「コホン」と軽く咳払いし、アイオロスはペンを止めて喉に手をやった。
「……ん? 喉が変だな。事務仕事ばかりで身体が鈍ったか……風邪かもしれない」
それを聞いたサガが、脇机から立ち上がり、アイオロスの額に手を当てる。
冷たさの残る手の甲に手を重ねようとしたが、ひらりとかわされてしまい。
苦笑を浮かべたまま、長い髪と法衣の袖が翻しながら遠ざかる後ろ姿を見送る。
サガは扉を開け、何事もなかったように神官に何かを囁いた。
聖戦の終結後、女神・冥王・海皇の間で協定が結ばれた。
勝者である城戸沙織の主導により、三界で死した闘士たちは転生を経ず、記憶と人格を保ったまま復活することになった。
なお、勝者の特典として、シオンとアイオロスには希望する年齢の姿での復活が許された。シオンは18歳、アイオロスは27歳の姿である。ただしシオンは、サガの乱によって削られた13年分のみの復活にとどまった。
聖域では、本来の姿であるアイオロスが教皇に就任。サガが補佐を務め、彼らのもとに黄金・白銀・青銅聖闘士たちが集う体制が築かれた。
沙織はグラード財団の長としての役目に加え、学業にも本腰を入れるようになった。日本を拠点に聖域へリモートで指示を出し、長期休暇にはギリシャを訪れるという生活を送っている。
日本滞在中は城戸邸に住み込んでいる瞬に加え、黄金や白銀のいずれか一人が定期的に交代で警護することになっており、ちょうど今日明日辺りにもアイオリアが滞在を終えて戻ってくるはずだった。
続く