魔女・アグニ
小さな半獣半人を拾った。魔女として修行を積む琴葉は、治療薬の効果を試すためにその子を拾った。
その子は知性はあるが誰にでも懐くような危機感の薄い性格をしていた。しかし時が流れていくと進化という過程をえてアグニモンとなった。進化によってそんな性格は静まっていった…かのように思えたが。
「ただいま琴葉!」
「アグニモン…おかえっ」
返事を言う前に大きくなった体で抱きしめられる。ぐりぐりと頭を押し付けて、まるで猫のように戯れる。
「頼まれた薬草、取ってきたぞ!」
「わあ〜ありがとう〜」
「ん!」
甘えたな性格は変わっておらず、満面の笑みで撫でられ待ちする。そんな彼をつい甘やかしてしまう琴葉も琴葉だが…。
「(全く、子供の頃が抜けないのね…)」
小さな頃を知っていて、尚且つ育てた琴葉は仕方がないと溜息を吐いて彼のふさふさな金色の髪を撫でてあげた。
琴葉は気づいていない。アグニモンが、琴葉に抱いている感情が親に向けるものではないことを。もっと重くて深い、愛しい人に向けるような恋心を持っているなんて。
・ヴォルフ
小さな子うさぎを拾った。ボロボロで、切り傷ばかりだった。今すぐ死んでしまいそうで怖くなった魔女、琴葉は直ぐに工房へと彼を運び、治療を行った。
「あとは…睡蓮の花を…」
「手伝うぞ」
「ありがとう、ヴォルフモン」
治療のお陰ですっかり元気になった子うさぎは狼に育って魔女の弟子として過ごしていた。気の利くいい子で、大きくなって更に観察眼が優れたのもあるのだろう。必要としていた睡蓮の花を渡してくれた。
「ふふ、すっかり魔法使いだね」
「いや、琴葉に比べればまだまだ…」
「治療薬なんて、ほぼ覚えてしまったでしょう?」
いつか巣立っていくのだろうか。そう思うと悲しくもあるが、何より一人前になってくれる事が喜ばしい。
そんな琴葉とは裏腹に、知識を身につけていく度にヴォルフモンは不安に駆られていく。もっと彼女の傍に居たい…。いつしか恋心を抱いてしまったヴォルフモンは、思いを言えずにいた。
・レーベ
ある魔女が、漆黒の獅子を介抱した。怯える事なく、的確な治療を施して獅子を返した魔女のことを、レーベモンは忘れられなかった。
もう一度会えないかと、調べていって分かった。彼女は魔女見習いの琴葉という少女で、主に治療魔法に力を入れて修行しているということを。
二足歩行となって歩き、魔女の家へとたどり着く。木で作られたドアを軽くノックして、彼女が出てくるのを待った。
「はーい。どちらさまで?」
あの頃と変わらない姿の魔女が、ひょこりと顔を覗かせた。会えた幸せを噛み締めて、レーベモンは琴葉の手を取り、お辞儀をした。
「あの時助けて頂いたカイザーレオモンです。貴方のお陰で元の姿にまで戻ることができました。…何かお礼を、と思い、ここまで来ました。…どうか私を受け入れてください」
戸惑う琴葉の手の甲に、キスを贈ってレーベモンはニッコリと笑った。
・ダスク
大きな怪鳥だった。その見た目のせいか、誰かによって傷つけられたのだろう。三つ目が光を無くし、今にも息絶えそうだ。
治療を主とした魔法使いである琴葉は、彼を放ってはおけなかった。
傷を治して、起きるまで暫く傍にいてあげた。次第に呼吸が安定し、意識が浮上する。怪鳥…またの名をベルグモンは治療した魔女を視界にいれた。
「もう大丈夫だよ。君が居るべき場所へ、帰りなさい」
優しく嘴を撫でて、魔女は彼が無事に治ったことを確認すると静かにその場から立ち去った。危害を加える存在ではないと示すために。
そんな小さな彼女の背を、ベルグモンはずっと眺めていた。
あれから数週間程経ったある日のこと。乱暴にドアが叩かれ、警戒しながら扉を開けた。少し視線を上にあげると、黒い鎧と目玉を持った男が息を荒くして立っていた。
「お前! お前が、何かしたのだろう!? あれからお前が脳を過ぎり、気が散ってならん! 俺に何をした!」
「だ…だれ…??」
一方的に叫ぶ男のことを、琴葉は生憎知らなかった。あれから、ということは過去に会ったことがあるのだろうか。もしかして…?
「あの時の、鳥さん…?」
「!」
男の目が見開く。その様子に、人型の姿をとった彼なのだと理解した。
「良かった…。ちゃんと無事だね。あれから何も無い? 何かあったら、また私が薬をあげるよ」
「く、う、う…」
「…大丈夫?」
顔を若干赤らめ、苦しそうに唸る男に首を傾げる。瞬間、男は大声でこう言った。
「責任をとれ!」