君のフレーバー「龍之介~!!早く早く!」
「分かったから落ち着けって笑」
カラっと晴れた空模様のある休日。
僕達二人は色んなアイスクリームを紹介したり試食することが出来る、『アイスクリーム展覧会』というものに来ました!
アイスクリームの歴史や様々なアイスクリームメーカーによる商品の説明、そしてそれらを試食・購入できる、アイス好きには堪らない素晴らしいイベントなのです!
その中でも僕達の目的というのが…
「展覧会に来てくれた人全員にもれなく、好きなフレーバーでのアイスを一つプレゼント、か。流石サーティ〇ン、考えたな」
「自分だけのオリジナルフレーバーか…。自分好みの味を作れるのは確かに惹かれるよね。こんなに沢山の人が来てるのも頷けるよ」
「実際俺たちもそれ目的で来たんだしな」
そう話しながら入場ゲートに出来た列に並ぶ。
既に並んでいる人の多さに若干驚きはしたものの、それだけアイスクリームという存在が愛されている証拠なのだろう。そう再認識した。
それに、二人でどこかに出かけるというのも実は久しぶり。
今日のイベントのことを知って龍之介を誘った時からワクワクが止まらなかったのだ。
(せっかくのデートだし、美味しいアイス沢山食べながら楽しもうっと♪)
***
『アイスの歴史ブース』を一通り見回り、龍之介の語る豆知識と共に色々な考察をして時間をある程度過ごした。
真面目に考察を進める龍之介を見て思わず笑ってしまったのは申し訳なかったかな。
「真面目で悪かったな…」
「ごめんごめん。馬鹿にしたわけじゃないから、そんなにむくれないで」
「むぅ…」
いじけてしまった彼を何とか宥めながら、目的であるアイスクリームを食べられる飲食ブースへと足を運んだ。
「到着っと。お~、広いね!」
ブースの真ん中には飲食を楽しむための沢山のテーブルとイス、それらを取り囲むように多種多様のアイスクリームメーカーのコーナーがズラリと並んでいた。
どのコーナーにも大勢の人が列をなして並んでいる。
多くの人で賑わうブース内、その中から二人はお目当てのとこを見つけ、駆け寄った。
「ここも沢山いるね。流石有名どころさんだ」
「だな。…お、注文の詳細があるぞ」
「あ、ホントだ。えーと…」
近くの看板に書かれた詳細を読んでみると、
①店員が入場券を確認いたします。すぐ拝見できますよう、予めご用意ください。
②入場券を確認できましたら、お一人ずつに用紙を一枚お配りいたします。
③奥のフレーバーコーナーに設置された見本をご参考に、お好きな「アイスクリーム」「トッピング」「リボン」を用紙にご記入し、記入が完了した用紙を受け付けの方へお渡し下さい。
④用紙を受け取る際に番号札をお渡しいたします。後に番号にて呼び出しいたしますので、番号札を持参した状態で受け取り口へお越しください。
…と書かれていた。
「なるほど。要するにフードコートみたいなシステム、ってことだな」
「へぇ、見本を見ながら作成するんだ。何だか本格的だね」
「そうだな。季節限定のフレーバーもあるみたいだし、本当に『自分だけのオリジナルフレーバー』を作れるんだな」
「うーん、何だかワクワクしてきたなぁ」
楽しそうなフレーバー作りに胸を躍らせていると、ふとあることを思いついた。
「ねぇ龍之介、お互いをイメージしたフレーバー作ってみない?」
「お互いをイメージ?」
「そう。僕は龍之介、龍之介は僕をイメージしたフレーバーを作ってお互いにプレゼントするの。面白そうじゃない?」
「なるほどな…確かに面白そうだな」
「じゃ、決定だね!書いた内容は食べるときに教え合う感じで」
「了解。お前らしいフレーバー作れるよう頑張らないとだな」
意気揚々とした顔で告げる龍之介。
どうやら、先ほどまでのご機嫌斜め状態は無事晴れたようだ。
自分も龍之介に負けないぐらい良いフレーバー作りが出来るよう気合いを入れねば。
そうこうしている内に自分たちの番となった。
入場券を入口に立つ店員に見せ、用紙とペンを受け取り、フレーバーコーナーへと向かう。
そこからは別々に見回ることにし、先に用紙を提出した方が席確保。そこで待ち合わせることにした。
本物そっくりのアイスクリームやトッピング、リボンの見本がズラリと並ぶ。
色とりどりの光景に目を奪われつつも、龍之介らしいフレーバー作りに勤しんだ。
「ベースになるアイスはソーダと…ミントが良いかな。瞳の色と普段の服の色、味わいもさっぱりして美味しそうだし。トッピングは…あ、チョコパフが良いかも。両方の姿の色っぽいし、アクセントとしても良さそう」
良さそうな組み合わせがポンポンと見つかるおかげで良いフレーバーが出来上がってくる。
用紙にチェックマークを記入しながらリボンコーナーに移る。
「リボンは…白いのを入れる感じにして髪色を表現すればいいかな」
そう考えてながら見回っていると、ふとある色のリボンが目に入った。
「…そっか。そういうのも悪くないかもね」
そう呟きながらリボンの枠をその味に決定した。
***
用紙を提出し、席の方を見渡すと、手前付近で座っている龍之介を見つけた。
「おかえり。良い感じに仕上がったか?」
「うん、バッチリ。そっちは?」
「俺も納得のいくもんが出来た。楽しみにしとけ」
やけに自信満々な彼の姿を見て期待を膨らませる。一体どんなフレーバーに仕上がったのだろう…?
暫し談笑していると、先に提出していた龍之介のアイスが完成したようだ。お先、と言いながら受け取り口へと向かって行った。
その後、アイスを隠しながら戻ってきた龍之介の次に自分が呼ばれた。
番号札を持ってアイスを受け取り、自分も同じように隠しながら席に戻る。
「そんじゃ、見せ合うか」
「そうだね。せーのでいくよ、せーの…」
掛け声と同時に隠し持っていたカップに入ったアイスを見せ合った。
互いのアイスを見た途端、両者とも「お~」という感嘆の声を漏らした。
「その色は…ソーダとかか?」
「あ、うん。ベースはソーダとミントのさっぱりした感じにして、アクセントにチョコパフのトッピング、そしてグレープのリボンだよ」
「へぇ、なるほどな。目と普段着てる服、チョコパフはさしずめ肌色、ってとこか?そんでもってグレープは…何だ?」
意外な色に少し困惑している様子の龍之介。
その理由は後で教えるつもりだ。
「それよりも龍之介の選んだのを教えてよ」
彼の差し出したアイスは淡いピンクを主体に茶色のトッピングと紫色のリボン、といった見た目になっていた。
「あ、ああ、そうだな。えーっと、ベースはさくらフレーバーにしてトッピングは小豆、そんでもってリボンはパープルの綿菓子風味にしてみた」
「ふむふむ、和風なフレーバーの形にしたんだね。さくらは苗字、小豆は髪色、綿菓子風味のリボンは瞳だね?」
「正解。ま、イメージフレーバーだからな。見た目の部分を反映させてみた」
彼の目に映る自分がアイスとして目の前にある。
そう考えると、途端にむず痒い気持ちが少し芽生えてきた。
「何だか恥ずかしいな。でも、可愛い見た目だし、何より美味しそう。ありがとう龍之介」
「どういたしまして。それよりダイキ、俺のアイスのリボンについてだが…」
そう言って僕作成のアイスを指さしてきた。
「うん、何を意味してるか分かった?」
「うーん…皆目見当つかん。強いて言うならお前の目の色ってことぐらいだが…」
「正解」
「え!?」
まさかの答えに思わず素っ頓狂な声を上げる龍之介。
そう、この紫は僕。僕自身をイメージして入れてみたのだ。
「普段さ、龍之介は僕のことをすっごく構ってくれるじゃん?ダイキダイキ~って。それに、どんな時でも龍之介が一番に心配するのって僕だったりするから、龍之介の目に映ってるのは僕の色なのかな~って思ったの」
あの時、グレープのリボンを見かけた瞬間、僕の頭には普段の龍之介の様子が思い浮かんだ。
朝起きた時のおはよう、一緒に食事をする際のいただきます、甘えてきてくれる時の大好き…。
どんな時でも一緒に居て、僕の名前をずっと呼んでくれる龍之介。
君の中には僕がいつでもいる、そう思った途端にリボンはこれが良いと思った。
君がずっと見つめてくれる、僕の瞳の色。
「ダイキ…」
「だからグレープのリボンを入れてみたの。自惚れてるだけかもしれないけどね笑」
「…いや、お前の言うとおりだ」
「…!」
「俺の中には少なからず『桜龍院ダイキ』っていう存在がある。それは、今の俺を形作っている、大切なもんだ。片時も手放したくないし、手放すつもりも無い。だから、決して自惚れなんかじゃないぞ」
「…そっか。なら良かった」
「ああ、ありがとうな」
お礼を告げる彼の前髪を、どこからともなく吹いた風がふわりと持ちあげる。
刹那、ソーダの色よりも鮮やかで、それでいて穏やかな雰囲気を漂わせた美しい玉が、こちらを優しく見つめていた──
「さ、食べるか。せっかくダイキが作ってくれたんだし、溶けたら勿体ねぇよ」
「…そうだね、食べよっか」
そう言って二人は相手の真心が籠ったであろうオリジナルフレーバーのアイスを手に取り、いただきますの掛け声と共に食べ始める。
その味は、普段食べているどんなアイスよりも、とびっきり甘く感じられたのだった。
~終~