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    6IRORI

    @6IRORI

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    6IRORI

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    ゲタ水怪文書供養
    文字を書いたことない人間が書いた文字です、終わってます

    今日は久方ぶりの快晴であった。
    ここ数日ずっと雨や雪が続いており、毎朝出社するのも億劫になるほどの天気の悪さだった。一歩そとに出ると途端に空気は湿り、足元ではぴちゃぴちゃと音を立てて、泥水となった雨が革靴を汚す。それを数日繰り返せば、たとえ仏様であったとてこの悪天続きの気候に辟易とする頃だろう。
    故に、昨晩の夕食で流していたテレビのアナウンサーから、明日は降水確率0%、とても清々しい天気になるでしょう!と告げられた時、漸くこの憂鬱な天気から開放されるという安堵感と、

    「……じゃあ、明日は天日干しした布団で寝れるってことか」



    ここから始まるラブストーリー

    昨晩はその後、洗濯日和と分かった途端まず溜まっていた洗い物を洗濯機に突っ込んだ。夜に予約をして朝に干し、その後に布団を洗おうと考えたからだ。梅雨でもないのにこんなに雨に悩まされるとは思っていなかったな、とボヤきながら、水木は洗濯機から洗い終えた洗濯物を取りだした。タオルのシワをパンッパンッと音を鳴らしながら勢いよく伸ばす。靴下を揃え、適当に干しやすい順番にしつつ要領よくカゴに入れていく。
    そして、洗濯物の入ったカゴを傍に置くと、空になった洗濯機を見遣り、漸く一番の目的である布団を寝室から持ってきてその中に入れた。
    外の眩しい太陽に包まれ、ポカポカした天気で干された、お日様の匂いがする布団を使い眠る今夜を想像する。ここ数日は湿度の高い部屋で、なんだかしめっている気がする布団で寝ていた水木、これで連日の革靴の手入れによる疲労が報われることを祈りながらそっと運転開始ボタンを押した。

    無事に洗濯機がガタン、ゴトンと音を鳴らし回転し始めたのを眺め、水木は先程置いた洗い物を入れたカゴを両手で持ち上げる。扉を出て、リビングを突き抜け、ベランダの鍵を開けて一歩外へと踏み出す。
    空を見上げると昨晩のアナウンサーの言っていた通り、地面の残った水たまりを除けば悪天が続いていたことが信じられないほど、天晴れと言いたくなるような清々しい快晴だった。
    どうやら近所の人たちも連日の悪天で憂鬱になっていたのか、朝早くからジョギングをしている姿が多く見受けられた。俺もこれが終わったらひとっ走りしようかな、などと考えながら水木はカゴを置き、洗濯物を干し始める。
    長年一人暮らしをしているため、どう干せば効率よく乾かせるのかを何となく分かっている。先程干す順番を考えて何となく入れて置いたのも効率をあげるためにいつからか始めたことだ。
    しばらく洗濯物を干していき、今日はすぐに乾きそうだ、いい風も吹いているしな。と残っている細々とした洗濯物を手にした途端、その心中を裏切るかのように突然強風が一吹き。
    あ、と思う間もなく手にしていた洗濯物は宙に浮かんでいく。思わずベランダの柵に身をのりあげて必死に手を伸ばすも一歩間に合わず、風に乗って気持ちよさそうに落ちていく。
    水木は焦った。まさかこんなタイミングで強風が吹くとは思っていなかった。こんなことだったら先にタオルを干さなければよかった。なんで、飛ばされたのが寄りにもよって、

    野球ユニフォーム風の生涯現役がプリントされたボクサーパンツなんだ!

    忘年会でやったビンゴで、たまたま同僚の出していたネタ景品の中の一つで手に入れたもの。決して、決して自分の趣味では無いが、ものを粗末にする性格でもなし、それに中年にさしかかろうとする自分はもう生活の中で誰かと同衾することも無いだろうなと思い、日常使いしていたのが最悪のタイミングで仇となった。
    空を舞い落ちる生涯現役、ベランダから今にも身を投じそうな勢いで手を伸ばす絶望顔の水木、ここで水木を煽るようにもう一度の強風。加速する生涯現役。
    ついぞ手が届かなかった水木はもう近所の人に顔向けできない、羞恥で死にそうだ。しかし幸いにも先程まで複数見受けたジョギングをしている姿は消えている。今急いで降りれば地面に無様に落ちた生涯現役は誰の目にも止まることなく回収できるだろう。一瞬フリーズはしてしまったが、即再起動した水木は乗り上げた身を引き、一歩下がろうとした。

    途端、生涯現役の飛んでいく先、曲がり角から人の姿が現れる。

    それは髪の毛が些か長いが、恐らく男性。すらっと長い手足に目立つ銀髪。片方隠れているが、覗いている目からはなかなか強烈な印象を受ける。黄と黒のボーダーニットを着たその体をゆらゆらと揺らしながら歩く姿は、深夜にあっていたならば幽霊と見間違うだろうと容易に想像が着いた。それほどどこか不気味な男であった。そんななるべく関わりたくない不気味な男に目を引かれていると、男の顔面が突然何かによって覆われた。
    ハッとした水木はようやく男から意識を背け、下に降りるために後ろを振り向こうとした。早く己の巫山戯たパンツを回収しなければ、その一心で足を動かそうとした。が、今、あの男の顔面に突然覆いかぶさったもの、記憶違いでなければ飛んでいってなかったか?
    まさか、いや、そんなタイミングよくぶつかるはずは無いが、一応確認はしておくに越したことはないからな、一応、な。
    水木はつい先程男から背けた目を、恐る恐る、向け直した。

    そこには、デカデカとプリントアウトされた、
    生涯現役の文字。

    水木2度目の絶望顔。思わず膝から崩れ落ちる。こんな失態今まで一度もなかったのに、どうして30代すぎた途端こうも上手くいかないのか。俺がいつまで経っても独り身だからか!?上司には「水木くん、働き盛りなのもいいことだが、いい人はいないのかい?私の娘を紹介してあげようか、まだ8歳だがな!ハハハ!」とか言われるし、同僚もそそくさと結婚して最近は子供と嫁の話ばかり、昼も嫁の手紙付き弁当を食っている中俺だけ昨晩の残り物を適当に詰めた色合いもへったくれもないおかず。…なんだか、本当に惨めになってきた。
    しかしいつまでもここで死んでいる訳にも行かない、まずはあの不気味な男にめいいっぱいの謝罪を、そして可能ならば男の頭をぶつけてでも記憶を抹消するすべを考えなくては。そう水木が思い直し立ち上がると、向こうにパンツを握りしめてこちらを凝視する男の姿がいた。

    そうだよなこっちから見えてんだから向こうからも見えるに決まってるよなぁ!!!俺は何こんなことにも気づかなかったんだ!!!くそ、顔を見られた、もう言い逃れはできない、今絶対、あのオジサン、生涯現役パンツを日常的に履いてんの?そろそろ衰えた方がいいんじゃない?とか思われたッ、くそ、くそ!俺が生涯現役な訳では無い!これはただのものを大切にする一心で履いていただけでそれ以外の他意は一切ない!しかし初対面のオジサンが言っていいセリフでもない!いや、やはり事故でもなんでもいい、なりふり構っていられなくなったあの男の記憶を今すぐ抹消してッ
    そう思っていると、ずっとこちらを凝視していた男のパンツを握る手が遠目から見ても明らかに凝固になっていき、男の顔は変わらぬまま、静かに、静かに鼻血が垂れ落ちた。

    「…え?」

    思わず呟く水木。いくら強風で煽られていたとしても、生涯現役に鼻血を出すほどの威力は無いし、というか安物だから生地も薄っぺらい。鼻血を出させる要因なんて何一つないはずなのに、目の前にいる男は静かに鼻血を垂れ流し、変わらずこちらを凝視している。あ、今パンツ握りしめる力また増した。
    知らないオジサンのパンツを顔面に被って思わずブチ切れてしまったのか…?最近の若者はすぐキレるとはいうが、怒りで鼻血を出すほどなのか…と理解出来ぬあまり口をパカ、と開けて顔を宇宙猫にして男を見つめてしまう水木。それを相変わらず凝視し続ける男、気のせいか先程より鼻血の勢いが増している気がする。

    初対面の(はずの)二人は、生涯現役パンツによって作られたこの奇跡のような瞬間に、一方はこの状況の全てを一切理解出来ず宇宙猫顔、もう一方は鼻血を垂れ流しひたすらパンツを握りしめて今にも溺れそうな顔、二人は快晴の早朝の中、布団のことなんかすっかり忘れまるで時が止まったかのように、お互いを見つめ続けた。

    挿入歌𝑳𝒐𝒗𝒆 𝒔𝒐 𝒔𝒘𝒆𝒆𝒕
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    6IRORI

    CAN’T MAKEゲタ水怪文書供養
    文字を書いたことない人間が書いた文字です、終わってます
    今日は久方ぶりの快晴であった。
    ここ数日ずっと雨や雪が続いており、毎朝出社するのも億劫になるほどの天気の悪さだった。一歩そとに出ると途端に空気は湿り、足元ではぴちゃぴちゃと音を立てて、泥水となった雨が革靴を汚す。それを数日繰り返せば、たとえ仏様であったとてこの悪天続きの気候に辟易とする頃だろう。
    故に、昨晩の夕食で流していたテレビのアナウンサーから、明日は降水確率0%、とても清々しい天気になるでしょう!と告げられた時、漸くこの憂鬱な天気から開放されるという安堵感と、

    「……じゃあ、明日は天日干しした布団で寝れるってことか」



    ここから始まるラブストーリー

    昨晩はその後、洗濯日和と分かった途端まず溜まっていた洗い物を洗濯機に突っ込んだ。夜に予約をして朝に干し、その後に布団を洗おうと考えたからだ。梅雨でもないのにこんなに雨に悩まされるとは思っていなかったな、とボヤきながら、水木は洗濯機から洗い終えた洗濯物を取りだした。タオルのシワをパンッパンッと音を鳴らしながら勢いよく伸ばす。靴下を揃え、適当に干しやすい順番にしつつ要領よくカゴに入れていく。
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