両片想いノヴァアル 最近ノヴァと顔を合わせない、夕飯を済ませ朝の仕込みを終えたアルクは食堂に残っている面子の顔を見てふとそう思った。
理由は何となく分かる。星の宮へ向かって色々あって、顔を合わせづらいのだろうシンプルに。
「ノヴァは繊細だから……」
だから仕方ない、そうは思っていてもやはり多少は気にかかる。
ちゃんと食べているだろうか、ショウタと一緒にいるときに笑うようになった姿は見てはいるが心配は地味に募っていた。
「……僕のこと嫌いになったとかは、ないよねぇ流石に」
そしてそれ以上にアルクがノヴァと久々に顔を合わせて話をしたい、そう思っている。
元よりショウタに懐いていたノヴァだがあれから更にショウタとよく行動をともにしていて、少し悔しさも覚えた。
「僕だって友達で、共犯者なんだけどな」
何だか子供みたいな嫉妬だと自覚しつつ、アルクは片付けを終える。
ショウタが近いうちにナンパしに行くと言っていたのでその時顔を合わせられるかもしれないと何とか気を取り直して、自室に戻ることにした。
「よっ、アユム」
「こんばんはショウちゃん、……ああご飯は食べた?」
その途中で件のショウタに声を掛けられる。あたりを少し見てみたがそこにノヴァの姿は見えず、すぐにショウタへと視線を戻した。
「パルペブラで食ってきた。そんでさアユム、明日開いてる?」
「明日は開いてるけど……ナンパに行くとかはお断りだよ」
「それはまた今度ぜってーするからな! じゃなくて、ノヴァと明日会ってやってくれよ」
「えっ」
いきなりのショウタからの提案にアルクは目を瞬かせる。
確かにノヴァに会いたいとさっきから思ってはいたがいきなり過ぎて言葉がでてこない。
「何で? そんな改まるもの?」
「なんか知らんが改まるらしいアイツ、よくわからん」
謎だよなーと同意を求められればなんとも言えない笑いが漏れた。
「……僕に会いたいって、思ってくれてるんだ」
それと同時にポツリと漏れたのは嬉色が隠せない呟きで。ショウタは気付いてるのか気付いてないのかノヴァの様子を教えてくれている。
「なーんか色々考えてんのかたまに暗い顔してよぉ、お前がなんやかんや言ってる」
「……そうなんだ?」
「お前には絶対会いたがってるから会ってやってくれ、もうめんどい」
「ショウちゃんはさぁ」
いまいち要領を得ない説明に呆れてしまう。元々こういう男なのだからここで深く突っ込んでも求める答えは帰ってこないだろうとアルクは理解している。
「まあ僕も久しぶりに会いたいから良いけれど……」
そしてこれは本音である。それを聞けばショウタは軽くアルクの背を叩いて、何やらメモ用紙を一枚渡してきた。
「待ち合わせの場所はそこな、んじゃおやすみー!」
「あっちょっと……おやすみ」
早々と去っていったショウタを見送り、渡されたメモ用紙を広げると明日の午前10時半、パルペブラのパンケーキ屋に集合と書かれている。
「……お弁当は作らなくていいかな。その代わり夜にオムレツつくってあげようかな」
アルク本人は無自覚だがまるでデート前日の時のような興奮が胸を占めていた。
「ノヴァ、大丈夫なのかな……いや大丈夫だよね。ショウちゃんがいつもそばにいたんだし」
そう自分で漏らせば今度はまた少し胸がムカムカする。その理由が自分ではなんなのかはわからないままアルクは自室に戻り、明日の準備をすることにした。
翌日、午前8時30分。天気は快晴。
待ち合わせの時間よりも2時間ほど早かったがアルクは星見の街にいてもそわそわして落ち着かなかったため既にパルペブラへと来ている。
朝帰りしたシロとちょうどワールドフリッパーの前ですれ違いデートか? とからかわれはしたがノヴァと遊ぶと伝えればシロはなんとも言えない顔をして、まあ頑張れなんて言って寝に行った。
「何を頑張れって言うのさ」
ショウタもシロも要領を得ないことばかりでわけがわからない、そう思いつつ目的地まで歩いていくと待ち合わせの場所には久しくみるノヴァの後ろ姿を見る。
「あ、ノヴァ」
すぐに声をかけたが声か聞こえていないのか反応は無く、ノヴァの影になっていて見えなかった位置にショウタの姿が見えた。
(何で、ショウちゃんが……?)
自分では原因が分からずシグシグと痛む胸を抑え、つい近くの物陰に隠れる。
「頼むよショウちゃん、せめて時間まで一緒に!」
「嫌だって言ってんだろ、まだねみーの俺! ここまでついてきた時点で感謝しろ!」
困憊と言った様子でショウタに縋り付くノヴァと大きな欠伸をしつつ邪険にするショウタ。アルクは何を見せられているのか、なんて思いながらも物陰から二人を盗み見た。
「心の準備がまだできてなくてっ」
「充分準備しただろ! いいか、こっからはもう知らん! 自力でなんとかしろ!」
巻き込むな、と最後にバチンとノヴァの背中を叩けばショウタは能力を使い何処かへと飛んでいってしまう。
少なくとも3人で遊ぶだとかではなさそうでアルクはほっと息を吐いた。
(……何で僕、安心してるんだろ)
ショウタはアルクにとってもノヴァにとっても大事な友人だ。仲間はずれを喜んでしまっているようで、そんな自身が嫌になる。
「……アルク、来てくれるだろうか」
しかし、ついで聞こえた言葉に一旦その思考は隅へと寄せアルクは物陰から移動することにした。
なんだかんだで移動時間と含めて時刻は9時に近い。ここから1時間ほどノヴァを待たせるのは心苦しく思ったから。
「……ノヴァ、おはよう」
一つ息を吸って、できるだけいつも通りに声をかける。
アルクの声に驚いたのかノヴァは少し方をはねさせて、それから振り向いた。
「お、おはようアルク。いい天気だね」
やはりどこかぎこちない様子でノヴァは挨拶を返してアルクに歩み寄る。
「待ち合わせまではまだあるけれど……」
「やあ、楽しみで早く目が覚めてさ」
少し大袈裟だろうか、返した自分の言葉に不安を覚えてアルクはノヴァを見るとノヴァは固まっていた。
(うう、そんなに気まずいのかな。僕はもう気にしてないけれど……ノヴァは繊細だし)
嫌な気持ちにさせたいわけではない、アルクはなにか気の利いたことを言えないかと脳を回転させる。
(ショウちゃんの話題を出す……?)
一番無難で共通点として話題に出しやすいのはやはりショウタだ。しかし今彼を話題として出すのは拒否感が湧く。その理由には気づかず。
それならばと他の話題と思考を回しているとノヴァの手がアルクの手を取った。
「アルク、今日は僕と一緒に過ごしてほしいんだ」
「え、あ、うん。もちろん、そう聞いていたから……」
そのまま握られた手はどこか温かく、ノヴァの体温を意識すると自分の体温まで熱くなったように錯覚する。お陰で歯切れの悪い返事をしてしまい、ノヴァに申し訳なくなった。
「ありがとうアルク、それでまだ時間は早いから少し、散歩しないかい?」
「うん、市場の方ならもうやっているからそっち行くのも……ノヴァ? 手は……」
ノヴァはアルクから手を離さず、それどころか指を絡ませるように握り直してきてアルクは今度こそ錯覚ではなく顔まで顔が熱くなる。
(なんで、えっ、これって恋人繋ぎ……!? いやそうだとしてもなんでこんな恥ずかしいんだ僕!?)
現状を何も理解出来ていないアルクは混乱し、しかしそれでもノヴァの手を振り解くことはせずノヴァの顔を覗いた。
「こうしていたいんだ、ダメかい?」
「だ、ダメじゃ、ない、よ」
「……ふふ、嬉しいなぁ」
途切れ途切れのアルクの返事にノヴァは道行く婦女子が見たら9割は見惚れてしまうような、花が綻ぶような微笑みを浮かべる。
それを間近で見てしまったアルクは言わずともがな鼓動が高鳴り、更に顔が熱くなった。
見ていなくても絶対に己の顔は真っ赤だとわかるくらいで、どうしたら良いのか何も分からずただパクパクと口を動かすことしか出来ない。
「本当に嬉しいよ、アルク。ずっとずっと、悩んでいたんだ。僕がアルクに触れる資格はないんじゃないかって」
不意にノヴァは目を細め、どこか辛そうにも見える微笑みに表情を変えた。
「君は、沢山の、色んな人に好かれ愛されている……。僕はそんな君を、もう、終わったこととは言え……」
星の宮での出来事を思い出しているのだろうか、ノヴァはとても苦しげに息を吐きどこか泣きそうにも見える。
「……僕に触るのに資格なんていらないよ、嫌って言ってるのに触るのはダメだけどさ」
アルクはノヴァのそんな顔を見たくなくて、繋いでいない方の手でノヴァの頬へと手を伸ばした。未だにノヴァに対する感情はアルクの中では纏まっていないが、笑っていて欲しいのは確かで更に言えば触れてもらえるのはとても嬉しい。
何とか話を逸らそうとノヴァの端正な顔立ちを見つめ直し頬を撫でた。
「最近、僕はノヴァと会えてなかったから寂しいなって思ってたし、今日は会えて嬉しいし、その、もっと会いたいっていつも思ってるから」
「……アルク、君って子は」
それでも混乱しているアルクは自分が何を口走っているか理解できておらず、その言葉にノヴァは頬を少し紅潮させる。
甘えるように己の頬を撫でるアルクの手のひらに擦り寄せ、繋いで絡めた指は深く握りしめた。
「人たらしすぎるよ、本当に。そんな事言われたら期待してしまう」
「えっ、どんな……待って、なに、何してるの!?」
気付けばノヴァの頬を撫でていた手もしっかりと掴まれて、ノヴァの口元へと動かされている。そしてそのまま手のひらにちゅ、と音を立てて口づけされた。
「の、の、ノヴァ!?」
「ふふ……アルクは可愛いね」
非常に美しいノヴァという男が自分の手のひらにキスをして、それだけでなく見ているだけで腰を抜かしてしまいそうな色気のある表情で自分を可愛いと言う。
「ま、まってっ、ノヴァ、なんか、変だよ!」
「変じゃないさ」
「の、ノヴァはこんなコトしない!」
「たしかに前は詳しくなかったけど、今はちゃんと学んだから」
ノヴァの舌がアルクの手のひらをなぞり、更にその舌はアルクの指と指の間に這って擽り今までにない感覚がアルクを襲った。
「ほんと待ってっ! 誰か、見てたら……っ」
「この時間は余り人は来ないから、……誰も見てなかったら、良いのかな?」
「っわ、わかんない…」
「僕にこうされるのは、嫌かな、アルク?」
ノヴァの低い声と言うだけならば聞いた記憶はまだ新しいが、低いだけでなくたっぷりと情感を込めて名を呼ばれてしまえば腰に力が入らなくなりその場に崩れかける。
しかしノヴァがいつの間にか離していた片腕をアルクの腰に回すことで無様に膝をつくことは回避された。
「う……い、い、嫌だったら殴ってる、よっ」
既にアルクはキャパシティを超えて、しかし本能は既に自身の感情に気付いているためか口からは誤魔化すこと無く本音が漏れる。
「そうか、そうなんだ、アルク……僕は」
ノヴァの顔が近付いてくる、このままだと何が起こるかは流石にアルクも理解できた。
(体に力はいらないし、嫌じゃないし……ノヴァ、だし)
自分へ言い訳するように頭の中で繰り返し、抵抗することなく目を閉じてすぐに訪れるだろう感触を待ちわびる。
しかし待ってもその瞬間は訪れること無く。
「なーにが心の準備が出来てない、だ! 手早すぎるだろ!!」
聞こえたのは二人の友人のショウタの声で、恐る恐る目を開くとノヴァの体がショウタの能力によって浮いていた。かなり高く。
「しょ、ショウちゃん!?」
「アユムお前も何スタンバイオッケーなってんだよ!?」
「むしろ僕のほうが何だけど!? っていう、み、見てたの!?」
何故ショウタがここにいるのか、どう見てもキスシーン手前だったのを見られた羞恥で混乱しつつもどこか邪魔されたという怒りからショウタを睨む。
「見るつもりなんかなかったっつーのお前らのラブシーンなんてよ!!」
「じゃあ何で戻ってきたんだいショウちゃん」
宙に浮きながら珍しく責めるようにノヴァが尋ねればショウタのは盛大に溜息を吐いた。
「うるせー!! 人がこっちに向かってたし嫌な予感したんだよ移動するぞお前ら!」
アルクたちに有無を言わさず、アルクの体も能力で宙に持ち上げる。
確かに人に見られるのは恥ずかしい、アルクは文句を言わずそのまま運ばれることにした。
運ばれていると火照り熱くなった顔に風が当たり、茹だっていた思考とともにゆっくりと冷えていく。
(僕、ノヴァとキス……したかったんだ)
冷静になればもう誤魔化したり目を背けることも出来ず、まだ熱が残っている己の唇へと触れる。
口づけされたと錯覚してしまいそうなほど、熱を感じた。
「で、お前はアユムに何しようとしてたんだ?」
ショウタに連れられた先は操里ユカリコが働いているメイド酒場。
まだ営業時間外だがどこからともなく現れたユカリコが朝なら人もいないからと店に掛け合ってくれた。
そして今はアルク、ショウタと座る向かいにノヴァを座らせさながら尋問の始まりである。
「何って、キスだよ」
「しれっと言うなお前……昨日までは難しいって言ってたくせに」
「……昨日までって?」
これは自分の預かり知らぬところで何かが企てられていたのだろうか、アルクは何だか不安になり口を挟むことにした。
「まあキスしようとしてた時点でもうバレバレだろうけど、まだ言ってないんだろお前」
「つい気持ちが先走ってしまって……」
さっさと言えというようにショウタはアルクを指差し、ノヴァは座っていた椅子から立ち上がりアルクの隣にまで移動する。
「アルク」
先程のように手を取られ、そしてノヴァはそのまま床へと跪いてアルクの顔をしっかりと見つめた。星を連想させる美しい双眸が自分を見つめるというのは何だか心臓に良くない、なんて逃避をしていたら取られた手の甲へと口づけを落とされる。
「わっ…絵になりすぎるよこれ、相手が僕なのは、あれだけど」
アルクは湧き上がる様々な感情に飲み込まれぬようにいつもの調子で少し茶化したが、ノヴァの双眸は変わらずアルクを射抜く。
「君じゃなきゃ嫌だ。アルク、僕は君のことが好きだ」
「……う、ん」
「君のことを想っている子たちはたくさんいる、僕もその一人で……最初は伝えるつもりはなかったんだ。だってそうだろう、あんなにも魅力的な子たちばかりで僕なんて……そう、諦めていた」
ノヴァの手が震えていることに気付いて、嘘偽りはないのたろうとアルクは理解した。ノヴァは自己肯定感が低い、ここ最近しったばかりである。
「星の宮で、取り返しのつかなくなることだって、した。もう君の側にいる資格だって無いんじゃないかって告げられてるように、あの日の夢を、今も見てしまう」
「資格とかそんなの、いらないっ。僕はノヴァにいて欲しい、僕らはこれからだって言ったじゃないか!」
やはりまだ完全に過ぎ去ったことには出来ていないのだろう、アルクとて今でも不意に思うことはあった。
無理に過去には出来るものではない、だけど思い悩みすぎてほしくない。
アルクは自然と声を荒らげて、自分の手を握るノヴァの手を包むように両手で握り返す。
「うん、うん……それでずっと悩んでいたら、ショウちゃんにいつまで暗い顔してるんだって、叱られちゃったんだ」
アルクの言葉を噛みしめるように目を伏せてから数秒して明るく表情を変えショウタの名前を出した。
ショウタは今名前を出されるのは不本意なのか顔を反らして二人を見ないようにしている。席を外すつもりがないのはお目付け役という事なのだろうか。
「それでこの悩みを聞いてもらって、最初はショウちゃんだけだったけれどステラとレーヴェ、シロさんも気付いたら相談に乗ってくれて」
「シロも?」
「うん、びっくりしちゃったな。それで、言葉にして伝えまいとスタートラインにすら立てないって、言われて……ステラたちは自分も詳しくないから小説や本を読んで参考にするといいって言ってくれて」
少し強めに手を引かれると、椅子の上から少しバランスを崩して落ちかけるがノヴァによってしっかり抱きとめられた。こういった、絵になりすぎる所作も艶めかしすぎる所作も小説などから学んだのだと分かればアルクは少し、安堵した。あれは心臓に悪すぎるから。
「それでも悩んでたらショウちゃんに君とデートしてそこでまず告白しろって発破をかけられてしまってね。選んでもらいたいなんて欲はなかったけど、だけど確かに言わなきゃわからない、そうだからね」
「うん……」
「それで、本当は最初から直ぐにああ触れるつもりもなかったんだよ。君に声を掛けられるまでは必死に練りに練ったデートコースを反芻してたし……久々に会えることに浮かれていたのも確かで」
「じゃあ何で、あんな恥ずかしいこと……」
少し前にノヴァによってされた手へのキスと愛撫を思い出してしまい、アルクは顔を紅潮させる。今までの説明のとおりなら告白のためにまず普通にデートする予定だっただろうに、最初からあれはショックが大きすぎる。
「……君が、嬉しいって言ってくれたから」
「い、言った?」
「言ったよ、僕と会えなくて寂しいとも、もっと会いたいとも」
「うう……口走っちゃってたんだ僕」
ノヴァには嘘がつけない、今日1日でアルクは痛感した。
頭から煙が出そうなほど熱くて、まともにノヴァの顔を見ることが出来ない。
「期待、してしまって少しなら良いかなって……そのまま止まらなくなってしまった。嫌がっていないならばとこの愛しい気持ちを言葉以外でも伝えたくなって」
「わ、わかった、わかったから!」
ノヴァが自分に好意があることは正直疑っていなかったアルクだが、それは友人としてだと想定していたし恋愛感情とは気付いてなかった。もちろん、友人としての好意が消えるわけでもないとわかってはいるが致されたことが艶めかしすぎた。
「……嫌じゃなかったし、キスも、したいって、思って」
そしてここまでまっすぐ伝えてくれたのなら自身も返さなければと口を開くがどうにも羞恥が湧き上がりたどたどしくしか言葉が出ない。
「まだ、ふわふわしてるけど、きっと僕もノヴァのことそういう意味で好き、だとは……っ!?」
思う、と何とか絞り出そうとした刹那、体が床に倒れて唇に弾力のある感触がした。
少しだけ湿り気が帯びている触れたそれがノヴァの唇だと気付いたときには唇の隙間にノヴァの舌が入り込む。
(これ、舌、ノヴァの舌!? 熱くて、別の生き物みたいだ……)
唇の感触を覚える暇も無く、唇よりも濡れて弾力があり大きく動いて自分の口の中を這う舌の感触を教え込まれそうになった。
「おま、おま、お前っ!!」
しかし直ぐにショウタの能力によって引き剥がされた為口の中を蹂躙されずに済む、今のところ。
「手が早すぎる!!」
「だってショウちゃん、こんなに可愛いアルクが同じ気持ちだって!」
「俺がいるのに舌入れるな!! おとぼけ通り越して色ボケか!?」
「じゃあショウちゃんがいなければいいのかい!?」
「そりゃ好きにすればいいだろ! いやアユムが許したらだろ!!」
2人は何やら言い争っているがアルクはそれどころではない。倒された体はなんとか起こせたが腰が抜けている。
キスはしたいと確かに言ったが、舌を入れるなんて想像もしてなかった。後はノヴァのことを見た目よりもずっと幼くて純粋と認識していたのでそのギャップに頭がくらくらした。
「……ノヴァ」
「なんだいアルク!」
「ああいうキスは、しばらくは、やだ……」
真っ赤な顔で己の口元を抑えて耐えられないと率直に伝える。
「……普通のキスなら大丈夫かな?」
「2人きりなら……」
ノヴァは少し考えるような素振りをした後に、ショウタに能力を解除してもらえばアルクの顔を覗き込み妥協点を提案する。アルクもキス自体は嫌ではないし人前が恥ずかしいだけなのでそちらは受け入れる。今日のノヴァの様子はおかしいが、自分でも言ってたとおり浮かれているのだろうしそもそも自身はもうこんな純情ぶったって可愛いと言えるような年ではないのだからと己を納得させて。
「ありがとうアルク、僕たちはこれからは友達で共犯者で、恋人だね」
「……うん、なんか、変な感じだね」
「纏まったなら帰っていいか俺、ていうか帰る」
抱きしめ合う2人の背後で先程のノヴァの暴走を見たため帰るタイミングを失っていたショウタだが、盛大にため息を吐きつつもノヴァがアルクの嫌がることは本気ではしないという信頼はちゃんと持っているためここで切り上げると決め、席を立つ。
「……アユム、マジで嫌なら嫌って言えよ」
「僕は子供じゃないしちゃんと判断はできるよっ」
「アルクが嫌がることはしないよ」
「ならいいけどさぁ。お前らももう店からは出ろよ、流石に長々借りるのは悪いだろ」
信頼はしているが何故か一抹の不安は拭えないショウタ。しかしそれでも馬に蹴られるのはゴメンだとその場を後にすることにした。
ノヴァに付き合わされ早起きしたため眠気が限界に近いのもあり、2人より先に入口の扉を開けて外に出る。
色々と考えは滲んでいたがユカリコがすぐ外に待機しており「凪原くんとノヴァくんがでたら鍵閉めるね」とまるで見ていたかのように言うものだからそちらに思考が移動して、二人のことも徐々に頭の隅へと消えていった。
後日一週間と経たないうちにノヴァがアルクに手を出したことが一部メンバーに知れ渡ることになるがそのことは今は誰も知らないのだった。
「だってアルクは魅力的だ、それに僕は気にしないけど同性同士はやっぱり多少は不利なんだろう? 他の皆よりスタートが遅かったのも事実だから使える手札は使って一気に行かせてもらったよ。もちろんアルクにその気がないなら一時撤退はしたから。後は僕の想いが一時的な勘違い、吊り橋効果かもって万が一思われたくなかったし思わせたくなかったし……子供扱いをたまにされているなとは思っていたから、ちゃんとアルクのことが好きな男だとわかってもらいたかったんだ」
「で、本音は」
「そういう意識で触れたりすると反応がとても可愛くて、少しだけと思ったのに止まらなくなったのも確かだよ! それに小説でも体を重ねることは愛情の証とあったしたっぷり愛して嫌と言わせなければ良いともあったしね!」
「したたかになったなお前……」
「ショウちゃんのナンパでの当たって砕けろ精神も参考にしたよ」
「するな!!」