! 居ねぇ!!!)
    「覚悟はできてんだろうな」

     ジャキッ

    その左手にはリロード済のアガートラーム―――
    「ま、ま、待て、待て、ここは屋外じゃねぇ。とにかく落ち着け」
    「うるせぇッ!!!」



    その日、宿屋の外からは数十発の銃声と断末魔の叫び声が聞こえたと言う。



     ―――その頃のヴァージニア
    「おとうさんと同じくらい…ジェットも……だいすき…だよ…」

    ・・・まだ眠っていた。



         終わり
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