ほろにが・ハッピー・バースデー「……意外と冷えるんだな」
アデルの部屋の窓をちらりと見ながら、アクターレがぽつりとつぶやいた。
3月5日。日中はうららかな春の日差しが差し込む自然豊かなホルルト村も、夜中は冬のように冷え込む日が続いていた。
「そうかあ?」
普段から体温の高いアデルは特に気にならないらしい。隣に座るアクターレにさらに近づいて手を取り、両手で包み込んだ。やや細めで骨張っていて長い指。人に見られる機会の多い芸能人らしく、どの指の爪も形が揃っていて、きれいに整えられている。関節部分が太く、爪の短いアデルの指とは対照的だった。
「本当だ。指先……冷たいな」
確かめるように、アデルはアクターレの指の腹を優しく擦った。すり、と触っているとアクターレが勢いよく手を引っ込めた。
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