成長期のルーチェモン夢(デジフロver) 日々争いが絶えない世界。そんな日常の一日に、ボクは"お姉さん"と出会った。
「いてて…」
人型と動物型デジモンは仲が悪い。今日は運悪く、動物型デジモンに襲われて怪我をした。ボク、何もしてないのに。
「こんな世界、無くなっちゃえばいいのに」
人気のない森の中、木下にうずくまって嫌味を零す。そんな時、がさがさって葉が大きく揺れる音がして、ドスンとボクの前に何かが落ちてきた。
「だ、だれ?!」
びっくりして立ち上がる。立ち上がった瞬間痛い体が悲鳴を上げたけど、また動物型デジモンだったらボクはデリートされてしまうかもしれない。それはやだ!
「うう、イテテテテ」
腰を擦りながらゆっくりと起き上がったのは、人型のデジモンだった。でも、よく見るとデジモンらしさはなくて、どっちかって言うと…。
「に、人間?」
初めてみた、人間だ。黒い髪をポニーテールにして、素顔を晒してる。大きな風が吹いたら下着が見えちゃうような、見たことない服を着てた。たぶん、スカートってやつ。ボクはこんなデジモン見たことない。
「何なの、急に…。マンホールにでも落ちちゃったワケ…?」
人間は自分が落下して来た原因が分からないみたい。辺りを見渡して、森であることに気づくと顔色を悪くした。
「なんで、森の中になんか。私、下校中だったのに」
「ね、ねえ」
「!」
人間はボクが呼びかけるとようやく気がついた。
「誰…天使?」
私、死んでしまったの?と顔色を更に悪くする。真っ青レベルだ。
確かにボクは天使デジモンだけど、人間を攫うような力は持ってない。
「違うよ。ボクはルーチェモン。君は、人間だよね。どうしてここに?」
「る、ルーチェモン?」
「うん。ボクはデジモン」
人間はボクらのことを知らないみたいで、ここの事を教えてあげたら、少し落ち着いてきたみたい。ほっとした溜息を吐いて、その場に座った。
ボクも同じように隣に座ったら、怪我をしている事に気がついたみたい。凄い慌ててる。
「大丈夫だよ。デリートするまでの傷じゃないから。…本当は嫌だけど、でもこの世界は争いばかりだから…」
人間は戦争のことを知らない。その事についても話してあげたら、悲しそうな顔をした。君は関係ないのに。
「確かに、見た目が違うと価値観とかも違うのかなって思っちゃうけど、同じ言葉を話すんでしょ? 私たちの世界では、今は言語が違っても互いを傷つけあったりなんかもうしないよ。君たちは、互いのことを知らなさ過ぎるんじゃないかな?」
人間の言葉に、ボクは衝撃を受けた。確かに、今まで動物型デジモンは野蛮で知性がないって偏見があった。だから対立して当たり前なんだって。どうして気が付かなかったんだろう!
「そうかもしれない。ボク、デジモンたちのこと、何も知らないもん」
「じゃあ、そこから始めてみればいいよ。行動を観察するだけで、何か気がつくかも。更に勇気を出して話しかけてみれば、意外と良い奴だって分かるよ」
「人間って、凄いね。ボク、関心しちゃった」
「ちょっと、人間って言うの止めてよ。私はちゃんと○○って名前があるんだから」
「○○…お姉さん?」
「お姉さん? ふふ、何だかいい気分」
ボクは名前で呼ぶのが少し気恥ずかしくって、お姉さんって呼んだら相手は嬉しそうだった。だから、ボクはお姉さんと呼ぶことにした。
お姉さんとの話は有意義で、とても勉強になったし、楽しかった。あっという間に日が降りてしまうほどに。
そうしたら、お姉さんの体が薄くなっていくのに気がついたんだ。
「お、お姉さん! 体が…!」
「え?」
お姉さんは自分の体を見て、薄くなっている事に気がついたけれど、ボクよりも反応が弱かった。何かを悟っているかのように。
「たぶん、私戻れるんじゃないかな」
「え…。お姉さん、かえっちゃうの?」
「そりゃあ、私はここの世界の住人じゃないし。なんでここの世界に来ちゃったのかは分からないけど…。うん、もしかしたら、君と会う為だったのかも、なんて」
恥ずかしそうに笑うお姉さんに、ボクはコアをギュッと締め付けられる感覚がした。
「行かないでよ。ボクと一緒にこの世界を変えようよ」
「…それはたぶん、君の役目なんじゃないかな。天使のように、この世界のデジモンたちを導いてあげなよ 」
約束と、小指を立てる。指切りというらしい。歌詞は恐ろしいけど、ちょっとコアが暖かくなった。
「絶対、この世界を変える。変えるから…。その時は、お姉さんに見ててほしいな」
「じゃあ、この世界が安定したら、また私をここに呼んでよ。それか、君が私の世界にやってきて、教えてよ。きっと私がここに来れたんだから、君たちもこっちに来れるはずだから」
お姉さんはそれを伝えると、完全に姿が消えてしまった。本当に、帰ってしまった。
ボク、やってみる。だってボクは天使で、皆を導く力があるんだ。
待ってて、お姉さん。
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どうして!
「私に逆らうというのか!」
デジモンたちが、私を睨む。
私は天使だ。皆を導く存在だ。私がこの世界に秩序を創り、皆をまとめあげた天使だ。
何故、私を拒む。背に生えた白と黒の翼が折れる。十闘士だと? 私に逆らうのは。私は、彼女との約束を果たすためにここまでやってきたと言うのに! おのれおのれおのれ。許さぬ。何度でも私はこの世界を手に入れる。そして人間界に降り、彼女に伝えるのだ!
「世界が一つになったと!」
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また負けた。今度は、人間の子供たちに…! 何故だ、何故そこに貴方はいない。私が、ボクが会いたかったのは貴方なのに。だから人間の世界に行きたかった。でも奴らがそうはさせない。
痛い、痛い。ボクはただ、お姉さんと約束を果たしたくて。もう一度、お姉さんと話がしたくて。お姉さんと、お姉さん…!
「あいたいよ…」
世界が騒がしい。白い羽が宙を舞っている。舞う宙に見えるのは、沢山の建物と人々。ここは…?
「ルーチェモン…?」
会いたかった人の声が聞こえた気がした。