写真の中なら、許してね「軍服以外もなかなか様になるではないか、月島ァ」
明らかに上機嫌な鯉登少尉の言葉に、どんな皮肉だと鼻白む。
長い手足に、上背もある。顔立ちも整っている。左頬に刻まれた向こう傷は美観を損ねるどころか、凛々しさを際立たせるの一役買っていた。
黙っていれば美丈夫で通る年下の上官に「様になる」など言われた三十路の下士官がささくれだった気持ちになるくらいは許して欲しい。
朝から用があると兵舎から連れ出されてやってきたのは旭川町内にある写真館。訊けば、私用で写真を撮ると返ってくる。釣書の写真でも撮るのだろうか。であれば、俺を連れてくる必要はないだろうが、この時勢に一人で出歩くのは不用心が過ぎるので、護衛として連れてこられたのだろうと勝手に解釈する。俺であれば、他所に漏れる心配もない、という腹積もりもあるだろう。当然の話ではある。俺はこの人の右腕なのだ。
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