指先で送るキミへのメッセージ「あっ、種ヶ島せんぱ〜い……」
「何や赤福、そないげっそりした顔して」
種ヶ島が飲み物を買いに廊下に出ると、青い顔をした切原がふらふらと歩いていた。声をかけた途端、みるみるうちに捨てられた仔犬のような表情になって泣きついてくる。
「さっき、遠野先輩とすれ違ったんスけど……」
「篤京?へえ」
「めっっっちゃ怖かったんスよ……ニタァって笑いながら歩いてて……」
ぶるり、と身体を震わせながらまるで怪談を話すような切原の語り口に、種ヶ島は思わず笑いそうになった。そういえば、つい先ほどラウンジで遠野が君島に一方的に処刑の話を捲し立てているのを目撃したのだった。相変わらず君島は嫌そうに眉を顰め、遠野は喜色を浮かべてアイアンメイデンがどうの、ギロチンがどうのと滔々と語っていた。
なるほど、と納得したのだが、可愛い後輩を少し揶揄いたい気持ちがむくむくと湧き起こってきてしまった。悪癖だと思いつつも、つい遊んでしまう。
「ははーん、それはな……恋しとるんや」
「げえっ、遠野先輩がぁ⁉︎」
あからさまな反応を見せる切原に、堪えきれず噴き出した。一度堰を切ると止まらない。ひーひーと腹を抱える種ヶ島に、切原はおちょくられたのだと頬を膨らませる。
「もー、揶揄わないでくださいよ!あんなのどうやっても恋する人のカオじゃないっしょ」
「そんな、篤京を妖怪みたいに……っはは!」
「ちょっと、笑ってるじゃないっスかー!」
ぷりぷりと両手を挙げて文句を垂れる後輩は、やっぱり可愛い。種ヶ島はふわふわの癖っ毛を撫で回しながら、今頃遠野はくしゃみでもしているだろうかと思いを馳せた。
(……ま、嘘ってわけやないと思うんやけど、な)
End.