友達ルチェと キュピモンから進化したルーチェモンと友達になって数週間。数日ごとに会いに行っているが、ある時ルーチェモンが一緒にリアルワールドに入ってきてしまった。
「る、ルーチェモンっ! 羽根、羽根しまって!」
「えー、しまえないよ」
「ええと、じゃあ何かフードを…!」
街中に戻ってきた私の隣に、白い羽根を纏う裸に近い格好をした少年が居ればじろじろと視線を集めるのは当然で。慌てて自分のパーカーを彼に貸してあげ、何とか羽根を覆うことができた。背中はすこし、歪に見えるが。
「ここがリアルワールド? 人間でいっぱい!」
マシな格好になったルーチェモンは人々が行き交う歩道に出てあちこち見渡す。高い建物と沢山の人。私でさえ酔ってしまうのに、ルーチェモンは平然と目を輝かせていた。
早くデジタルワールドに帰さないと…と思っているが、この様子をもう少し続けさせてあげたいとも思う。
「ねえ、折角ならご飯でも食べていこう」
「人間の?」
「うん。今回だけ、特別」
何処にでもあるファミリーレストランなら、手持ちにある小遣いで事足りるだろう。
「…ねえ琴葉、これってなあに?」
「パンケーキのこと? そうだなあ、ふわふわで甘くて、美味しいお菓子…かな」
「お菓子…」
「好き?」
「うん。甘いもの大好き!」
メニューにデカデカとアピールされた5段重ねパンケーキにルーチェモンは目を奪われた。この量なら、普通にご飯になりそうだと思い、私は軽く、パフェにでもしようかと店員を呼ぶ。
「トッピングは何にする?」
「トッピング?」
「ここに書いてある…アイスとか」
「アイス…メープルシロップに、クリーム? 全部、かけていいの?」
「良いよ」
「する! これにするっ」
無邪気に笑う姿は正に小さな子供で。小さな子を相手している感覚って、こんなものなのかと思考する。私には弟や妹はいないし、近所には同年代辺りしか住んでいないから、新鮮で楽しい。
待ち遠しくて、足をぶらぶら揺らしながらメニューのパンケーキから目を離さないルーチェモン。焼きたてだから、20分くらい経ってようやくそれが届いた。
香ばしい、生地の焼けた匂い。5段もあればボリューム満点だが、更にトッピングしたメープルシロップと生クリームが天井から掛けられ、端に2個アイスが添えられていた。
「うう、ふわふわっ」
待ちきれなくなったルーチェモンは私の目を見て食べて良いと理解すると、フォークで不器用に切られたパンケーキを1口放り込んだ。
焼きたてで外はカリッとしているが、中はふわふわ柔らかい。口の中が幸せで一杯になって、ルーチェモンは膨らんだ頬を上下に動かし、噛み締める。
「美味しい、これすっごくおいしい!」
「良かったね。そうだ、私のも食べる?」
「パフェも?!」
つい愛おしくって、苺たっぷりのパフェを口に運んであげる。迷うことなくスプーンを口に入れ、苺と共に溶けかけのアイスを頬張った。
「冷たいっ、けど、おいしいっ!」
ほっぺが落ちてしまうと、両頬を手で支えながら甘露さに震える。ルーチェモンはとっても気分が良い。冷める前に、5段ものパンケーキを平らげてしまうほどに。
「琴葉の世界の、食べ物は沢山美味しいもので溢れてる…いいなあ。ぼく、毎日パンケーキ食べたい」
「気に入った?」
「とっても!」
満面の笑みで帰路を目指すルーチェモンのパーカーは外され、私の腰に巻きついている。デジタルワールドの集落を目指して、夕日を背中に今日の出来事を振り返った。
ルーチェモンと食べたパフェは美味しかった。きっと、一人で食べても美味しいだろうけど、あんなにもはしゃいで幸せそうに食べる姿を見ながら食すと、さらに美味しく感じた。
また連れて行ってあげよう。…ダスクモンには内緒で。