『blank space』ピンポーン
来訪者を知らせるチャイムの音にモニターを確認すると、"さっさといれてよ"と言わんばかりにこちらを覗き込む見慣れた綿毛が目に入った。勿論これはあだ名……とまでもいかない今浮かんだばかりの仮名だが、我ながら結構いい例えだと思う。
「また来たのか」
「お腹すいたーあけてー」
「うちは食堂じゃないと何度言えば……」
「んな固いこと言わずに!ね?クロノおにーちゃん」
「切るぞ」
揶揄を含んだ声音に若干の苛立ちを覚えて突っぱねるとマシロの態度は一転、低姿勢なものに変わった。日によって会話の内容が異なるとはいえこれに似たやり取りをもう何度も繰り返している。マシロの軽口など挨拶のようなものだ。いい加減流せるようになれと思うものの、コイツ相手にすんなり首を振るのはどうにも癪に障るというか……
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