元使用人の独白、あるいはある男の告解一
少し、昔話を致しましょうか。
懐かしいカモミーユのお茶は如何?
こちらのお菓子は?
ええ、あなた様とお会いできるからと今朝方から。焼きたてですのよ。
ああでも、これが好きだったのは小さなあの子の方でしたわね。
さて、どこからお聴きになりたいかしら。
……あら、そう。
最初から、と。
では、改めてわたくしとあの方の馴れ初めでもお話ししましょうか。
懐かしいこと……あの時の事は今でも憶えてますわ。
最初の報せが参りましたのは、凍てつく中に春の風が吹き始める頃。
わたくし達一家が所領の倹しい我が家で、未だ残る寒さに暖炉を囲んでいた時のことですの。
風ではなく、人の手が扉を打ち付ける音を聞いた従僕が表を確かめに行って、暫くして血相を変えて走り込んできたものですから。
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