カイザーレオモン夢 琴葉はライオンが好きだ。
昔、動物園に家族と初めて行った齢2、3つ程の時。様々な動物を檻ごしに眺めていると、妙に静まりかえったライオンがこちらを眺めているのに気がついた。
目が合ったので、琴葉はふとライオンのいる檻に近づいた。他のライオンと離れた所に一人でいたライオンは、雄らしく鬣を持ち、王のような風格を醸し出していた。
檻に近づいた琴葉が、彼の目線に合わせるようにしゃがみ込む。じっと睨み合いをしているが、威嚇されている訳ではない。ただ眺めたいから眺めている。そんな感じだ。
「琴葉? ああ、ライオンさんの所にいたのか。危ないから、一言パパに伝えてな」
静かになった娘を心配した父親が琴葉を見つける。琴葉は小さな頭をうんと頷かせると、またライオンと見つめ合った。
「何だ、ライオンさんが気に入ったのかい?」
気に入った、と言われると首を傾げるが、嫌いではなかった。ただ見つめられたので、見つめ返している。それだけ。それだけなはずだ。
「ライオンさんも琴葉が好きなんだな。他の子たちは他所で遊んでるのに、この子だけは琴葉が気に入ったんだな、きっと」
そうなのだろうか。琴葉は父の言葉はよく分からなかったが、悪い気はしなかった。
他の所も回らないと日が暮れちゃうぞ、と父が急かし始めたので、琴葉はようやく立ち上がりライオンに向けて手を振った。
「ばいばい」
ライオンはずっとそれを眺めていた。
「あの後も何度か動物園に行ったんだけど、相変わらずその子だけ異様に見つめてきてね。自然と、好きになってたの」
でも年が経つ度に彼はやつれていって、いつの日か檻の中にいなくなった。きっと亡くなったのだろう。悲しくて、いつの日か買ってもらったライオンのぬいぐるみを抱きしめた。
あれからずっとライオンのぬいぐるみを見ると、不思議と彼が思い浮かぶ。14になる頃には部屋にライオンのぬいぐるみが数十体分飾られていた。それを見たレーベモンはちょっと照れくさそうにしていたのを覚えている。
「レーベモン、やっぱり獅子なだけあって進化してもライオンさんなんだね」
回想したのは、レーベモンがスライドエボリューションしたのを初めて拝見したからだ。ビリビリと背に衝撃が走るような感覚がした。
漆黒の鎧に包まれたようなライオンは、大きな体で大地を走り、獲物を狙う刃のような鋭さを持つ爪で大きく切り裂いたあの瞬間といったら! 私はあのライオンが野生児として生きる様を見てみたかった。元気よく走り回る姿を見たかった。だから嬉しくって、かっこよくって。
「ライオンさんに、初めて触った!」
カイザーレオモンとなった相棒の鬣を思わす部位を撫でる。柔らかさとは無縁な肉体だが、私は構わなかった。
「琴葉…まだ解いては駄目なのかい」
「まだ! もう少しお願い!」
だから、もう少しだけ我儘を言わせて。
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琴葉がライオン好きなのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。確かに、始めて彼女と出会った時もライオンのぬいぐるみを抱いていたし、部屋にも沢山のライオンたちが丁寧に飾られていたのも見ている。それでも私の姿にここまではしゃぐのは、予想外だった。
カイザーレオモンとしての姿が人間界でいうライオンと似ているのは重々承知しているが、毛並みもなければ大きさだって私の方が遥かにでかい。それでも琴葉はかっこいいと言っては様々な場所を撫でてくる。鬣から始め、顎に頬、大きな前足だって目を輝かせて触っている。少し危ないから、辞めて欲しいのだが、こんなにも近い距離で彼女から触られるのは嫌ではない。寧ろ嬉しい…。けれどどこか嫉妬してしまう自分もいる。レーベモンとしての私では少し不服なのだろうか。
まさか自分に嫉妬する時が来るなんて。内心、ため息を吐く。
「(琴葉…ヒューマン型の時も、こんな風に触っておくれよ)」
もっと彼女と触れ合いたい。動物としてではなく、君の騎士として。あわよくば、君の恋人として、なんて。