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    星アユとノヴァアルが同時存在してるファンタジック現パロ。多分パラレルワールドとかがくっついたとかそういう?龍がなんか頑張ったんだと思う。

    いままでもこれからも(星アユ+ノヴァアル)「何でこうなった!」
    「おねだりに負けたからだろ……ほらできたよ」
     ぎゃんぎゃん喚くアユムに呆れながらもアルクはアユムの浴衣の着付けを終える。
     アユムが身に纏っているのは女性ものの浴衣だ。健全な男子であるアユムが本来着るようなものではない。
     白を基調とした生地には淡い色合いの花柄が描かれている。帯も可愛らしい赤色で金魚の尾びれのようにひらひらと揺れていた。
    「星くんにおねだりされてうなずいた自分を恨みなよ」
    「だってあの目で見られるとさすがに断れないよ……星くんもお揃いの浴衣着てくれるって言ったし」
     アユムはぐぬぅっと唇を噛む。
     遡るは数日前、星乃ミコトが夏休み中に夏祭りに行きたいとアユムに提案してきた。
     彼の提案にアユムは断ることなく受け入れて。
     元々お祭りは好きということもあるが、それ以上に好きな人と一緒に祭りに行くというのはロマンチックではないかと思ったのだ。
     今はまだ伝えられていないが夏祭りというイベントを通して距離を縮めようという魂胆もあった。
     そしてその際にミコトからこれを着て一緒に行って欲しいと渡されたのがこの女性ものの浴衣だった。
     アユムは最初こそ断ったのだがミコトが自分も揃いのものを着ると言い出したため、結局アユムの方が折れたのだ。
    「まあ似合っているし、おかしいとかはないから大丈夫じゃないかな」
    「他人事だと思って!」
     アユムは恨めしげにアルクを見上げるがアルクはそんな視線を受け流すように涼しい顔を浮かべている。
     アルク自身も今日は恋人であるノヴァと浴衣デートで、藍染の生地の浴衣で落ち着いた雰囲気のものだ。
     普段はアユムと同じくらいの短めの髪だが今日に合わせて少し伸ばしたらしく、後ろ髪を結い上げている。
     普段とは違う装いでアユムより背の高いアルクはなんだか大人の色気のようなものがにじむ。
     だが今はそのことよりも自分のことで頭がいっぱいだった。
    (ああもう! なんでこんなことに!!)
     心の中で絶叫しながらアユムは鏡を見る。そこにはいつもと違う自分が映っていた。
     浴衣を着るのはいいとしてなぜ女性ものなのか。ミコトにからかわれているのだろうか。それとも他に何か考えがあるのか。
    「律儀に着てる時点で悩んでも無駄だと思うけどな、下駄も玄関においてあるけど普通にサンダルとかのほうがよくない?」
    「だって、女の子ものとは言えせっかく星くんが用意してくれた浴衣なんだよ、ちゃんと合わせたいし……」
    「はいはい、じゃあ歩き慣れないだろうから早めに出ておきなよ。僕はノヴァが迎えに来るし後は一人で頑張るんだぞ」
     そう言い残してアルクは先に部屋を出て行った。
     一人残されたアユムは深い溜息をつく。
    (どうしよう、やっぱり変かな……)
     先ほどまで元気だったが急に不安になってくる。
     いくら合わせようと意気込んでいてもやはり違和感はあるだろう。
     それでも折角誘ってもらったのだから楽しもう、アユムは覚悟を決めて待ち合わせ場所に向かった。
     

     アユムが待ち合わせ場所である公園に着くと既にミコトの姿があった。
    「お揃いじゃないじゃん!!」
    「僕の浴衣は金魚の柄だからおそろいだよ」
     確かにミコトが身に纏っている浴衣は白地に金魚の模様が入ったものだった。
     帯は黒で全体的にシンプルな雰囲気だ。そして男性用のもので女性が着るものとはまた別物だとアユムは思う。
    「どこがお揃いなのさ」
    「え? ほらここに金魚がいるよ」
     ミコトは指先で浴衣に描かれた金魚とアユムの帯を指し示す。
     もしやアユムの浴衣の帯のこの金魚の尾びれのような部分がお揃いということだろうかと正解にたどり着けばアユムは思わず脱力する。
    「何か期待してたの?」
     ミコトがくすりと笑う。その笑顔を見てアユムは一気に頬が熱くなるのを感じた。
     なんだか見透かされているようで恥ずかしくなって俯いてしまう。
    「大丈夫、とってもかわいいよアユムくん」
    「う、嬉しくない」
    「そう? あっ、アユムちゃんって呼んだほうが良かった?」
     にこりと微笑みながら言われてアユムはぶんぶんと首を振る。
     もしやこれは初対面の時にアユムがミコトを女の子と間違えたときの意趣返しだろうかと少し居た堪れない。
     男物の浴衣を着ていてもミコトは相変わらず可愛らしくて、しかしいつもと違う雰囲気がどこか大人びて見えて。
     そして自分だけ可愛い格好をしていることが更に恥ずかしくなった。
    「星くん、たまに僕にだけ結構意地悪だよね……」
     アユムは拗ねるように唇を尖らせる。そういうところがミコトにとっては愛らしいと思うのだが本人は気づいていないようだ。
     そんなアユムの様子にミコトはくすっと小さく笑って。
     そしてアユムの手を取り、微笑む。
    「ほら、そろそろ行こう。夏祭りなら出店がたくさんあるんだろう?」
    「ちょっと星くん、手……っ」
     アユムは驚いて声を上げようとしたがそのままぎゅっと手を握られた。
    (こ、これって恋人繋ぎってやつじゃ……)
     手の温もり、指が絡み合う感触にを意識してしまって更に顔が熱くなるのを感じる。
    「嫌なら離すよ?」
     意地悪くミコトが笑う。嫌じゃないとわかってるくせに、内心漏らしつつアユムはふるふると首を横に振って、そのままぎゅっと手を握り返し夏祭り会場へと向かった。 
    「星くん、あっち行ってみようよ」
    「うん、いいよ」
     夏祭りは様々な出店がひしめいている。ミコトもアユムも好きなものを買って食べ歩くことにした。
     まずかき氷を一つ買う。二人分買うつもりだったがお互い慣れない浴衣、夏祭り故に混んでおりトイレが近くなるのは避けた方がいいと一つにした。
     いちご味のシロップがかかったかき氷を二人で分けて食べて、ひんやりとした甘酸っぱさが暑さで火照った身体を冷やしてくれる。
    「アユムくん、僕の舌、赤くなってる?」
    「なってるなってる。ブルーハワイとかにしても良かったかもね」
     アユムはミコトの舌を見て笑いながら、自分の舌をぺろりと出して見せた。アユムの舌もミコトと同じく赤くなっている。
    「かき氷美味しかった?」
    「うん、美味しかった。……初めて、だなぁ」
     ミコトはそう答えてからアユムの手を引き、屋台に並ぶ人の列を抜ける。
     ミコトはアユムと出会った頃はよくわからない宗教団体の神子として半ば軟禁に近い状態で生きてきたらしい。
     だから一般的な子供が体験してきただろう行事ごとの経験があまりないと言っていた。
    「じゃあ夏祭りも初めてなんだね」
    「うん、だからアユムくんが誘いを受けてくれて嬉しかったよ。ありがとう」
     まっすぐなミコトの感謝の言葉にアユムは嬉しいような恥ずかしいような気持ちになって俯く。
    「あの頃はアユムくんとお別れ、覚悟してたけど……今こうやっていられるようになって、本当に嬉しいな」
    「うん、僕も本当によかったと思ってるよ」
     アユムはミコトの言葉になんだか感慨深くなり。自分の素直な気持ちを言葉にした。
     ミコトはアユムの言葉に嬉しそうに微笑むと、ぎゅっと手を握りなおして。
     そして再び屋台の並ぶ通りを歩き出した。
    「そういえば夕飯はどうする? ここで焼きそばとかも食べて夕飯にする?」
     そのためのお小遣いはちゃんと持ってきているしミコトがどちらを選んでもいいとは考えている。
    「うーんどうしようかな、屋台の食べ物って割増美味しそうに見えるよね」
    「わかる」
    「でも夕飯として食べるとその後ベビーカステラとか他の食べ物を食べたくなったとしても入らなくなっちゃうよね」
     お土産にも買いたいから帰る前に買って出来立てを母親に渡したいとミコトは悩んだ。しっかりとお土産のことも考えているミコトにアユムは感心する。
    「それにお土産を母さんに渡した後はアユムくんのお家にお泊まりコースだしね」
     ミコトがふふ、と微笑む。確かに今日は両親と妹は別の地域の夏祭りに言っておりそこで外泊らしいし、アルクも恋人と夏祭りを楽しんだ後はそのまま恋人の家に泊まると言っていた。
     つまるところ一晩アユムの家でふたりきりで過ごすということで、不埒な考えは一瞬浮かんだが今はまだ友達同士なのだから何らおかしくはない。
    「……なら、夕飯は僕が作っていいかな?」
     アユムは意を決したように言う。ミコトはアユムの突然の申し出に首を傾げた。
    「せっかくだから僕の料理、食べて欲しいなって。アルクのと比べたらまだまだかもだけど」
     アユムはまだ学生の身分で勉強優先のためそこまで凝った料理は作れないし、普段も両親やアルクが作っているから料理をするタイミングは少ない。
     しかし、ミコトに自分の作った料理を食べて欲しかった。
     自分の作った料理で美味しいと笑ってくれたらそれだけですごく嬉しい、アユムはミコトのことが大好きだから彼に喜んで欲しかった。
    「アユムくんの手料理、食べたい!」
     ミコトはアユムの提案思ったよりも食い気味に身を乗り出して言う。その勢いに驚いてアユムは目を見開いた。
    「え、そんなに?」
    「だってアユムくんの手料理を食べたことないし嬉しいよ。それにアユムくんが僕のために作ってくれたってだけで美味しいに決まってる」
     ミコトはそう言って微笑んだ。その笑顔にアユムは照れたように笑い返す。
    「じゃあ他にも気になるもの見て回って……花火が終わったらベビーカステラとかも買ってさ、星くんの家に行ってお土産渡したり着替えとか用意してからうちに行こっか」
     そう言ってアユムはミコトの手を引いた。その手を握り返してミコトはアユムの言葉に頷く。
    「楽しみにしてるね、アユムくんの手料理」
    「うん! 星くんのために作るんだから期待しててよ!」
     ふたりは笑いあいながら手を繋いで、屋台の立ち並ぶ通りを通っていったのだった。







    「アユム、星くんとうまくデートできてるかな」
     かわいい弟分のことを思い出しつつアルクは夏祭り会場の人が少ない片隅で休憩していた。
    「探せば見つかると思うけど」
    「いや、やめとく。馬に蹴られたくないからね。それに、僕だってノヴァとのデート楽しみたいし」
     悪戯に笑いアルクはノヴァの腕へと己の腕を絡めた。ノヴァもそれに応えるようにアルクの結われた髪を指先で撫でる。
     黒いシンプルな浴衣なのに美しいノヴァが着ているとまるでひとつの芸術品のように美しく、艶やかな印象を見るものに与える。
    「ノヴァ、本当に綺麗……かっこよさも天元突破だよ。伸びた髪も雑に結んでるだけなのに色気がすごい」
    「あはは、折角浴衣着るしで切らずにおいたけどアルクのほうが綺麗だよ。君も髪、伸びたね」
     少し興奮気味にノヴァの美麗かつ格好良い姿を褒めるアルクとは対象的にノヴァは穏やかに微笑む。
     ノヴァが露わになっているアルクの項へと指を這わせただけでアルクは小さく震えた。
    「ふふ、可愛い。まだ伸ばすのかい?」
    「そう、だね……お祭り終わった後はばっさり切ってもいいけど、君が長いの好きならもう少し伸ばそうかなぁ……ノヴァは今より髪伸ばすなら人外の美って感じだろうね」
     ノヴァの指先が項を辿り、なぞる。その感触にぞわりとしたものを感じながらアルクは頷いた。
    「アルクは髪が長くても短くても可愛いし、好きだよ」
     声色はいつも通りなのに指の動きは艶めかしく、ノヴァの指の動きにアルクは段々と落ち着かない気持ちになる。
     わかってやっているのか無意識なのか、おそらくは後者だろう。
     アルクはため息を吐く。ノヴァの行動にドキドキさせられて胸が高鳴る反面、悔しくもあった。
     そして、自分も何か反撃をしたいと思ってしまうのだ。
     ちょうど今、人は少ないし静かな場所にいる。
     きっと誰も見てない。アルクは絡めていた腕を解くと、ノヴァの腰へと抱きついた。
    「ノヴァ、そういうことは部屋に戻ってからで、ね?」
     少しだけ煽るように自身の浴衣の前をはだけさせて、その素肌を覗かせる。
     ちらりとノヴァを見上げれば彼の瞳の色が一瞬変わったのが見えて、アルクは満足げに微笑んだ。
    「……そうだな、部屋に戻ってから、だね」
     そう言って微笑むノヴァの表情には艶めかしい、妖しいものが浮かんでいてアルクはごくりと喉を鳴らしてしまう。
     これは少し煽りすぎたかもしれない。アルクはそう思いつつ、浴衣を戻せばノヴァに身体を寄せる。
    「もう少し屋台も見たいからね、僕。クレープ食べたかったでしょノヴァ」
    「……、うん、そうだね。じゃあクレープ買いに行こうか」
     ノヴァは珍しく少し考えてからアルクの言葉に頷いた。
     アルクの誘惑がかなり効いたらしくノヴァはいつもの優しげな笑みを浮かべ答えたがその目には情欲が残っている。
     アルクはそれにぞくぞくとしながら、ノヴァの腕をとって屋台の並ぶ通りへと歩き出そうとしたが、そのまま唇を奪われる。
     鼓膜に響く水音と口腔に這う舌の感触、どう考えてもここでするようなキスではない。
    「……っふ、は、ん……もう、しょうがないなノヴァは」
    「ごめんね、我慢できなかった。続きは後のお楽しみとして……それじゃ行こうか」
     唇が離れればすっかりいつも通りの穏やかな雰囲気に戻ってしまったが、これはこれで好きだなぁ、と噛みしめる。
     明日も休みを取っているし急ぐことはないと、ふたりは寄り添ったまま屋台が並ぶ通りへと向かった。
     
     
    「うわ、アルク……とノヴァ」
    「うわ、はないだろ。どうしたんだよこんなとこに一人で。星くんは?」
     出店のクレープや他の食べ物も楽しんだアルクとノヴァが花火はノヴァの部屋から見ようと帰路を歩いて、アユムとミコトが待ち合わせしていた公園の近くを通りかかればベンチにアユムが一人で座っていた。
    「……下駄で足、痛めちゃって。今星くんが絆創膏買いに行ってくれてる……」
     アユムの声はとても暗い。アルクが視線をアユムの足元にむけると慣れない下駄で沢山歩いたからか鼻緒がこすれて、皮が剥けていた。
    「大丈夫? 血もちょっと出てるねこれ」
    「絆創膏貼れば傷口に当たらなくなるだろうから……」
     アルクの言葉にもアユムは俯いたまま言う。その普段よりも覇気のない声にミコトに迷惑を掛けた、と落ち込んでいるのだと察した。
     ノヴァも心配そうにアユムを覗き込む。アルクをそのまま幼くしたようなアユムが落ち込んでいるとなんだか変な気持ちだ、なんて少しズレた感想を抱いていた。
    「まあそうなるかなってちょっと思ってたから……アユム、お財布入れてる巾着の一番下」
    「え、あ、うん」
     アルクの言葉に首を傾げつつも、アユムは巾着の口を開き、その一番下に手を突っ込んでアルクに言われるがまま中を探る。
     するとそこにはアユムの浴衣の色と揃いのレースの下駄用靴下が包装された状態で出てきた。
    「星くんが買ってきてくれる絆創膏傷に貼ったらそれを履けば良いよ、絆創膏目立たなくなるし」
    「アルクは用意いいね、びっくりしちゃったよ」
    「いつ入れたのこれ……」
     ノヴァとアユムが関心したようにアルクを見る。
    「アユムが星くんに女の子ものの浴衣を何故か用意してきたっていった時に一応。僕も下駄だから靴下はいてるよ」
    「流石だね、アルク」
     アルクの言葉にノヴァはアルクの足元を見やる。説明の通り浴衣の色と同じ靴下が見えてノヴァがパチパチと拍手をして、そして改めて座るアユムの姿を見た。
    「アユムくんのその浴衣、オリジンからもらったんだ」
    「オリジン、えっと、星くんのことだよね、それなら、ウン」
    「かわいいね。アユムくんがそれ着てるのはすごくしっくりくるよ」
    「……ウン、ありがと、ノヴァ」
     柔らかくアユムに微笑むノヴァについアユムは照れてしまう。
     なにせノヴァはミコトが大きくなったらこう育つかもしれない、と思う程度には似ている美しい青年だ。
    「やっぱり僕だから好みは似てるんだな……っと」
     アユムのまんざらでもなさそうな表情にアルクは呆れつつも、ちょうどミコトが戻ってくる姿を視界の端に捉える。
     その顔はどこか不機嫌そうで、その原因はノヴァに微笑まれアユムが照れているのを見たからだとアルクはすぐさま察した。
    「星くん、おかえり」
    「……」
     アルクが声をかけるも、ミコトは無言のままアユムの足元を一瞥してから、自分の巾着を開けて買ってきた絆創膏を取り出し足の傷を手当てする。
    「ほ、星くん、僕自分でっ」
    「いいから、アユムくんは僕がちゃんと手当てするから……だからふたりはデートに戻っていいよ」
     わかりやすい嫉妬する姿を見て、アルクはなんだか安心した。
     アルクの記憶の中のミコトは正しくはこの世界のミコトではないが、それでもいつも穏やかに微笑んでいて、感情の見えにくい子だった。
     そんな彼が嫉妬するほどにはアユムに心を寄せているのだろう。
    「ノヴァ、ああ言ってるし後は星くんに任せて僕らは帰ろうか……ノヴァはまだ食べるよね、やっぱり肉だねオムレツ?」
    「そうだね、ふたりともまたね。ふふ、アルクのオムレツ早く食べたいな」
     アルクとノヴァは顔を見合わせると、二人でそっと踵を返し他愛ない、しかし甘さを滲ませた会話をしつつ去っていった。
    「あ、ふたりともありがとう……相変わらず一目憚らずいちゃついてるなあのふたり」
     そんな二人を見送りアユムはミコトへと視線を戻す。
    「星くんは、あのふたり見てどう思う?」
     アルクはアユムの、ノヴァはミコトの兄弟のようなものだ。実際は兄弟ではなく説明するにはややこしい関係だが。
     似ているからこそ自分とミコトが成長してあんなふうに仲睦まじくなったなら、と妄想できてしまう程度にはアユムはふたりを羨んでいるのかもしれない。
    「どう思う、って?」
    「あのね、その、僕は二人の関係が羨ましいな、って……思わなくも……」
     ない、と最後まで言い切ることはできなかった。
     何故なら、ミコトがアユムの腕を引いて唇を奪ったからだ。
     それは、とても触れるだけの軽いものですぐに離れていく。
     しかし、触れ合う箇所からじわりとミコトの熱がアユムに染み込んでいくようで、何をされたか理解した途端アユムは耳まで顔が赤くなった。
    「星くん、なんで、いきなり」
    「アユムくんが、かわいいから、キスしたくなったんだよ」
    「かわ、いくは、ないよ。僕男だし……」
    「可愛いよ。すごく、可愛い」
     そう言ってミコトはアユムの腰を抱いて、再びキスをした。今度は先程と違い、アユムの下唇を食むのと同時に口内に舌を入れる。
    「っ、んぅ……」
     ぬるりと舌を絡め取られ、歯列をなぞられる感覚にアユムはゾクゾクと背筋を震わせる。
    「……だからあの人にそんな可愛い顔を見せちゃだめだよ」
     アユムの口内を貪り、堪能してからミコトは唇を離した。
     どちらのものともわからない唾液で濡れた口周りを、ミコトは指でそっと拭う。
    「アユムくんはずっと僕のそばにいて、僕を見て。……僕のそばから、離れちゃだめだよ」
     そう言ったミコトの声には嫉妬と寂しさと独占欲が入り混じっているのがなんとなくアユムにもわかった。あの、いつも穏やかであまり感情表現を出さないミコトが、ここまでわかりやすく感情を出している。
     それに驚きつつも、アユムはミコトの頭を撫でた。
     それはまるで聞き分けのない子供を宥めるようだと自分でも思ったが、アユムが頭を撫でるとミコトは気持ち良さそうに目を細める。
     それが可愛くて、アユムは何度もミコトの頭を撫でた。
     あんなすごいキスをされて心臓の音ははうるさいが、同じ気持ちだと感じられて嬉しくてたまらない。
    「星くん。僕は僕の意思で、星くんのそばにいるよ。ずっとずっと、星くんのそばに居たいんだ」
     アユムの言葉にミコトは何度も瞬きをしてから、アユムの手をとってその手の平にそっと口づける。
    「……好きだよ、アユムくん」
    「僕も、好きだよ、星くん」
     互いに思いを言葉にすればそのまま自然と二人で何度も、啄むような口づけを交わした。何度も、何度も、お互いがそばに居られることを確かめるように。
     アユムとミコトの唇が離れた時、大きな音とともに打ち上がった花火の光が二人を照らした。
     色とりどりの花火が夜空を彩る中、二人はお互いを見つめ合う。
    「……ねぇ、お泊まり、キス以上も期待していいかな」
    「っそれは、まだ、ちょっと、待って欲しい、かな……」
    「そっか、じゃあまた今度……そうだね、今日が終わっても明日があるし、明後日も、その次の日もある」
    「うん……だから、その、それまで待ってて」
     アユムがそう言うと、ミコトは満面の笑みを浮かべた。
    「ふふ、わかった。待つよ、ずっと、ずっと……アユムくんの心の準備ができるまで」
    「うん……ありがとう……」
     花火の光に照らされた二人は微笑みあって、そしてもう一度だけそっと唇を重ねる。
     二人のこれからは今までと変化しつつきっとずっと続いていく、しかしきっと今日のことは忘れることなく大事な思い出として抱えて、時に助けられるだろうとアユムはくすぐったい気持ちになった。


    「ふふ、これから花火を見たり音を聞く度、思い出しちゃうね。その度キスしたくなっちゃうかも」
    「……そ、それはちゃんと、周りに人いないか確認してからだよっ」
    「へぇ、人がいなければしてもいいんだね」
    「うう、やっぱりたまに意地悪だよ星くん……」
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